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第18話:カフェの感想

「怖いですね……」

「ああ。知り合いばかりだから、率直な意見を書いてくれると思うが……」


 ふたりは恐る恐るカフェチケットを裏返した。


「えーっと、紅茶は美味しかったけれど、ミルク付きだとなお良かった……。ああ、そうですよね」


 砂糖壺は用意していたが、ミルクもほしい人もいるだろう。


「忙しいのはわかるが、提供に時間がかかったので急ぎの時は持ち帰りができると嬉しい、か。なるほど……持ち帰りもできるように検討したいな」


 いろんな意見が書き込まれており、ふたりは食い入るように読んだ。


「内装に関しては好評ですね。くつろげる、という意見が多いです」

「逆にメニューに関しては物足りなさがあるようだな。定番以外のここでしか飲めないものがほしい、とか、フードのメニューを増やしてほしいとか」

「そこは追々《おいおい》ですね。ところでサイラスさん、休憩って考えてました?」


 サイラスがぐっと詰まった。


「まったく考えていなかった……」


 マリサはくすっと笑った。


「ですよね。私もうっかりしてました。営業時間をどうするかも思案のしどころですね」

「二人しかいないからな。閑古鳥なら交替で休憩に入れるが、まずないだろうし」

「ええ。町にはカフェが少ないですから、むしろ混むんじゃないかな、と思います」

「レストランなら、ランチタイムとディナータイムを作るとかできるが……」

「カフェですもんね……」


 サイラスがふう、と嘆息する。


「新たに人を雇うのも案だが、軌道に乗るまではお預けだな」

「空いている時間帯に交互に休憩をとって、忙しくなったら戻るとか?」

「俺はそれでいいが、きみは……」

「私はカフェをやってみたかったので、頑張ります!」


 マリサがやっていたのは聖女の仕事も長時間労働だった。

 種類は違えど、女神像に集まるけがれを消し去るまで何時間も祈り続ける毎日だった。


(体力がないわけじゃない……!)


「営業時間はどうする?」

「サイラスさんの目的は『疲れて帰ってきた冒険者がくつろげる店』なんですよね? だったら午後から夜の時間がいいんじゃないでしょうか」

「……確かに」


「お昼ご飯を食べたあと、ふらっと寄れたりすることを考えると、開店時間はやっぱり午後二時くらいにして、閉店は八時とか九時くらい……?」

「いいのか、それで」

「もちろん! 私は可愛くてくつろげるカフェであればそれで」


 マリサは密かに感激していた。

 サイラスは口だけではなく、ちゃんとマリサを共同経営者として対等に扱ってくれていた。


(資金を出しているのも、オーナー登録しているのも、サイラスさんなのに……)


 マリサが全財産を失ったとはいえ、本来ならサイラスが責任を取るべき話でもない。

 でも彼はマリサを見捨てなかった。

 それどころか、カフェで働きたいというマリサの夢を叶えてくれていた。


(何か……恩返しができるといいな)


 その後、ふたりはメニューの検討に入った。


「ここでしか飲めないドリンクか……」


 サイラスが首をひねる。


「あの、差し出がましいですが、チャイを改良するのはどうでしょう?」


 チャイはサイラスこだわりの戦場での愛飲ドリンクだ。

 だが、客たちからもらった感想ではおおむね不評だった。

 いわく、『甘すぎる』、『飲んでいて疲れる』など。


 サイラスが体験した過酷な戦場では有用な飲み物だったのかもしれないが、魔物と戦うとはいえ、日帰りできる冒険者には合わなかったようだ。


「ダメか……戦場では喜ばれたんだが……」


 サイラスががっくり肩を落とす。


「チャイ自体はいいと思うんです。それで一案なんですが、砂糖を少なめにして代わりにスパイスをいれるのはどうでしょう? 疲れが取れたり、血行がよくなるスパイスがありますよね」

「なるほど……!」

「すっきり飲める紅茶と珈琲とは違う、パンチのいた味と効力があるって魅力的だと思うんです」


 サイラスがハッとしたように目を見張った。


「そういえば、ハーブティーも考えていたんだ」

「ああ、あの時もハーブを摘みに来たんですもんね」

「チャイに合うスパイスと、ハーブティーを作ってみるか……」


 サイラスがやる気が出たようで、マリサはホッとした。

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