湿地? 沼地?
私達がその湿地帯に足を踏み入れて最初に行ったのは水分補給。 それはもうみんな我を忘れる程勢い良く飲んでいた。 まさしく浴びるがごとく。
とはいえ湿地帯の水など簡単には飲めないし、そのまま飲んだら身体にどんな影響が出るか分からない。 なので私の「アミット」と「ポイケシ」の合わせ技である濾過装置を使って、近くの水溜まりを(一応)安全に飲んで貰っている。
「ぷはぁー! あー! 生き返るー! 砂漠地帯を抜けられて良かったぜー!」
サイカさんが脇目も振らずにガバッと水を浴びていた。 砂漠地帯では水は貴重だったので、シャワーのように水を大量には使えなかった。 そんなこともあってか、身体に染み付いた汗を洗い流すという点では、本当にありがたく感じた。
「太陽の暑さは幾分マシにはなったが、今度は湿気が強くなる。 それに敵の生息もまた変わってくるだろう。」
「ああ。 ここは先程の砂漠と違い隠れられる場所も多く存在する。 盗賊達もなりを潜めていることだろう。 警戒すべきは魔物だけではない、ということだな。」
アイルドさんとユウシさんがそんな会話をしている。 そう言った意味合いではまだまだ危険な旅路なのには間違いなさそうだ。 早いところ街でも村でも、とにかく魔物の驚異が少しでもなくなる場所で休みたいと願うばかりだ。 その願いが簡単には叶わないことを分かっていても。
「・・・とと。 早速お出ましか?」
サイカさんがそう言うと、私達は近くの水溜まりから離れる。 するとそこから泥の手が現れた。 その後に泥の人が水から上がるように現れた。
「この魔物は・・・?」
「泥人間と我々は呼んでいる。 来るぞ! 泥飛ばしだ!」
私達はアイルドさんの後ろに隠れて、泥飛ばしをやり過ごす。 その後にすぐにユウシさんが上空から剣を振り下ろす。 泥人間は真っ二つに割れて、そのまま消えていった。
「おー。 ここまで来るとかなり強敵だと思うのですが、ほとんど一撃で終わりましたね。」
「マウスレッドさんの加護アイテムのお陰ですよ。 それにあいつは頭から斬らなければすぐに元の姿に戻ろうとしますので。」
そう言えば私が教えてからユウシさんは下から掬い上げるような剣攻撃に切り替えたと思っていたのだけれど、流石に弱点が分かっている相手にはそれはしないのかな。
「ま、オレは暑くなきゃ今は関係ねぇや。 とりあえずその辺りで食糧を探さねぇか? 砂漠で腹も減ったしよ。」
言われてみればとみんな思ったので、それぞれ役割を決めてから再度集まることにした。 砂漠での一件でヘトヘトな私達はもう進もうとは思っていなかった。
「しかしこれだけぬかるんでいると、流石に横になっては寝れないな。 芝生があればまだその上で寝れるのだが・・・」
私はユウシと共に食材を集めようと散策はしているが、ぬかるみに足を取られそうになっており、まるで稲を植える前の田んぼのような感覚だ。 改めて見れば木々もそこまで露骨に育ってもいない。
「いいんでしょうか? 私が散策に出てしまって?」
「いざとなればすぐに戻れるし、なによりアイルドさんは休んでて貰いたいからね。 まあこの沼地で身体を休められるかと言われると、微妙ではあるけどね・・・」
「この地帯って雨とかよく降るんですか?」
「いや、ここの土は水捌けがかなり悪いみたいらしく、ほとんど水が地面に吸収されないようなんだ。 それがこの先にある森から川のように流れてきて、森近くになるともっと酷くなる。 なのでこの辺りはまだ湿地で、奥に進めば沼地になる、というわけですよ。」
湿地や沼地となると、植物の環境も変わってくる。 そしてそれが私達にとって害になるかならないかは、色々と試してみなければいけないということだ。
それからしばらくして私達は根元に生えていたキノコ(危険がないかは私が鑑定している)をそこそこの量持っていって、皆さんの元へ戻った。 すると既に何かしらの木の実を取ってきていた。
「お帰り2人とも。 見てくれよこれ! 向こうの方にマングローブみたいな場所があってさ。 その木からこの木の実が取れたんだよ! 食べれるかは分からなかったからまだ口にはしてないけどな!」
サイカさんが元気よく言ってはいるけれど、そこでなにも考えずに食べたりしなかったのは、ちょっとしたギャップを感じたりした。
「まずは鑑定をして貰えないか? 今後の旅路で見かけることも多くなるだろう。」
それもそうだと私は鑑定魔法を発動する。 鑑定魔法に関しては幾度と無く
使ってきたお陰か、無詠唱で鑑定が出来るようになっていた。
表示には「食事に問題なし。 但し同日に5つ以上食すると、12時間の麻痺状態になる。 味は甘味と酸味を有する。 個体によって比率が変わる」と書かれていた。
「食事をする分には問題ないそうですが、5つ以上食べると麻痺症状が出るそうです。」
「なるほど。 なら数個は今後の保存食としておこう。」
これで当面の水分と食糧問題はそれなりに解決しそうだ。 とにかく今日のところは昨日までの疲れを養うためにテントを張り、夕飯に睡眠を取ったのだった。
「さて、ここから先はまた歩いていくことになるが・・・湿地地帯だとどのように進むのがいいと思う?」
翌日になり遅れた分を取り戻すために、ユウシさんはマノさんに地図を見せて意見を求める。
「そうですね。 今の場所がここだと想定するならば、このまままっすぐ進めば大きな沼地につきますが、前回の事を考えるとあまりおすすめしないですね。」
「前回になにかあったのですか?」
「ぶっちゃけ魔物が厄介だったんだよ。 オレ達の方が戦いにくい場所だってのに魔物はそんなの関係なしに攻撃を仕掛けてくるからよ。 それに足場が沼地だからまともに横になることも出来なかったな。」
あのときの苦い思い出を語るサイカさん。 沼地も沼地なりにやり過ごし方があると言うことだろう。
「では迂回をするのが適切だな。 どちらから回り込む?」
「いち早く森へと抜けるなら左側から行くのがいいと思う。 ぬかるんだ土では行動も制限されやすいからな。」
まずは沼地を脱出することが先決になるようだった。 こんな湿りの悪いところは確かに早いところ脱出してしまいたいと思うのは、人間の性にも近い部分だろう。 一刻も早く安定した場所に行きたいのだ。
「よし。 それでは出発しよう。 マノ殿。 昨日話していたこと、お願いできるか?」
「はい。」
私とユウシさんが別行動をしている間に、なにか話し合っていたようで、マノさんが先頭に立って、杖を構えて呪文を唱える。
「「上空より降りし焔 サンセト」。」
そう唱えると小さな火球がゆっくりと地面に向かって降りていく。 すると地面から少しずつ水分が無くなっていった。
「ほう。 本当に蒸発するのだな。」
「これで、歩きやすくなると、思います。」
「凄いですねマノさん! これなら浅い部分は歩けるようになりますよ!」
「あ、ありがとうございますホノカさん・・・」
「さぁ、先に進むぞ。」
そうして私達はサンセトで乾いた地面を歩きながら、まっすぐ進むのだった。




