奴隷
あたしは思わず自分より背の高い青年を引き寄せていた。
いきなり引き寄せられた青年はバランスを崩してあたしが抱き留める形になったけど、青年はあたしより背が高いのに寄り掛かられた体重はないに等しいほど軽くて、抱き締めた体は見た目よりもさらに細くて骨ばかりだった。
思わず抱き留めた力を緩めた。
骨が折れてしまいそうで怖くて・・・・・・と、同時に彼の手から一つ不恰好な芽の出たジャガイモが落ちて馬車に引かれ、つぶれてしまった。
それが一瞬のことであまりに目まぐるしく起きたために自分でも何をしたのかがあまりよくわからなかった。
いつの間にかあたしから離れた青年は道路につぶれたジャガイモを見ていた。
「あ・・・・・・ごめん・・・・・・なさい。」
いくら萎びて芽の生えたたった一つのジャガイモとはいえ、彼らにとっては必死に掻き集めた命懸けの食料なのだ。
それをつぶしてとてもではないけど食べれないものにしてしまったのだ。
怒られてもし方はないだろうとあたしは身を固くした。
「いえ・・・・・・いえ・・・・・・命あっただけ、それだけでもマシですから・・・・・・ありがとうございました・・・・・・。」
あたしは初めてこの青年は強いのだと知った。
他の人はきっと怒っただろう。
罵っただろう。
やっと掻き集めた命懸けの食料を・・・・・・!と。
なのに怒らなかった。
ここは未来。
革命前の一番ピリピリしている怒りやすく気が荒くなる時代。
なのに彼はまだ、怒りを制御する方法を知っている。
気が優しくてあたしに半分怒られているような形になってもなお、ちゃんと自分を維持し続けることのできる強い青年。
「・・・・・・ねぇ、あなたなら・・・・・・家族の中の一人だけ、誰か願いが叶うとするなら、やっぱり、自分を選ぶ?」
大臣達は誰より何より自分を優先した。
その結果がこれなのだ。
「・・・・・・自分も幸せになりたいけど・・・・・・自分は最後でいいから・・・・・・親が最初に幸せになるべきじゃないかな・・・・・・その次は弟や妹・・・・・・最後が自分・・・・・・だと思いますけど。親が以前みたいに働けたらきっとみんな幸せになれるんですよ。」
青年は微かに笑った。
ああ・・・・・・
「あなたが・・・・・・大臣ならよかったのにね。」
思わず押さえ切れずに口からこぼれた言葉に青年は一度だけ目を大きく見開いたけど、すぐに食べ物に目を落としてからあたしに言った。
「無理ですよ、平民ですし、南の国の人間は北の国の人達の今や奴隷ですから・・・・・・そろそろ失礼いたします、多分、みんな待っているから。」
「またあなたに会いたいわ。あたしはリリアよ。あなたは?」
「ラドーマです。」
アクセントの強い訛り。
あたしはリリアという偽名を使ってラドーマという青年に近づいた。
「また明日もここら辺で会えるかしら?」
「わかりません。就職活動してて、あっちこっち歩き回っているので。」
「じゃあここら辺であたしもうろうろしてるわね。」
ニコリと笑ってそのまま別れる・・・・・・はずだった。