蜃気楼の罠
どのくらい歩いただろう? 見渡す限りの砂を眺めながら私はそう思った。 砂漠を歩き続けて早3日。 本当に終わりに向かっているのかと思い始めてきたであると、誰かに悟られたような気がした。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「・・・ふぅ・・・ふぅ・・・」
私を含めてこの場にいる全員が、ペンダントが危険信号の色を出しているにも関わらず、歩みを止めることはない。 身体はとうに限界を超えていたが、少しでも進まなければ終わりは見えないと、暗黙の了解のように無言を貫いていた。
「・・・くそ・・・マジにヤバイんじゃねぇの? 日差しが前来た時よりも強くなってる・・・気がするぜ?」
「ああ・・・それに砂漠に対応した敵も多くなってきている・・・ どうやらこの世界もただ動いているわけでは・・・無さそうだ・・・」
少しでも暑さを和らげようとしているのか、それとも気を確かに持とうとしているのか、サイカさんとアイルドさんは会話をしている。 しかしそれ以上の事が頭に入ってこない。 既に脳は沸騰寸前まで来ていた。
日が高いうちに少しでも進まなければいけないけれど、暑さで身体が思うように進まず、夜になれば月明かりがあるとはいえ、辺りがほとんど闇に覆われてしまい、二次遭難になりかねないと進むのを断念している。
それに加えて昼夜の寒暖差も酷く、急いで進もうにも身体が温度変化に対応出来ず、体調が崩れやすいので、夜行横断も視野には入れてない。
いっそ松明を使えば夜の砂漠を歩けますよと提案はしたものの、砂漠の魔物ならともかく他にも人がいて、それが盗賊だった場合は命のやり取りをしなければならないし、その過程で松明の炎が消えれば、日が昇る頃にどうなっているのか分からない。 そう言った結論にいたり、出発は明朝、日が出ている間に歩を進め、夜は歩かないという私達なりの砂漠の横断を決定していた。
しかし頭では分かっていても肉体が、脳はそれを許してはくれないようで、砂漠では日光に直接当たらないように、ターバンやマントを使って肌をほとんど見せないようにしたり(アイルドさんは引き続きコルドアーマーをかけた上でアメーボの魔法も付けている)サングラスを作ったりと、対策はしているものの、限界というものは近づく。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「・・・ユウシさん。 マノさんの体力が・・・」
「・・・幸い今は敵の姿もない。 休憩を挟もう。 倒れたら元も子もない。」
そして私達は簡易的なシートで休憩を取る。 マノさんは既に横になっていた。
「地図で場所を確認しようにも、周りに本当になにもなくて自分達がどこにいるのか分からないですね。」
「頼りになるのは沼地への境界だが、今のところそれらしきものも見えない。 それに魔物ならともかく、盗賊達とも遭遇しない。 物資が枯渇し始めている今、補給出来る物もないというのはかなりまずい。 このまま進むことが出来なくなれば、我々は死を待つのみだ。」
ユウシさんの言うとおり、魔物の遭遇よりも自然に負けることが一番旅の中では過酷とも言えるだろう。 水も保存食も量を削り始めているので、せめて水だけでも確保しなければ、本当の意味で死を覚悟しなければならなくなる。
「砂漠となればオアシスみたいな、休憩所があってもおかしくはない筈なんだけどな。 ・・・くそ、死ぬならせめて魔物と戦って死にたいぜ・・・」
不吉なことを語っているサイカさんではあるものの、暑さで倒れているマノさんをずっと扇いでいる。 言葉とは裏腹に優しい心の持ち主だ。
「そうは言うがなサイカよ。 こちらとしても死活問題なのには変わりない。 しかもここで倒れてしまっては救援も絶望的だろう。」
アイルドさんも危惧はしているようで、焦燥感にすら駆られている。 そんな私達の視線の先に、なにかが浮かび上がってきた。
「なんだ? あれは?」
「んー? ボヤけてて良く見えねえぜ。 近いのか遠いのかも分からねえ。」
「なんにせよこの砂漠にはあのような物があるのは不思議だ。 向かってみる価値はある。 マノ殿。 気分はどうだ?」
「は、はい・・・少しは、良くなりました。」
ゆっくりと起き上がったマノさんは我慢して言っているようには見えなかったので、まずは安心できた。
「今の目標はあの見えているなにかに近付くことだ。 この砂漠のど真ん中、それがなんなのかは着いてから分かるだろう。」
そうして私達は既に歩き慣れた砂の上をまた歩き始めるのだった。
「・・・あれは・・・一体・・・なんなんだ?」
ユウシさんが疑問にしたので改めて景色の向こうに見えるものを確認する。 確認するといっても完全に見えるわけではないし、視界もボヤけているので、本当になにがあるのかが分からない。 見える限りは緑色のなにかがあるだけだ。
「あれが・・・オアシスなら・・・私達・・・助かるのですかね?」
「どうだかな・・・だが水がありゃ・・・それだけでも・・・いいんじゃね?」
マノさんもサイカさんも、まずはたどり着くことを優先して考えているみたいだ。 その他の危険は後で考えればいい、と。
だけど水が欲しいのはもっともで、私が所持を任されている「水緑の葉」は、完全に最終手段。 どれだけの量が出るかも分からないし、希少アイテムなのにはまず間違いない。 使い所を間違えればそれこそ生命の危機に陥る。
「このままでは日が沈み始める。 なんとかそれまでにあそこまでたどり着きたいところではあるが・・・」
上を見ると既に太陽は西へと動き始めていた。 夜になればあの景色も見えなくなり、探すのもより困難になる。 近くまで行くのなら無理をしてでも歩みを止めてはならない。
「・・・あの・・・なんだかおかしくないですか?」
そう私が疑問を口にしたのは日もすっかり落ちて、夕焼け空になった頃合いだった。
「おかしいって・・・なにがだ?」
サイカさんが私の疑問に質問する。 日が大分落ちているので気温自体も昼間に比べれば大分マシになった。 だからこそ気が付けた、とも言えるけれど。
「私達、この真っ直ぐの道をかれこれ3時間近く歩いていると思うんです。 でもあの場所は近づくどころか・・・出発した時とずっと同じ景色なんです。」
「なぜそのようなことが・・・いや、絵描きなら遠近法で視ることは容易いか。」
「ってことはあそこに見えるのは違うもの?」
「もしかすると・・・」
そう思い私は魔導書を開いて私は手をかざす。
「「我が行く手を阻む惑わしを開け トゥルーアイ」。」
そう言うと目の前の一部の景色が歪み、そして見えていた前の景色が消えていった。
「これは・・・」
「どうやら我々は、知らず知らずのうちに騙されていたようだ。 しかも敵からの攻撃ではなく、自然現象によって、な。」
「自然現象・・・蜃気楼・・・ですか。」
「蜃気楼ってあれか? 遠くのものが近くに見えるってやつか?」
「そうだ。 しかしそれは悪いように捉えるのは難しいだろうな。」
「どういうことです? アイルドさん?」
「先程もサイカ殿が説明したように、遠くのものが近くに見えるように錯覚する自然現象。 だがこれを逆説的に言えば、我々が向かっている先には、水辺のなにかがあるということだ。」
「つまり、この先に進めば・・・」
「ああ。 地図通りに進んでいるならば、恐らく沼地に着く筈だ。」
「おお! そう考えればまだ頑張れるぜ!」
私達の旅が終わらないことを喜びあったけれど、この日はすぐにテントを張って、明日に備えることにした。 少しでも希望が生まれれば、人は前に進めるようだと、この時に思った。
そして翌日からまた砂漠を歩く。 幸いにもこの砂漠での戦闘は指折り出来る程度しか戦っていないため、歩くことだけに集中すれば、疲労感も少なくなってくるというもの。
そして歩くこと数時間。 アイルドさんが足を止めた。
「どうしましたかアイルドさん?」
「皆見てみよ。 我々は遂に、砂漠地帯を抜けることに成功したぞ。」
「本当か!?」
そうしてアイルドさんの横に立つと、その先に待っていたのは、いくつもの水辺の見える、湿地地帯だった。
約三週間ぶりの投稿となりますが、最近のモチベーションや、今書いている原稿の方が盛り上がりがあると言うことで、このタイトルもあと数話で、一度休止させてもらいます。
正直自分でもここまで低下するとは思ってませんでした。




