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第14話:仕事帰り

「仕事はどうだった」


 ダンジョンを出ると、サイラスが声をかけてきた。


「必死でしたが、なんとかやれたみたいです」


 カフェが開店すれば、おそらくサイラスが厨房を担当し、マリサが一人でフロアを切り盛りすることになる。

 注文を取り、料理を運び、テーブルを片付ける――一連いちれんの作業を繰り返したことで、少し自信がついた。


(まだ会計は任せてもらってないけど……それはオーナーであるサイラスさんに任せた方がいいかもしれないし)


「それで、私、気づいたんですが」

「なんだ?」

「制服を作りませんか?」

「制服?」

「ゴッシュさんの酒場では、店員は皆お揃いの黒いエプロンを着けるんです。はっきりお客様と区別がつきますし、素敵な制服にすれば気持ちも上がります!」

「服か……考えたこともなかったな」


 考え込むサイラスに、マリサは仕事中ずっと考えていたアイディアを披露した。


「私には憧れのカフェがあるのですが、店員さんたちはとても素敵な制服を着ていました。なんというか、店員さんも店の一部というか……」

「なるほど。確かに飲食店をするなら、清潔感のある服がいいだろうな」


「あのっ、私がお金を出すので任せてもらえませんか?」

「? あ、ああ、俺はよくわからないから任せる。支払いは俺がするから請求書を回してくれ」

「ありがとうございます!」


 絶対にサイラスに着てほしい服があるのだ。

 マリサは憧れのカフェの店員を思い浮かべた。


 白い清潔なカッターシャツ、黒のベスト、黒のズボン。

 そして腰回りには、胸当てがない丈の長いギャルソンエプロン。

 長身ですらりとしたサイラスなら、きっと着こなせるだろう。


(ああ、あんなかっこいい店員さんに迎えられたら幸せだろうな……)


 自分は胸当てのある白いエプロンがいいだろう。もちろん、レース付きだ。

 女性のお客様が着てみたいと思うような可愛い制服にしたい。

 想像しながら、うっとりしていたマリサはハッとした。


「あの、サイラスさんは探索どうでした? 大丈夫でしたか?」

「強い魔物はいなかったが、第二層は以前よりも魔物が増えていた。おかげで冒険者たちは稼ぎ時だと言わんばかりに張り切っていたよ」


「あの……冒険者ってどうやって稼ぐんですか?」

「大まかに二つ。一つはこれだ」


 サイラスが首から吊したペンダントを見せてくれる。


「このペンダントの石が戦いを記録してくれる。これが討伐の証拠となる。魔物にはランクが付けられていて、ランクと数に応じて報酬が出る」

「これは魔石ですか?」


 この世界には超常の力を持つ存在がある。

 それはマリサのような人が持つ『穢れを浄化する聖女の力』や、この魔石のような物体が持つ力だったりする。

 いずれも希有けうな存在として大事に扱われる。物に関しては高値がつく。


「そう。冒険者として登録して認められると、このペンダントが配布されるんだ。いわばギルド公認の冒険者だな」

「フリーの冒険者もいるんですか?」


「ああ。ダンジョンには財宝が眠っている。それに珍しい金属なども取れる。そちらを目当てにする者もいるが、第三層まで行かないと手に入らない。ほとんどの者が魔物を倒すことによって報酬を得ている」

「冒険者ギルドってすごいんですね……。どうやって運営しているんでしょう……」


 少し聞いただけでも潤沢じゅんたくな資金力と人材がなければないことばかりだ。


「各国から支援金が出ている。ダンジョンから未知の魔物が世に出ないための防衛のためと、後は財宝や情報を得るためだろうな」

「各国間で協定をむすんでいるんですね……」

「よく均衡を保ってコントロールしているよ。ギルドマスターは」


 サイラスが感心したように嘆息する。

 冒険者の町、としか知らなかったサニーサイドだが、思ったよりも世界中から関心を持たれているようだ。

 冒険者ギルドの建物の前に来ると、扉から細身の眼鏡をかけた青年が出てきた。


「サイラス!」


 年の頃はサイラスと同じくらいの銀髪の青年は、ぱっと笑顔を浮かべて近づいてきた。


「ダンジョン帰りか?」

「ああ。討伐隊を手伝ってきた。アランも参加するのか?」

「第三層以降にいるような魔物が上がってきてるんだろ? チャンスだからな!」


 にこやかに笑っていたアランがマリサを見る。


「もしかして、彼女が噂の同居人?」

「リンダに聞いたのか。そうだ」

「マリサです、はじめまして」


 アランが胸に手を当て、丁寧にお辞儀をしてきた。


「ギルド公認の冒険者で魔物研究をしているアラン・シュタインです。どうぞ、よろしく」

「アランとは冒険者仲間だ」


 サイラスが言うと、アランが照れくさそうに銀色の髪をかいた。


「戦闘はからっきしで、ちょっと医学をかじっているから手当ができるくらいなんだ。サイラスみたいな気の良い冒険者がパーティーに加えてくれて助かってる」

「魔物の研究って……」

「ああ。博物誌を作りたくって。この世界で唯一のダンジョンには、他では見られない魔物が存在している。彼らのことを詳しく知りたいんだ。性質や生態がわかれば、役に立つかもしれないし」


 どうやらアランは冒険者というより、学者のようだった。


(ほんと、いろんな人がいるのね……)


「じゃあな!」


 アランがダンジョンに向かっていく。


「サイラスさんって、本当に顔が広いんですね」

「いや、普通だろう」


 謙遜けんそんするふうもなくサイラスが言う。

 冒険者ギルドに入り、ペンダントを見せて報酬をもらうとふたりは建物を出た。


「少し疲れたな。ギルドの酒場に寄っていくか?」


 マリサはびくっとした。

 自分の出自しゅつじを知っているウェイターのヒースに、できれば会いたくなかった。


「それより、他のカフェを見てみたいです!」

「わかった」


 特に異論もなくサイラスが歩き出したので、マリサはホッとした。

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