沼地のストレス
マノさんのサンセトのお陰で歩きやすくなったのと同時に、魔物との遭遇も少なくなっていった。
「魔物は地面から現れることが多いからか、サンセトで焼いた所は襲ってきませんね。」
「元々湿地や沼地が適性の魔物だからな。 乾いた土には寄ってこないんだろ。 お陰で周りを警戒するだけでいいから、大分スムーズに進んでるけどな。」
サイカさんの言うように、サンセトを放ち終わった後ろの道は既に水が染み込み始めているにも関わらず、魔物は私達に襲いかかってくる様子は見られない。 水辺が無くなったこの場所では生命を維持するのがやっとのようにも感じるからだ。
しばらく歩いていると、マノさんの顔色が悪くなっていることに気がついた。
「マノさん。 疲れたら言ってくださいね?」
「はい・・・でも・・・まだ行けます・・・。」
無理をしているようでは無いのだが、やはり疲労感だけは抜けきれていない様子は見受けられた。
「この先に少しだけ陸地が盛り上がっている場所が見えた。 そこで休憩を挟もう。」
ユウシさんの意見に誰が言葉にするまでもなく賛成したのは、みんなの目を見て明らかだった。
「ずっと魔法を使い続けるというのも、それ相応の疲労は伴うか。」
アイルドさんは横になって休憩しているマノさんを見て、そんな感想を述べる。 マノさんが前衛で戦わないことと、私の魔力の無尽蔵さに忘れかけていたけれど、いくらマノさんが魔術師とは言え、魔力には本来限界があるのだ。 最初にこの世界に来た時の私の場合は、魔力の加減がいまいち分からなかったのと、まだそこまで魔力の練度が低かったので魔力が尽きてしまった事態にはなったのだが、マノさんの場合は戦闘にはほとんど参加していなかったこともあって、魔力をうまく扱えきれていなかったのではないかと私は思った。
「どうする? このままマノにばっかり任せるわけにもいかないだろ。」
「それはそうだが・・・かといって砂漠地帯の様に、ホノカ殿の魔法を使うのも少し躊躇われるな。」
「いい作戦ではあったが・・・仕方ない。 今まで通り普通に歩いていこう。 その前にホノカさん。 なにか彼女を楽にしてあげられる方法はないか?」
ユウシさんが私に意見を求める。 マノさんの症状は魔力切れによる疲労。 つまり普通の回復魔法は通じない。 だけど今の私に出来ないことはない。 それにこの症状は旅に出る前に知っているから。
「マノさん。 失礼しますね。」
私はマノさんの手を取った。 そして
「「我に眠る力を他者に与えたまえ トランサー」。」
私が考えた白魔法。 それは自身のなかにある魔力を他者に分け与える魔法。 魔法使いなら魔力が枯渇するのは当然の事。 そしてそれは私も思い知ったこと。 でも私はそこから鍛練を続けた結果、魔力量が増大した。 故にマノさんへ分けるくらいならどうってことはない。
「うっ・・・あれ? 身体が楽に・・・」
「無理に動かないで下さい。 私の魔力とマノさんの魔力が混じりあっているので、簡単には結合しません。 それでも数分すれば馴染んで来ますから。」
「ありがとうございます。 ホノカさん。」
そうして更に休んだ後に、私達は地図を改めて確認して、歩みを始めるのだった。
「スライムはこの辺りから出てくるんだ。」
私が目の前の魔物に思ったのはこの地帯に車で一切見られなかった「スライム」の存在だった。
そもそもスライムとは冒険の冒頭に出てくるのが定番といえば定番だし、魔王へと近付くにつれて、様々な進化を遂げるスライムも知っている。 そしてここは沼地なので、水系の魔物であるスライムが現れる事はなんとなく予想していた。
だからこそ今目の前のスライムはユウシさんが一筋縄でいかないほど強かった。
「気を付けろ! 分裂して攻撃をしてくるぞ!」
「くっ! 斬ったら斬っただけ分裂するから、途絶えることが無いぞ!」
スライムの攻撃が始まると、アイルドさんが盾を構えて攻撃を防ぐものの、数が数だけに抑え込まれるギリギリになりかけている。
なにより地面がぬかるんでいるせいで、アイルドさんの踏ん張りが効かず、どんどん後ろに追いやられているようにもみえる。
「ど、どうしましょう? 私はなにをすればいいのでしょうか?」
「とにかく攻撃をしてみましょう! なんでもいいのでマノさんも攻撃を!」
「はい! 水の魔物なので・・・「乾いた砂で敵を覆え デザーム」。」
その呪文と共に敵の横から白とも黄色とも言える砂の波がスライムの軍団に襲いかかった。 スライムの軍団を飲み込み、その後にはなにも残らなかった。
「さっきの砂でスライムが水分を奪われたのか?」
「そのようだな。 水の魔物ならあの砂は良く吸うだろう。」
「何はともあれ、助かったぞマノ殿。 ワシの盾は特注だからな。 盾の部分以外は直接直さないといけないからな。」
アイルドさんがそう言うように、普通の盾でも大変そうな工夫が色々とされているためか、普通の人には簡単には直せないのだそうだ。 何度か鍛冶屋のような場所はあったものの、アイルドさんは盾を手放ししなかったのはそういうところもあったからなのだろう。
「それにしてもどうしますか? このまま歩いても自分達の体力を消耗するだけでしょうし、なにより身体への負担が大きくなってしまいます。」
沼地を歩くということはつまり、それだけ足下への負担も凄まじくなり、ただでさえ鎧を着ているユウシさんとアイルドさんは足下が沈みやすい。 砂漠地帯でもそんな感じだったのを思い出す。
「だが全ての道をマノに任せるのもおかしな話だ。 ホノカさんの魔法にも限界というものは存在する。 仕方無いがここは普通に歩いていこう。 後はなるべく魔物と遭遇しないように歩んでいくしかない。」
それはみんなが分かっていたことだ。 少しの休憩でまた歩こうとしたその時、目の前からサンショウウオの魔物が現れた。
「くっ! 連続で戦うのかよ!」
「どうやら彼らの住みかに入ってしまったようだな。 アイルドさん構えを!」
「おうよ!」
再度戦闘態勢を取る私達は目の前のサンショウウオへと対象を定める。 するとあろうことかサンショウウオは地面に潜ってしまったのだ。
「なんだぁ!? 出てきて逃げるのか!? 魔物らしく無いぜ!」
「油断するなサイカ殿! 地中へ潜ったのは我々の目を欺くためかもしれん。」
その言葉通りサンショウウオがいた辺りから徐々に地面が盛り上がっている部分がある。
「・・・サイカさん。 後ろに気を付けてください。 恐らく奇襲を仕掛けてくるつもりです。」
「・・・了解だ。」
そしてサンショウウオの魔物は後ろを取ったと言わんばかりに背中から攻撃を仕掛けた。
「おら!」
サイカさんはまずユウシさんとアイルドさんの背中から現れたサンショウウオに両拳をぶつける。 頭を的確に狙ったからか、その魔物は消えてしまったが、まだサイカさん本人の後ろから来たサンショウウオの攻撃が残っていた。
「サイカさん!」
「「裏旋脚」!」
その技で最後のサンショウウオに攻撃を仕掛けた。 当たり所がよく、サンショウウオは消えていった。
「ま、こんなもんだろ。 さ、次に進もうぜ。」
そう言ってサイカさんが先を進んだ。
「この足場の悪い場所であれだけの脚力。 流石だな。」
ユウシさんも納得の足技。 これからも頼りになるだろうと思いながら、ゆっくり歩を進めるのだった。
ここまで読んで貰った皆様にお知らせです。
本日からこの小説の投稿を控えさせていただく所存となりました。
理由と致しましては、話を書く上でのモチベーションが低下したのもありますが、
現在毎日投稿しております小説の方に力をいれますと、こちらの話の内容まで手が回らなくなってしまったからです。
投稿自体はこちらが先なのですが、今の投稿の方が盛り上がりを見せてしまい、集中したいと思った所存であります。
何かの機会があれば復活は致しますが、今はその兆しはないと思ってください。
こんな形ではありますが、自分の小説を今後ともよろしくお願いいたします




