両親の魔法
「~♪︎ ~♪」
お昼を食べ終えた私達はそれぞれに分かれたのだが、カレトさんが鼻歌交じりに洗濯物を取り込むためにベランダに出ているのを確認して、私もこの家のためになにか出来ないかと訪ねようと思った。
「カレトさん。 私も洗濯物を取り込みます。」
「あら、ありがとうホノカさん。 ですが大丈夫ですよ。」
そう言ってカレトさんが手をかざすと、どこからともなく風が吹く。 そして洗濯物が靡き始めたかと思ったら、今度はその風に乗って洗濯物はカレトさんの隣にある洗濯かごの中に綺麗に折り畳まれて入っていった。 朝にルビルタさんから魔力の流れを習ったからか、その風が魔法によるものだとすぐに分かった。
「凄い。 風を自在に操れるのですね、カレトさんの魔法は。」
「そんなに大層なものでも無いわよ。 私は少しでも楽になれたらと考えてるだけ。 この風魔法も同じ様なものよ。」
そう言葉を紡ぐカレトさん。 でも風魔法も使い方次第ではこうやって使えるんだ。
「あら、私の魔法の使い方が気になるかしら?」
そんな好奇のような目で見ていたからか、カレトさんからお声がかかった。
「す、すみません! 不快に思われましたか?」
「ふふ、いいのよ。 好奇心があることは、魔法使いにとっては重要事項だもの。 気にすること無いわ。」
そう言って貰えると、私も安心できる。 それにしてもカレトさんの魔法からは一切痛みを感じない。 本当に優しい風が吹いていた。
「私、攻撃魔法と言うのがどうも苦手だったみたいでね。 魔法は出せても、戦闘にはほとんど参加出来なかったときは、自分の出来の悪さを痛感したわ。」
カレトさんの背中から、哀愁すら漂わせる気配がそこにあった。 その想いがどんなものかまでは分からない。 役立たずと蔑まれたのか、自分の力の無さに嘆いたか。 とにかく魔法使いとしての苦悩は堪えなかったことだろう。
「でもね。」
そんなことを思っているとカレトさんは洗濯かごを置いて、私に向き直った。
「必死に魔導書を読み漁ってたある日、これが私の魔法なんだって教えられたのよ。 そこから私は考え方を変えた。 それで成績を残せた。 だから私はここにいるの。」
方向性を変えること。 それがどれだけ長い話なのか想像も付かない。 でもしっかりと出来ている。 私、前の世界でここまで出来ていたかな?
「その教えてくれた人物に感謝しないといけないですよね。」
そう言うとカレトさんはポカンとした顔の後に、何故か苦笑をした。
「ごめんなさいね。 教えてくれたのは魔導書なのよ。 読み漁っているうちに見つけた、ね。」
「え?」
「魔導書とは数多くの魔法使いが、書き記して残したとされている書物なの。 そしてその魔導書の中にはその魔法使いの思想を念として込めた物もあるの。」
その話を聞いて私は、本人の意思に関係無く魔導書の力に飲み込まれると言っていたことを思い出した。 確かそう言ったのって「グリモワール」なんて呼ばれかたもしてたっけ。
「そう言った書物って、危険だから別場所に保管してある場合があるんだけど、何せ数か数だから、全部を見ることは出来ないのよ。 おまけに魔導書の数は増えるばかり。 全部を納めるなんて不可能なの。」
「でも悪いものばかりじゃない。」
「そうよ。 私は運が良かったの。 攻撃魔法を使えない私にとっての、第2の道しるべを作ってくれたのだたから。」
道しるべ。 私にもあるのだろうか?
「そうね。 私はみんなへ届く魔法の力があったって、魔導書には言われたわ。」
みんなへ届く魔法。 全体魔法って事なのかな?
「でも私はさっきも言ったけど、攻撃魔法は出来なかったから、味方を守れるような魔法を習ったの。」
「習ったって・・・誰にですか?」
「もちろん魔導書によ。 私の適性魔法は風属性。 あなたの回復魔法には劣るけど、それでも「癒しの風」とかは重宝したわ。 加減は大変だったけどね。 そうだわ。 折角だからあなたも覚えてみない? 今後何かしらの役には立つわよ?」
「そ、それは是非! お願いします!」
人から教えて貰うことは何気に貴重だ。 前の世界では基本的なは独学だったし、なにより回復魔法は多いに越したことはない。 私は出来る限りの範囲で、カレトさんから全体魔法について学んでいった。
「もう少しゆっくりしても、我々は怒らないのだぞ? 君はまだこの場所に召喚されてから1日2日しか経っていないのだから。」
「いえ、私もいち早く皆さんに追い付くためにも、頑張らせてください。」
ガネッシュさんが心配をしてくれているけれど、別に焦っていたりはしない。 だけどこの世界での存在証明のためには、私も少しでも役に立てれるようになりたいと思ったから。 ただ純粋にそれだけなのだ。
「なんて強い力を持った子なんだ。 王子から蔑まれようとも前を見る力。 今の若い魔法使いには無いものだ。」
「そうなのですか?」
「魔法使いの上達に必要なことの1つとして、健全な精神力というものがあってね。 魔法を撃つにしても、悩みがあったり睡眠不足だったりと、精神力になんらかの不具合があると、魔法としてもまともに機能しないんだ。 まぁ最近は健全な精神力何て言うものは、あまり言われないけどね。 ちゃんとした気持ちを持っていれば、大抵は撃てるのだよ。 魔法はね。」
説明が丁寧なガネッシュさんの言葉を聞いていると、なんだか自動車講習に来たみたいだと感じた。 多分似たようなものなのだろうけれど。
「それで、私に何を習いたいのかね?」
「あ、実はガネッシュさんの召喚術、錬金術?って、自分の魔法でも出来るのかなと思いまして。」
「ふむ。 確かに私の魔法は錬金術。 他の次元から特定の使役生物や物質を呼び寄せる魔法だ。 しかし分かっているかもしれないが、召喚をするにも無から作られることはほとんど無い。」
「はい。 「質量保存の法則」ですよね。」
「それが分かっていれば話が早い。 召喚術は闇魔法なのだが、その法則をすっぱりと忘れている若い魔法使いが最近多くてね。 自分の魔力量と見誤った召喚をすることもあると聞いている。 同じ闇魔法を使う魔法使いとしては頭の痛い話だよ」
「それは・・・」
想像が容易いと言えばいいのか、し難いと言えばいいのか分からない。 私にはそんな魔法は使えないし、そうなった人も知らないのだから。
「ふふっ。 なぜ君が病む必要があるのかね。 気にすることはないのだよ。 しかし人の痛みが分かるのもまた、人として優しく感じるね。」
そう言ってガネッシュさんは背中を向けた。
「さて、錬金術についての説明だったかね。 昨日から話していると思うが、私の魔法は錬金術。 そして錬金術とは、闇魔法の「召喚魔法」の派生とも言えるだろう。 質量保存の法則として「召喚士」と呼ばれる魔法使いは対価を払うのが鉄則だ。 これはどんな魔法でも覆らない。」
漫画や小説でも良く聞く設定、というか多分普通の事なんだと思う。 対価があってこそ成果は生まれる。 そう言うことなんだと思う。
「ではその代償はどこから支払われると思う?」
「ええっと、普通なら魔法で生成しているので、自分の体内にある魔力、とか。」
「通常の魔法ならそれでいい。 だが召喚術はそれだけではない。 召喚した魔物も生き物なので供物がいる。 人間の生命維持と同じことをしなければならない。 それが有機物だろうと無機物だろうとね。」
確かにそれは間違えたら大変なことになる。 強いからって召喚するのも危ういんだろうね。
「そして私は普通の召喚が出来ない変わりに、生命体でなければ並大抵のものは魔力のみで生成できる。 それが私の「錬金術」だよ。」
「それじゃあガネッシュさんが作られる物って・・・」
「魔力で生成したものがほとんどさ。 代償が自分の魔力のみというのは、召喚士にとっては、喉から手が出る程欲しい身体能力だからね。」
確かに代償がないのはとても便利な能力である。 それでも・・・
「やっぱり魔法でなんでも作れるって、本当に素晴らしいですよ。 どんな形であれ、それを一瞬で存在させることが出来るなんて。」
これが前の世界だったらどれだけ重宝されるだろう。 それこそ国宝級だ。だって立体建造物や乗り物をなにもない場所から一瞬で作れるのだから。 あ、でもそれじゃあ作るのが仕事の人たちの居場所が無くなっちゃうか。
「・・・回復魔法が使えてここまで人や感性に対して優しさと言う温もりを与える・・・か。」
「?」
「やはり検討するべきであろう。 「白魔導師」のクラスゲットの儀を。 今夜皆に意見を聞こう。」