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第28話:サイラスの思い出話

 寝間着に着替えたマリサは部屋に入った。


「じゃあ、お邪魔します」


 既にサイラスはソファの上に、エヴァはベッドの上にいる。

 マリサはランプの明かりを消すと、そっとベッドの中に入った。


 エヴァが身じろぎをして、スペースを作ってくれる。

 だが、一人用のベッドにふたり並ぶと狭く、体がぴたりとついてしまう。


「大丈夫? 窮屈じゃない?」


 どうやらお嬢様育ちらしいエヴァを気遣って言ってみたが、エヴァは嬉しそうに首を振った。


「人の気配がある方が安心するから!」

「そう……」


 マリサはちらっとソファを見た。

 サイラスが無言でソファに横たわり、ブランケットをかけて目をつむっている。

 どうやら一瞬で寝入ったようだ。


(さすが元騎士の方ね……)


 戦場では野外で寝ることもあると聞く。自然とどこでも眠れる癖が身についているのだろう。


「サイラス、寝ちゃった?」


 こそっとエヴァがささやいてくる。


「たぶん……」

「じゃあ、ちょっとお話ししない?」

「え、ええ」


 エヴァの顔が間近まぢかにある。

 暗い部屋でもエヴァの瞳が興味でキラキラと輝いているのが見てとれた。


「マリサとサイラスって、どうやって知り合ったの? なんで同居することになったの?」


 どうやらずっと気になっていたらしい。


(そうよね。憧れのクールな従兄がいきなり女性と同居していたら、びっくりするわよね)


「ここに来たばかりの時に助けてもらって……」


 マリサが事情を説明する。


「サイラスさんがカフェをやるって聞いて、雇ってもらうことにしたの」

「それで一緒に暮らして、同じ店で働いてるのね」


 エヴァがじっと見つめてくる。


「まるで夫婦みたいよね」

「えっ、そんな……」

「マリサさんは、サイラスのことをどう思ってるの?」


 エヴァが間髪いれず、直球を放ってきた。

 絶対に嘘は許さないというように凝視してくる。


「すごく……頼りにしてしまってます。優しくて、一緒にいると安心できて……」

「それって男性として好きってこと?」


 マリサは顔が赤らむのを感じた。


「わかりません。魅力的な人だとは思いますが……」


 正直な気持ちだった。


(わからない……。恋ってどういう気持ちなのか)


 婚約はしていた。ロイドから告白されて嬉しかった。

 だが、それが恋だったかというとおぼつかない。


(恋ってもっと激しい気持ちのような気がする……)


「ふうん」


 マリサの戸惑いが伝わったのか、エヴァはそれ以上聞いてこなかった。


「エヴァさんはサイラスさんが好きなんですか?」

「うん! 子どもの頃から、ずっとお嫁さんになりたかったの!」


 マリサの口調は屈託なかった。


「なのに、誰も本気にしてくれなくて。十八歳になったら縁談まで来るようになって!」


 唇を尖らせるマリサは、年齢より幼く見えた。

 彼女にとっては本気の恋でも、周囲から見ると幼い憧れに見えてしまうのかもしれない。


「サイラスさんって、故郷ではどんな感じだったんですか?」


 マリサが知っているのは、ここ最近のサイラスだけだ。

 ついつい気になってしまう。


寡黙かもくだけど、優しくて頼りになる人! 子どもの頃からずっと変わらないの」


 エヴァがうっとりと言う。


「親族で出かけた時も、私が足が痛くて歩けなくなったらおぶってくれたり。荷物を持ってくれたり……ナイトって感じ」


 ナイト、という言葉にマリサはドキッとした。


(そういえば、私、サイラスさんに剣を捧げられたんだっけ……)

(あの人は軽々しくそういうことをしないと思うけど、どうして会ったばかりの私に……)


 物思いにふけっている間も、エヴァの話は止まらない。


「別に年上だから、ってわけじゃなくて! 私は兄がいるんだけど、全然頼りにならないし! いつもヘラヘラしてて、サイラスとは大違い!」


 興が乗ってきたのか、エヴァが意気揚々と話す。


「サイラスはねえ、子どもの頃からすごく優秀で強くて。武芸大会でも優勝して、十二歳にして王城の騎士見習いになったの。ぜひに、とわれて!」


(すごいエリートなんだ……)


 本来なら、最果ての町でカフェなどやる人ではない。

 国の中枢にいて、戦況を動かすような人材だ。


(聞けば聞くほど特別な人だ……)


「騎士の叙任じょにん式に私も行ったんだけど、本っ当にかっこよかったんだから……」


 エヴァがうっとりとした目になる。


「漆黒の騎士服を着て騎乗したサイラスに、女性はみーんな見とれていたわ」


 マリサはにこりと笑った。


「でも、今のサイラスさんもかっこいいですよ」


 エヴァが唇を尖らせる。


「知ってるわよ、そんなこと」


 ふたりは顔を見合わせ、くすっと笑った。

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