望み
「・・・・・・え?」
「考えた事もないわよね。あそこにいるのはフェイク、裏を操るのはすべての政権を握った大臣達なんて。」
そう、考えるはずもない。
事実を知ればどれだけ悲惨かも、どれだけ操られる運命を過ごしていたとしても。
きっと誰も気付きはしないのでしょう。
憎しみは頂点にいる人ばかり。
本当に操る影はその憎しみを直接受けはしない。
それに・・・・・・王女の首がかかげられた。それだけで、嘘でもかまわない・・・・・・事実さえあればそれは“亡国を救う革命”となる。
その首が本物かどうかなんて関係ない。
ただ、王族や貴族制度は壊れた。
その事実さえあればその首が本物か偽物かなんてどうでもよくて、その首に価値なんかない。
人形として操られ動く操り人形のこの体に意味もない。
価値も意味もないのに、人の野望一つで運命も生死も決められてしまう。
それはあたし達の周りにまで影響を及ぼす。
かつてあたし達を生んだ母が無罪の罪で殺されたところまでさかのぼらなければならなくなってしまうけれど。
現王女の先代の母親である王女は大臣達の企みを阻止するべく働いていた。
無駄な飾りは身につけず、質素な装いをし、大臣達の無駄遣いを阻止し、平民生活を応援する心やさしき王女様。
でもその優しさは平民に一切届くことなく大臣達に阻まれ、さらには疎まれていた。
賢く頭の切れる王女様。
それは大臣の思い通りにならない厄介なお荷物でしかなかった。
だから大臣達も考えた。
北の国の王女を南の国の王子と婚約をさせようと。
王女様とはいえ、彼女はまだ十代。二十歳にもなっていない子供だった。
王女は流行り病で死んでしまったから彼女は若くして王女の座に君臨する。
南の国が欲しい大臣達は名案だと王女がそれだけは逆らえないことをいいことに無理やり婚約をさせ、結び付け、子供を産ませた。
その何も知らない子供を王位に君臨させ、裏で大臣達がいいように操ろうとしていた。
なのに生まれたのは二人。
王位に君臨するのは1人で十分だというのに二人。
どこまでもうまくいかない王女様。
そして企みの上でも王女は必要なくなり、厄介なお荷物はさらに荷が増えた。
だから抹殺したかった。
大臣達の企みに王も王女も必要なかった。
それに、もうすでに南の国は手に入り、子供も手に入れた。
あとは二人を始末するだけ。
でも相手は頭の切れる王と王女の二人。
大臣達がどうこう太刀打ちできる相手ではなく、なかなか陥れる事は難しかったと聞く。
時間を飛び回るようになって初めてあたしは事実を知った。
きっと姉は知らずにいるだろう。
“現時代も”
「もしかして・・・・・・あなたの助けたい人は・・・・・・大事な人は・・・・・・王女・・・・・・ですか?」
顔を傾けたままそれこそ本当に訝しげにあたしを見ながら青年は言う。
「そうね・・・・・・王女も・・・・・・救わなければならないわね。」
双子として生きるのなら。
「どうしてっ!王女を救うなんて無駄です!冷酷非道で横暴な王女ですよ!?それこそ話を・・・・・・なんて言ったら殺されますよ!」
そんなにひどくないわよ、王女はね・・・・・・。
「・・・・・・誰か・・・・・・殺されたの?」
「たくさんの人が城に出向き、訴えました。でも大人も子供も誰がなんだろうが皆、王女に逆らったとして断頭台に立ち、二度と同じ姿でここに帰ってくることはありませんでしたよ。それ以来誰一人城に出向く者はいません。」
想像しただけでぞっとした。
老若男女問わず、しかも元南も、北も関係なく断頭台にあがる人たちは何を想いながら死んだのだろう。
みんな王女が知らないことをいいことに王女の名を使い、好き勝手にやっているのだ。
兵も、大臣も・・・・・・。
「ひどい・・・・・・なんてひどいことを・・・・・・これもそれも・・・・・・大臣のせいだわ・・・・・・。」
「え?」
「王女は何も知らないのよ・・・・・・いずれ自分が殺されることも・・・・・・国がこんなに荒れていることも・・・・・・。」
そう・・・・・・何も。
知らないことを罪というなら、あたしはいくつ罪をかぶらなくてはならなくなるのだろう・・・・・・。
きっと王女の話は誰も耳を傾けてはくれないでしょう。
今の王女ではないあたしの話なら半信半疑には聞いてもらえても。
それでも殺される事が定めと言うのなら、どうして殺されるのは双子だけなの?
おかしい。
一番悪いのは大臣達なのに。
知らないことを罪というなら、あとどれくらいあたしは平民生活を知ればいいの?
平民達はあたしに何を望むの?
まだたったの十代の王女に・・・・・・何も知らされないようにしている王女に、何を望むのよ?
王位や権力があっても何もできないように椅子に縛り付けられたあたしに・・・・・・何をしろというの?
「へ・・・・・・へえ・・・・・・。」
「ねぇ、あなた達は・・・・・・王女に何を望むの?直接王女に話せるとするなら何を言うの?」
「え・・・・・・。」
あきらかに青年は動揺している。
きっと焦ったのだろう。
焦るはずだ。
こんなに攻められたら誰だって驚くだろう。
「平民生活の改善・・・・・・?」
それは王女一人では無理よ。
「改善は前王女が励んでいたわ。でもそれでも南の国とくっつく前の状態にしかならなかった。王女は大臣達の野望のために殺され、現王女は何も知らずにいるの。自分の親が殺されたことまでも。」
青年の後ろから馬車が来るのが目に入った。
馬車はスピードを変えない。
「危ないっ!」