セールスポイントって、どうすればいいの?
「なかなか順調くはいかないものね。やっぱりあたしには、無理なのかなぁ」
サリーは大きなため息を吐いた。
応募したあるティーン向けのファッション誌の、読者モデルの一次審査通過者の発表があったのだが、その中にサリーの顔写真は無かった。履歴書の書き方も工夫して、写真もこれまでで一番かわいらしく写っていたものを同封したので、今度こそはと期待をかけていたのだがまた落選してしまった。
「ダメよ。サリーが諦めちゃったら、夢は逃げちゃうのよ。まだ始めたばかりじゃない、弱音を吐くのは早すぎるわよ」
「モデルってのは、そう簡単になれるもんじゃねぇんだよ。わかっていてやってんなら、5回や6回の落選がなんだっていうんだよ」
シンシアとロブが慰めてくれたのだが、サリーは不満でついつい唇を尖らせてしまう。
サリーを応援するためシンシアがクーパー家を訪ねる機会が多くなり、そうなると自然とロブとも顔を合わせる機会も増え、いつの間にかこのふたりの仲は進展していたらしい。妹としては次兄ロブの幸せな顔を見るのはうれしいことだったが、肝心の自分の夢が停頓したままでは手放しで喜べない。
「そうだわ。クリスタの所属しているモデル事務所『トゥロンモデルエージェンシー』、そこへは履歴書を送ってあるの?」
もちろん、真っ先に履歴書を送った。『トゥロン』に所属できれば、クリスタに会えるチャンスはかなりの確率でアップするからだ。だが事務所からはなしのつぶてで、今のところ何の反応も送られては来ない。大手の事務所だし、ダメ元と割り切ってはいるが、やはり反応がないのは見込みなしと云われているようでさみしい。
「もっとスタイルを磨いた方がいいのかもなあ」
ロブの意見は正論だろうが、その方法までは彼にはわからない。八方塞がりだ、とサリーは頭を抱えた。
最もスタイルだけ磨いても、きっと憧れのひとは振り向いてくれないだろう。クリスタはロクム・シティのカヌレ総合大学の学生でもある。学業の方も疎かにはせず優秀なのだとか。
彼女のようになるには、勉学の方も頑張らなければならないだろう。シンシアも言っていた、メッキはすぐに剝がれる。中身が無ければトップモデルにはなれないのだ。そう思えば苦手な数学だってがんばれる。
デザイナーのロマン・ナダルに認めてもらえなければ、クリスタと一緒にランウェイは歩けない。
「ひとまず今度のプレゼンテーションをバッチリ決めて、成績をAクラスから落とさないようにするわ。なにがなんでも、クリスタと同じカヌレ大学へは入学するんだから!」
その夜も、パックをしながら、授業のおさらいに余念がないサリーだった。
なかなかオーデション合格の通知がないのも悩ましいのだが、サリーにはもうひとつ、誰にも相談できず悩んでいることがあった。
思春期をむかえ同学年の女友達たちはどんどん大人っぽく、女らしい身体付きになるというのに、彼女は今だ少年のようだった。身長の方はその後も順調に伸びているのだが、肉付きの方はそれに追いつかなくて、スレンダーというよりひょろひょろと表現した方がしっくりくるような体型だ。
モデル志望としては細身の方が望ましいのだが、あまり細すぎても不健康に見えるからと、オーディションやコンテストなどでは好評価は得られないらしい。隣人のシンシアは年頃の娘らしい、柔らかな丸みのあるプロポーションの持ち主で、サリーはそれが羨ましくてたまらなかった。シンシアは15歳、自分もあと2年すれば、もう少し女の子らしい身体つきになるのだろうか。希望を捨てたくないが、難しいと考えてしまう自分もいる。
サリーにはふたりの兄がいるが、遺伝の法則を見るかのごとく、三人はそっくりな体型をしていた。憧れのクリスタのヘアスタイルをまねてサリーが髪を短くしてから、兄妹はますますそっくりになり、兄たちと並んで歩いていると弟に間違えられる。兄たちは喜ぶのだが、サリーはちっとも嬉しいとは思えなかった。
女性らしい魅力に乏しいと云われているようなものだ。
シンシアは「ボーイッシュなのも魅力のひとつよ」というが、彼女にそう言われても素直にうなずけない。
「だって、シンシアはとても女の子らしくて、かわいらしいんですもの」
容姿も美形というわけでもないし、プロポーションにも色気がないとなれば、どこをセールスポイントにすればいいのだろう。
これといった特技もないし。楽器でも引けたなら、オーディションやコンテストで大きなポイントになるだろうが、あいにくサリーはギターもピアノも、歌もダンスも得意ではない。
そんな時、選択科目の授業でたまたまジェシー・キクチと隣の席になった。サリーの高身長を羨ましがった、あの男子だ。
高い低いの差はあれ、成長期の同じような悩みを抱えるふたりである。なんとなく悩み相談が始まった。
「あ~。特技がない、目立たねぇ、なに言っての?」
ジェシーが顔をしかめた。
「十分目立ってんじゃん。目立っているから、いじめの対象になんだろ?」
「でもオーディションの選考じゃ目立たないんですもの」
「だからってむりやり特技を作る必要があんの?」
「セールスポイントになるわ」
「はぁ、なるほどね」
彼がもっともだ、とうなずいた。
「だから、なにか特技が欲しいのよ」
力説するサリーにジェシーが何か言おうとした時、教室に教師が入って来た。そこでその話は一旦保留となったが、授業が終わるとジェシーが口を開いた。
「俺さ、背が低いってすげぇコンプレックスだったけど、背が低いなら低いなりにやり方があんじゃねえかって考えたんだ。確かにバスケやバレーなんか、身長のあるやつの方が絶対有利だよな。でもさバスケのPGとかバレーならリベロなら、そこまで高身長でなくたって視野の広さとか俊敏性とか、あと度胸と技術があればできんじゃねかって思ったワケよ。そりゃあ、口で言うほど容易かねぇだろうけど。めっちゃ努力しなきゃなんねぇだろうけど、試合に出れなきゃ評価もされねぇからな」
確かにジェシーは小柄だがその分俊敏で、頭の回転も速く、機転が利くタイプであった。チームメイトの信頼さえ勝ち取れば、司令塔としてゲームを構成していく役目は適役かもしれない。
「身長低いってだけで、いつまでも馬鹿にされんのはイヤだからな」
「すごいよ、ジェシー! あたし応援する、あんたならきっとできるよ」
「努力なら、おまえだってしてンだろ」
「成果はナシだけど」
「そんなことねぇさ。ただ自信が無いだけなンじゃねぇかって思うけどな、俺は」
そんなことない? 自信がないだけ……?
サリーはまじまじとジェシーの顔を見てしまった。
おねがい <m(__)m> (実験中)
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