表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

ジェシーを巻き込まないで!

 その日の放課後、サリーはバクラヴァ5区へ行くバスに乗った。


 特別な用事があったわけではない。だが惑星レチェルの星都バクラヴァ一の繫華街、プープラン通りのある5区には、ロマン・ナダルのメゾン・ド・クチュールがある。憧れのクリスタを初めて目にした場所であり、サリーがモデルになりたいと思い始めたきっかけを与えてくれた場所でもあった。

 そこに行ったからといって事態が好転する保証などなかったのだが、ただあの場所にもう一度行ってみたいという衝動がサリーを動かしただけだった。





 動く車窓をぼんやり眺めながら、サリーはジェシー・キクチの言葉を思い出す。


(そんなことねぇさ。ただ自信が無いだけなンじゃねぇかって思うけどな、俺は)


 彼はそう言ったけれど、サリーはその言葉をそのまま信じることが出来なかった。せっかくジェシーが励ましてくれたのに、それを素直に受け取れない自分が偏屈で嫌な人間だと思う。戸惑ったまま、歯切れの悪い返事を返すのがやっとだった。


 さらにタイミングの悪いことに、そこへいつものいじめっ子たちがやってきた。目ざとくふたりを見つけると、獲物を見つけた猟人のような顔をして近寄って来る。


「よう。ちびとのっぽがなに話してんだよ」

「ちびとのっぽが話すことなんて、どうせ背丈のことだろ」


 そう言ってゲラゲラと笑いだす。教室にまだ残っていた生徒たちは、迷惑そうにトラブルを眺めているだけだった。いじめっ子のリーダーが札付きのワルで、サリーの様に目の敵にされると卒業までずっといじめの対象になると知っている。心の中ではいじめっ子たちの行為を非難していても、表立って彼女を擁護することは躊躇(ためら)っていた。


「なんかさぁ、最近ちびがちょこまか動き回って目障りだし、相変わらずのっぽはそこに突っ立ているだけで邪魔だしなぁ」


 品のないにやにや笑いを張り付けた顔で、わざとらしく教室中に大声を響かせている。数人の生徒たちが、迷惑そうな顔をしてそそくさと出て行った。理由もなく、他人を不快にするのが愉快なだけの彼らと言い争うのは不毛でしかない。騒ぎが大きくなる前に移動しようとふたりが席を立つと、即座に粗暴な者たちは無思慮な言葉を投げつけてきた。


「やーい。ちびとのっぽが並んで歩くぞ! すげぇな、頭ひとつ分は差があるじゃん」


 嫌がらせ行為はいつものことだが、今回はジェシーまで巻きこんでしまった。申し訳なさに悲しくなったサリーの顔は、見る間にゆがみ始め、背を丸めてうなだれる。その反応を見たいじめっ子たちは、してやったりと勝ち誇り、また傷つけるような言葉をいくつも口にしたのだが、それにはジェシーが黙っていなかった。


「うるせぇな。それがどーしたってんだよ。お前らに迷惑はかけてないだろ」

「ばーか。存在自体が迷惑なんだよ」

「それに、そいつ。モデルになりたいとか考えてんだって!? バカじゃね~の、ブスがモデルになんかなれるわけないだろ。のっぽがみんなモデルになれるわけじゃねえって、わかんねぇバカだからさ」


 そう言って、サリーを指さし嗤った。周囲がざわつく。

 当のサリーは恥ずかしさと怒りで一気に顔に血が上り、次にその熱が一気に下がるという症状を起こしめまいを誘発していた。なんとか足を踏ん張り卒倒するのだけはこらえたが、周りの生徒たちがみんなして自分を嗤っているような錯覚に陥り、震えが止まらなくなった。

 大丈夫か、というジェシーの声にさえ、びくりと飛び上がってしまう。


「なんてこと言うんだよ! サリーはバカじゃねぇ、夢に向かって努力してんだよ。嘲笑うお前らの方が、余程バカ面してんじゃねーかっ!」

「おっ、ちびが反論してきた!」

「なんだ、こいつらデキてんのかよ!」


 のっぽとちび、といじめっ子たちは口を合わせて囃し立てる。


「ばかー!!」


 いつもはおとなしくいじめられるがままのサリー・クーパーが、その日は怒声を放った。

 そして手にしていた教科書やバインダーの束を、いじめっ子のリーダーに向かって投げつけたのである。ぶつけられた男子も、取り巻きも、ジェシーさえも驚いて、口をぽかんと開いたままサリーを見ていた。


「ばかばかばかっ、そうよ、ばかよ。いいじゃない。無理だってことは、自分が一番よく知っているわよ。でも夢見ることは自由でしょ。なりたいって思って、手を伸ばしてみるくらいの自由はあるでしょ。どーしても、あたしはクリスタみたいになりたいって思っちゃったんだもん!!

 ダメだったら、ちゃんとあきらめるんだから……それまで、いいじゃない……」


 最後は涙声になり、嗚咽へと変わっていく。ザワザワと不穏な空気が、教室の中を、さざなみのように広がっていくのを肌が感じた。

 ジェシーがなにか言っているようだが、サリーの耳はそれさえシャットアウトしていた。

 

 夢を侮辱されたことが悔しくて、反論できない自分が情けなくて、何よりもどこかで夢は叶わないものだと諦めていた自分が情けなくて、サリーは大声で泣き出してしまった。



おねがい <m(__)m> (実験中)


お読みいただきありがとうございます。もし「面白いな」もしくは「面白いかもしれない」と思ってくださった方、「感想は面倒くさいけど足跡を残したいな」と思われた方、




 ( •ॢ◡-ॢ)-♡




お手数でなければ、こちらを貼ってみてください。励みになります。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テスとクリスタ ~あたしの秘密とアナタの事情
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ