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第3話:サイラスの家

 マリサはサイラスと連れ立って、荷馬車まで戻った。

 オバケキノコが無事退治されたと知ると、客たちは安心したように馬車に乗り込んだ。


「お兄さんが退治してくれたのか!」

「ありがとう!」


 御者ぎょしゃや客たちから誉められても、サイラスは軽くうなずくだけだった。

 彼にとって、あの程度の魔物を倒すのは当たり前のことのようだ。


(そりゃあ、噂の黒騎士だもの。強いはずよね……)


 マリサが馬車に乗り込むと、黒馬に騎乗したサイラスが近づいてきた。


「町まで併走する」

「はい!」


 馬に乗ったサイラスがそばにいるだけで、緊張がほぐれ温かいものが胸に満ちる。

 マリサは他の客たちと世間話をしながら馬車に揺られた。

 しばらくすると、見上げるような門が見えてきた。

 大きな看板に『冒険者の町、サニーサイド』と書かれている。


「サニーサイドに着いたぞ!」


 客たちもはずんだ歓声を上げる。

 馬車を降りると、馬を預けてきたサイラスが駆け寄ってきた。


「荷物を持つよ」

「あ、ありがとうございます」


 さっきの魔物騒ぎのショックを引きずっているのか、手にうまく力が入らない。

 マリサは甘えることにした。

 トランクを手にしたサイラスと共に町に足を踏み入れる。


「何これ……王都並みだわ……」


 マリサは目を見張った。

 大勢の人が行き交う町には、ずらりと店や家が建ち並び、活気があった。

 道行く人の髪や肌の色も様々で、言葉は共通語のルーン語が便利で使われている。


(これなら、私も馴染めるかも……)


 悪評を広められ、追放されたマリサは元いた大陸で居場所がなかった。

 そのため、わざわざ最果てと言われる町まで来たのだ。


(そう言えば……サイラスさんはなんでこの町に来たんだろう)


「あの、サイラスさんはサニーサイドに移住して来られたんですか?」

「ああ。半年ほど前に」

「……」


(ゼルニア王国で何があったんだろう!? すごく聞きたい! けど、会ったばかりなのに詮索できない……)


 マリサはもやもやしながらサイラスの隣を歩いた。


(あれ?)


 マリサはサイラスが左手の甲に包帯を巻いていることに気づいた。

 さっきは手袋をしていて気づかなかったのだ。


「あの、怪我けがをされてるんですか……?」


 マリサの言葉に、サイラスがすっと手を隠す。


「気にしないでくれ」


 固い声だった。


「すいません……」


 どうやら聞かれたくなかったようだ。

(私だって秘密がある。ちゃんと距離を取らないと……)


 賑やかな大通りを抜け、校外へと歩いていく。

 しばらくすると、緑豊かな住宅街になった。


「ここだ」


 サイラスが足を止めたのは、明るい水色の屋根が印象的な二階建ての一軒家の前だった。

 一人暮らしのようだが、それにしては大きな家だ。


「すごいですね。真新しい……」

「できたばかりでな」


 サイラスが裏手に回る。


「こっちだ」


 なぜ裏口から入るのだろう、という疑問に、サイラスがすぐに答えてくれた。


「住居スペースは二階だけだ。一階は店舗にする」

「そうなんですね!」


 どうやら店兼住居なので、大きめの家だったようだ。

 元騎士の人が店を出すなら武具屋だろうか。


(後で見せてもらおう……)


 裏口から中に入ると、そこは台所だった。

 台所の脇にある階段を、サイラスに続いて上がっていく。


「ここだ」


 サイラスがドアを開けると、何もない空っぽの部屋が目に入った。


「倉庫にしようと思っていた部屋なんだ。すぐにベッドを用意する」

「は、はい」

「悪いが俺の部屋で待っていてくれ。サニーサイドの紹介本もあるから、それでも読んでいるといい」


 部屋を指し示すと、サイラスは階段を下りていく。


(自室に通してくれるなんて……私のことを信用してくれているのね)


 疲れていたマリサは遠慮無く、教えてもらった部屋のドアを開けた。


「わあ……」


 無駄がないというか、どこか素っ気なさを感じる無骨な部屋だ。

 余計な装飾が一切ない。

 大きなベッド、戸棚、そして小さなテーブルと椅子がある。


(引っ越してきたばっかり、って感じ……)

(新しく家を建てたのかなあ……)


 マリサはついつい余計なことを考えてしまった。


「カーテンも真っ白で清潔感があるけど、何か色味があってもいいなあ。壁や棚の上にも何か飾れそう」


 椅子に座ると、マリサは『サニーサイド案内』と書かれた本を手にした。


「町の最奥にダンジョンがあり、一攫いっかく千金を狙う冒険者たちが集まって次第に大きくなった町がサニーサイド……」


 町を取り仕切っているのは冒険者ギルドと呼ばれる組織で、ダンジョン関連だけでなく町の自治も担っているらしい。


「困ったときは、冒険者ギルドを訪れるといい、か……」


 ギルドの本部は酒場と宿屋を併設した大きな建物で、仕事の斡旋あっせんおこなっているらしい。


「私、冒険者じゃないけど大丈夫だよね……」


 さっそく明日、行ってみようとマリサは心に決めた。


(しばらくはここでお世話になるかもだけど……せめて食費は払いたいし、お金を貯めて自立しなきゃ……)


 すべてが初めての試みだ。

 これまで、聖女令嬢として暮らしてきた自分がやっていけるだろうか。


(ううん、やらなきゃ……)


 国を追放された今、マリサは何の肩書きもないただの女性だ。

 そのうえ、ほぼ無一文ときている。


(でも、サニーサイドまで来られた……)


 マリサは国を追放された時のことを思い出した。

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