シナリオ
「それはいけません。もし王族がいると知れれば平民は黙ってはいないでしょう。あなたは袋叩きにされてしまう!もしばれなかったとしても兵達が集ってくるでしょう・・・・・・女だと・・・・・・。」
あたしをどうやらとても心配しているらしかった。
「あたしに会うのはもう嫌?」
「そういうことを言っているのではありません・・・・・・ただあなたが・・・・・・」
まだ何か続けようとするラドーマの顔を覗き込み、もう一度言う。
「嫌?」
すると彼は戸惑ってすぐにあたしから目を逸らし、血色の悪いその顔を微かにピンク色に染めた。
「い・・・・・・嫌じゃないですよ・・・・・・でもやっぱりおかしいとは思いますけどね・・・・・・平民と王族なんて。」
やっぱりみんな位に拘るのね。
大臣達と変わらないのかしら。
「言ったでしょう?今のあたしはすべてを捨てたただの平民だと。それともあなたは仲間を呼んであたしを袋叩きにするかしら?」
するとラドーマは驚き、あたしをちゃんと真っ直ぐに見た。
「何を言ってるんですか!ぼ、僕はただ・・・・・・。」
ただ、の先からラドーマは何も言わない。
思いつかないのかもしれない。
それか言ってはいけないと思っているのかもしれない。
どちらかかはラドーマに聞いてみなければわからないけど、あたしはとりあえず話を進めることにした。
「冗談よ!ラドーマ、ではまたいつか。明日も会えると嬉しいわ。さよなら。」
「・・・・・・さよなら。」
そんなラドーマをただ微笑んで背を向けて歩きだした。
さて、本題に戻らなくては。
城に侵入して、姉なら次元を越えてきたあたしの言うことも信じてくれるだろうし、そこら辺は問題ないわけなのだけど、いくら城内を知り尽くしているとはいえ、こんなにすんなり入れていいものなのだろうか。
警備はくるけど物陰にうまく身を隠しさえすれば探そうともしないし、気付きもしない。
慣れてしまってもうスリリングだとさえ思わない。
さて、王女は王女の椅子に座っているかしら?姉はメイド最高位としてやっぱり椅子に座っているかしら?
それとも、殺される終焉を今もどこかで待っているのだろうか。
待っていないことを望むことしかあたしにはできないけど、なっていたとしたら、君はやはり、幸せにはなれないから。
元々王族ということを知らずにあたしの支配下につき、あたしを恨む日が続く中で事情を知る一部の大人は君を操り人形にするために前々からシナリオを作り、君に教え込んでいた。
それは君があたしからあたしの大事な何かを奪う事。
それから君の気持ちがどこにもない茶番劇が始まり、やがて王女の言い付けとして殺されるシナリオ。
どこにも君の気持ちはない。
終焉ことだけのために生かされた命と知りつつも君は亡国を革命でなんとかしようとする頭の切れる者たちの中でやはりシナリオに逆らえずに早く終わらせてと願うのだろう。
以前見た君がそうであったように。
そんな結末はいらない。
どうして人間には負の感情や快楽、欲望といった感情があるのだろう。
人間が動物と同じで生きるために最低限のことをして生きている生き物ならよかったのに。
“呪いの双子”?“亡国を救う革命”?“そのための生け贄”?ふざけないで。
そんなの大人の勝手な事情でしょ。
大体子供と言っておきながら子供じゃないんだから自分で考えろって、どーゆーこと?
子供って立場を利用する大臣達に、子供じゃないんだからとあたしを責め立てる平民たちの自称“革命軍”なんなの?
みんなはあたしに何を望むの?
知らないことが罪なの?
知っているのに知らないふりをするほうがよっぽど罪じゃないの?
何か作戦でも・・・・・・考え付かないかな。
正方向から大臣達に立ち向かったってダメなの。
それはあたしが前王女と同じ運命を辿る事になる。
あたしたちは双子。
あたしが逆らえば次の王女の座は君。
そうなればあたしはいらないから母や父のように大臣達の策略に貶められてあたしは死ぬでしょう。
毒を盛られたり、寝首をかかれたり。
そしてあたしが殺されたら君が逆らえるはずもない。
だって怖いじゃない?誰だって死ぬのは。
死んだものは生き返らない、これ、常識中の常識で、自然界における摂理でしょ?
例えばあたしたちみたいに事件で死ぬのなら死の間際から遠ざけることはできてもいつかは死ぬ。
で、やっぱり知らないところは怖いから、大臣達の思惑通りになって結局革命は起きる。
双子は王位継承者であり、すべての権力を握っているように見せるためのフェイク・・・・・・つまりはお飾りで、いのままに操られ残酷な終焉から逃れる方法を探している。
いや、探すことしかできない。
探すことをやめる日は・・・・・・くるだろうか。
「・・・・・・よいな、誰も近付ける出ないぞ。」
「・・・・・・はい、承知致しました。」
大臣・・・・・と・・・・・・姉・・・・・・!?
姉がメイドなら最高位の椅子に縛り付けられてるわね。
ならあたしは王女の椅子で終焉を知らずに過ごしているだろう。
そういえば、なぜどの世界でも何故あたしが王女に選ばれるのだろう。
過去に飛んでみればわかるだろうか。
その場で目をつぶりジャンプをすると城はそのまま、歴史だけが動いた。
混乱を避けるためにあたしは隠れながら生まれた子供を見に行く大臣達を尾行する。
「王女、体調はいかがかな。」
「疲れ切ってしまったわ。そう、双子が生まれたのよ。」
「頑張ったね。」
まだ数回しか見たことのない自分となんら変わらぬ年の父と母。
王は王女の手を握り、二人は幸せそうに笑う。
この二人も自分達の終焉を知らずにいる。
変えられたらいいのに両親の運命も。
涙をこらえて床を睨む。
過去へくるとこれだからいけない。
あたしは救いたい。
大臣達の野望のために消えていく命を。
すでに起こってしまった事柄でも変えることはできるだろうか。
変えられるなら変えたい。
これからのこの人達の結末も。
大臣達が部屋から出てからもあたしは大臣達の尾行を続ける。
「本当に厄介ですなぁ。」
「やや、実に。王女は二人もいらん。そもそも王位継承者は1人でいいのだ。なのに二人も生みおって。」
「とことんまで我々の妨げになりますなぁ、で、どちらを王女になさるおつもりで?」
「なぁに、左肩にあざがある方にするさ。」
あたしはあわてて左肩を見た。
そこにはもうずいぶんと薄くなり黄色っぽいあざが確かにあった。
このあざのせいで君はいつも悲惨な思いをしなければならなくなる。
時には革命への生け贄、時にはメイドとして。
あたしにあざがあったせいで大臣達の目にとまったのだ。
大臣達は本当にどちらでもよかった。
利用できる間抜けな王女さえ作れれば。
そしてあたしだけが肩にあざがあって、それがたまたま君より目立つ特徴だった。
たったそれだけのことが・・・・・・たったそれだけの事で、あたしたちの運命は決まった。
憎い・・・・・・人の命を貶めようとしながら、それでもなお、どうでもよさそうな顔をし続ける大臣達が・・・・・・憎い・・・・・・!
歯を食い縛り耐えた。
4人、自分達の定めを知らない人達がいた。
その中の一人があたしてその中の一人が君。
最後二人があたしたちの両親。
あたしたちとなんら変わらぬ年の両親達・・・・・・。