結末
リアに押し出された大臣達は顔をひくつかせていた。
「王女様?これは何事でしょう。」
「何事?それはこちらが聞きたいわね。リア、証拠を持ってこちらへ。」
「はい。」
「リア?一体なんのことです?」
「それはこちらが聞きたいと言ったわ。」
そしてリアの登場で大臣達は息をのみ、会場はどよめく。
顔も知らぬメイド最高位の座に座るは王女の血縁・・・・・・いや、双子であることはこれで明白となった。
それだけではない、今までリアをあたしに近付けないために施してきた数々の作戦も今、丸潰れとなったのだ。
しかもリアの手の中に存在するのは・・・・・・毒薬。
「はい。こちらになります。」
「ありがとう、隣に控えてくれるかしら?」
「はい。」
横に並べば見るほどに似る。
当然だ。双子なのだから。
「さて、皆さん?あたしが今、手に持っている彼女に持ってきてもらったこれはご存じ?」
透明なビンに刻まれた小さな文字、激薬。
ビンについている説明書を読み上げはじめた。
それはこの毒薬の使い方だった。
匂いも色も味もないのに効き目は絶対。
大臣達の入手手段も押さえ、すべてを説明した。
「・・・・・・そして今夜、あたしがパティーを開くとゴネなければ、あたしの晩餐にはこれが盛られていた。そうね、大臣?」
あたりはすっかりどよめいている。
「な、何をおっしゃいます。」
「そうです、第一どこに我らが毒をもったと?それにそれが毒だという証拠は?」
何見え透いた言い訳を。
「なら、ご自分の体で証言してみては?あなたたち自身が知っているでしょう?あなたはこれを飲み干しなさい?後二人はあたしの席に用意された食物やフルーツを食べる許可を与えるわ。さあ、食べなさい?さあ!どうしたの?遠慮なんかいらないのよ?さあ!」
三人の大臣は首を振り、うなだれた。
会場には新兵もいる。あたしがつれてくるように言ったからだ。
「くそっ!」
トップ3は逃亡をはかった。
「新兵!捕まえなさい!早く捕まえたものには称号を与えましょう!家族を助けたいなら腕の見せ所よ!」
その言葉に新兵は飛び付き、バラバラに逃げた大臣達はすぐに捕まった。
「大臣達を捕まえた兵は後であたしのところに来なさい。さて、これでさよならね、あなたたち三人は平民送りとします。自分達がたらふく贅沢をした分、平民生活をしてきちんと反省することね。」
言い終わった瞬間会場は歓喜の声が上がり、三人の元大臣達の遠吠えはただむなしくかき消された。
そしてどこかの大臣があたしに近づき頭を下げた。
「こんばんわ、何かしら。」
「今宵の王女様のご活躍ぶり、見事にございました。」
「そんなことはどうでもいいのよ、それで?あたしに言いたいことは何?」
「は、あの者達は王女様のお命を狙われたのに、女王様は平民送りと申しました。それは三人の罪があまりにも軽すぎではありませんか?王女様のですよ?それもお命を狙われたのですから、死刑になされたほうがよろしいのではありませんか。」
「それでは大臣達とやっていることが同じになってしまうわ、知っている?あたしの名を語り、貴族や兵が平民に平気でしてきた事の数々を。」
「い、いえ。」
「ふふ、そうよね、知るはずないわよね。でも国民はそろそろ黙ってはいないでしょう。その時革命の生け贄になるのはトップの首。つまり、あたしの首なの。だから大臣にははやく降りてもらわなければならなかった。これで世界が良い方向に転がりはじめたら、きっとすべてが変わるわ。そう、運命さえもね。」
「はあ・・・・・・これは、出すぎた真似を。」
そういって離れていくどこかの新米大臣。
そう、きっと変わる。
もう終焉に怯えることもなくなるだろう。
「さて、大臣がいきなりいなくなってしまったものね、総理大臣として、大臣トップはリア、あなたにやってもらおうかしら。」
「そんな!」
「頭も切れるしあたしも安心できる。あたしは女王として座っているだけだからあたしとあなたの立場はこれで対等になるわね、もう敬語を使わなくていいのよ、リア。さあ、我らが真名を取り戻しましょう。」
そんな大事件から何年かの月日がながれ、王族も平民もなかなか厳しい生活を今だに強いられている。
あたしの名前はアメジスト、リアの名前はエメラルドだと知った。
名前の由来は両親がよく身につけていたお気に入りの宝石かららしい。
あたし達は両親が死んだ年と同じ年になり、後少しで20歳を迎えようとしていた。
そんなとき、ふっと再び未来を見たくなってその場で飛び跳ねると意外にも未来へ飛ぶことができた。
それは近未来。
何かパティーの準備のような大荷物、食料やお酒やらがたくさん城内に運び込まれていた。
とても樽が多くて、家畜入れとされた箱はとても大きい。
何か、する予定だったのかな?
そんなはずないわね、平民の大変さをあんなに知っているのにそのあたしがパティーを開くなんてするはずない。
じゃあやっぱり、この大量の荷物は?
すべての荷物が運びこまれた後、樽も箱もすべてがいきなり開き、中から人が出てきて、城内はあっという間に戦火に包まれ、攻め落とされた。
そう、それはまるで、目の前で一瞬にして起きた・・・・・・“トロイの木馬”
老若男女問わずに死んでいく。
白かった城内は赤や茶色へと変わり、やがてあたしも君も平民の革命軍とやらにつかまり、首を落とされた。
ウソ・・・・・・何故!?
じゃああたしはどうすればいいの!?平民の声に耳を傾け、願いをできる範囲でかなえてきた。
法律だって正してきた!
あとは何をしろっていうのよ!
ううん、これは侵入を防げばいいんだわ。
大量の食料がいきなりくるわけがない。
これからは食料チェックを城内に持ち込む前にすればいいのよ。
毒がないかも調べれば、少しずつでも変わっていくはず。
平民の生活さえ保障するまでになればきっとかわっていける。
そうよね?
あたしがいる時間に戻り、ため息をつくと、ふっと目の前に以前見た少年がこちらにお辞儀をしていた。
こちらはずいぶんと年を取り、大人になったにも関わらず、少年はあの頃のまま止まってしまっているようだった。
「あら、あなたなの?こんにちは。ねえ、あなたは誰なの?どうしてあたしにこの力を授けたの?あたしの無力さを思い知らせるため?」
「いいえ、あなたを救うためですよ。王女様。」
以前会ったときとは全く違う口調でその声や存在はしっかりとしていた。
「あたしを?まあいいわ、あなたのおかげで利口になれたしね。ありがとう。」
「でも王女様。その力とはもうお別れです。そしてこの姿の僕とも。だってあなたにはもう必要ないから。」
「え?」
少年はだんだんと透けていた。
あたしはすごく焦ってしまった。
「ま、まって!あたし、まだあなたに何も!ねえ、また会えるの!?」
「会えますよ、だって・・・・・・」
その瞬間に少年は小さな光のつぶになり、弾けた。
「僕はあなたの息子ですから。」
そう耳元で聞こえてすべてのことが悪い夢だったかのようにあたしは現実に引き戻された。
未来から来たあたしの息子と名乗る少年はきっとあたしを救うためにやってきた戦士だったのだろう。
そして彼はあたしの世界すべてを変えた。
きっとあたしは立派な王女になれたのだろう。
たとえあたしが歴史に残らなくても、のったとして、あたしの名が名無しでも、あたしはこの人生に悔いはない。
そう言いたいわ。
ありがとうございました。




