なったのはいいものの
私、和氣塚 穂乃花はこの世界にて「白魔導師」の称号、職業?をゲットした。 した・・・のだけれど、実際問題なにをすればいいのか不鮮明もいいところで、私は帰り道でずっと悩んでいた。
「本当になにをすればいいのか。」
「ホノカさん。 どうかなされましたか? なにやら物凄く悩んでおられますが。」
「え? あー・・・」
マウスレッドさんに指摘を受けて言い淀んでしまった。
でも足並み揃えて歩いているルビルタさんたちよりも明らかに後方だったし、自分でも分かるくらいに歩行ペースも遅くなってる。
「あの・・・「白魔導師」になられた方は、今でもなにかをやっているのでしょうか?」
なので聞いてみることにした。 勝手の分からない世界ならば、もう聞いてみる他ない。 間違ってはないと思う。
「なられた方、ですか。」
あれ? マウスレッドさんまで言い淀んでしまった。 もしかしてなにかタブーでも触った?
「そんなことを聞いてもほとんど無駄よホノカ。 「白魔導師」って職業自体が実際希少だし、仮になれたとしても、基本的には表立っては来ないもの。」
「表立って来ない?」
「この世界においての治癒魔法というのは、大抵は下級治癒魔法で解決してしまうのですよ。」
下級治癒魔法。 ゲームで言うならばHPをちょっとだけ回復する程度の魔法よね? あとは治癒魔法じゃないけど、味方の攻撃力とか防御力とかもちょっと上げれるって感じの。 それで全部解決するって事は、みんな身体が強いって事なのかしら?
「残念だけど、君が思っているほど、人は強くは出来てはいないよ。」
心を読まれたかのように、ガネッシュさんに的確に指摘された。 私って心読まれやすいのかな?
「ただそうだねぇ。 この世界にも少なからず魔物は存在するし、それの討伐に向かうためにパーティーを作ることもある。」
その辺りも異世界らしい話ね。 そもそも魔王を倒しに勇者一行が向かってるって話があるくらいだから、それもあって当然よね。
「でも白魔導師というのは、回復要因としては重宝されるが、戦力としてはてんでダメだと言われる程に攻撃魔法が放てない。 そんな両極端なせいで、パーティーとして受け入れにくかった。 と言うのが見解だよ。」
「でも先程ルビルタが「白魔導師」は希少だと言ったのは、それだけ適正者がいないことも現してるの。 ホノカさんは誇っても良いのですよ。 自分のその職業に巡り合えたことに。」
カレトさんの言葉に、それは誇れることなのだけれどと思ってしまう。
「まぁ、あれよ。 今すぐになにか出来るなんて思わない方がいいわ。」
「どういう事ですか? ルビルタさん。」
「「白魔導師」というのはそれだけ希少な職業ですし、なにより貴女の事ですのであり得ないですが、言いふらして自分に不利益になるような事はしないことをオススメしますよ。」
私もそんなことはしないしするつもりもない。 そんなお偉いさんになったつもりもないし、魔法の力だって完全に扱えている訳じゃないのは自覚している。 そこに溺れて自惚れる程、私は出来ていない。
「とにかくまずは私達と一緒に学ぶことが大切です。 焦る必要など何処にもないのですから。」
ガネッシュさんはそう微笑み返してくれた。 でも正しくその通り。 知らないなら知るしかない。 それがどれだけ苦痛な世界であろうとも。
「あ、あそこでなにかやってるみたいよ? 見に行ってみない?」
「掘り出し物でもあるでしょうか。」
ルビルタさんとマウスレッドさんが指差す方へと向かう私達。 そこでやっていたのは街の出店とはちょっと違う、バザーのようなものだった。
「いらっしゃいいらっしゃい! 今回も様々な商品を取り扱っているよ! さあさあ見ていった見ていった!」
活気づいているおじさんの前には見ただけでは判断できないような代物ばかり。 本当にどうやって使うのかが分からない。
「お、そこの奥さん。 今その商品に眼が行ったね? そいつは水を瞬時に吸う箱でね。 お子さんがこぼしたジュースなんかも一瞬だよ。 出し入れのオンオフだってできちまう! そこの兄ちゃん! なんか武器でも振るってるのかい? 手がボロボロじゃないか! グリップが悪いんじゃないのかい? このテーピングを試してみな。 変化はあると思うぜ。」
おじさんの完璧な客さばきに、目が行ってしまうけれど、どれもこれも私にとっては分からない代物ばかり。 実際に言われなかったら使い方を知らないまま売られていたことだろう。
「なかなか面白いものが揃っていますが・・・今回は止めておきましょうか。」
「ありゃー、今回はダメだったか。 掘り出し物を見つけた時は、またここにいますんで、今後もご贔屓に。」
マウスレッドさんが呟いた一言におじさんは反応していた。 これだけの喧騒の中で、凄い地獄耳だ。
バザーを抜けたあとも、私の気分は晴れなかった。 結局自分の職業に見合った仕事の手がかりすら掴めなかったから。
「はぁ・・・」
帰り道での足取りが軽くなることなどなかった。 このままでは迷惑になってしまうと分かっていても、いざ他の場所になど飛べはしない。 そんな葛藤が私の頭の中にあった。
「あいたたたた・・・」
そんなことを思っていたらお爺さんの声が聞こえてきた。
「お爺さん、大丈夫ですか?」
「うん? ああ、すまないねお嬢さん。 大したことじゃ・・・あったたたたた。」
とてもじゃないが大したことじゃないとは言い難い。 腰を必要に触っていたので、腰痛なのはすぐに分かった。
「お爺さん。 まずは無理に体を正す必要はありません。 杖もあるので、それを使って座れる場所まで行きましょう。 私も手伝いますので。」
「お嬢さん悪いね。 こんな爺に手を差しのべることなんて無いのに。」
「いえいえ。」
まずは近くのベンチに座らせることにして、ゆっくりとお爺さんを移動させる。
「ありがとうね。 いたた・・・」
「それにしても、どうしてそのような状態でお出掛けを?」
「日課の散歩をしていたんだが、何故だか最近腰を痛めるようになってね。 2週間ほど前まではそこまで気にならなかったのだがね。 ふぅ。」
「・・・お爺さん、なにか急な運動を行った覚えは?」
「いや、これと言って運動はしとらんよ。 身体にガタが来とるのは感覚で分かる。 元々運動はしとらんしの。」
うーん、急な身体の動きじゃない。 となると・・・
「お爺さんって寝相はどうですか?」
「ふーむ、そこまで多くは動かんが、布団から出てしまうことはあるかのぉ。」
「なにかぶつかるものを近くに置いていたりとかは?」
「そこまでは・・・いや、腰を痛める前になにか固いものを運んだ気がするぞい。 それが原因かのぉ?」
私の予想は物を運んだ時ではなく、寝ている時に移動して、その固いものを腰にぶつけてしまったことだろうと考えた。
「あたたたた・・・」
「あぁまだ無理しない方がいいですよ。」
「どうかなさったのですか? ホノカさん。」
そう別方向から声をかけられたので顔を上げると、マウスレッドさん達が向かってきていた。 私が後ろからついてきて無いことに疑問を感じて戻ってきたのだろう。
「ありゃ、どうしたのさドルパ爺。 元気が無いじゃん。」
「この年齢になれば元気も湧かんわい。 あたたたた・・・」
「大丈夫ですか? どうやら腰を痛めているようですね。 歩けますか?」
「心配いらんよカレトさんや。 これは一時的なもの・・・うっ。」
「ああ、無理してはいけませんよ。」
でもこのままにしては帰るのはおろか動くのも困難になるだろう。 なにか出来ることが・・・
「・・・マウスレッドさん。 身体に影響する魔法の中に、痛みを和らげるものってありますか?」
「ありますが・・・なるほど。」
「根本的な解決にはならなくても、少しでも和らぐなら。」
「ではこう唱えてください。 「リリーヴ」と。」
「分かりました。 「リリーヴ」。」
私はお爺さんの腰を中心にその魔法をかける。
「ん? お? おお? 腰の痛みが・・・」
「完全に引いたわけではないですが、効いたのなら良かったです。」
杖を使いながらもお爺さん、ドルパさんはベンチから立ち上がった。
「ありがとうお嬢さん。 日課の散歩が出来そうだよ。」
「いやいや、今日はそのまま帰りなよ。 まだ仕事をしてる身なんだから、これ以上身体壊したら、ホントに戻らないよ?」
「む・・・仕方ないのぉ。」
そうしてお爺さんと別れて、再度家に帰る道のりを辿った。
「マウスレッドさん。 私、自分の成すべき事が、分かったような気がするんです。」
「・・・見つけられたのですね。」
「はい。 今はまだ出来ないけれど、いつか本格的にやってみたいと思いました。 診察所を。」
白魔導師として相手に与える魔法はなにも回復魔法だけじゃない。 人に癒しと安らぎを与えることも出来る。 そんな自分になりたいと心に決めた。 また明日から魔法について学んでいきたいと、私なりの決断がついた瞬間だった。