海の危険
「それじゃあ、今日も町を守った事に感謝を込めて・・・乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
町を魔物から守ったその日の夜は、宴のためにお店を貸し切りにするほどの
人達で集まっていた。 テーブルには様々な料理やお酒がわんさか置かれていた。
「勇者様の皆さんも是非この港で捕れた魚の味を吟味してくださいな!」
ここのお店の女将さんが私達に勧めてくれる。 確かにどれもこれも美味しそうで、どれから手を付けようか迷ってしまう程だ。 それにしてもこの世界に来てから、こう言った魚料理をほとんど食べていなかった気がする。 カレトさんの料理は確かに美味しい。 けれど魚を扱った料理はほとんど出てこなかった印象があった。 場所の問題なのかもしれないなとこの場で思った。
「っかぁ! うめぇ! 魚に滅茶苦茶脂がのってるから酒が進むぜ!」
「お! 嬢ちゃんいい飲みっぷりだねぇ! 俺達も負けてらんねえな! がはは。」
あっちではサイカさんが漁師さん達とお酒を楽しんでいた。 飲み過ぎて迷惑かけないことを祈ろう。
「やっぱり凄い筋肉量ですね。 やっぱり強い家系で産まれたからなのでしょうか?」
「それも当然あるが、ワシはそれに甘んじずに、自分自身でこの肉体を造っている。 ただ筋力トレーニングをすればよいというものでもないが、食事なら肉よりは魚の方が栄養価は高い。 強靭な肉体を造るのには最適とも言えよう。」
一方で若い人達に囲まれているのはアイルドさん。 男たるもの、一度はああ言った肉体美を夢見るものなのかもしれない。 町を守るとなるのなら尚更だろう。
「ねぇねぇ。 魔王ってそんなに強いの?」
「ああ。 あれは我々の想像を遥かに越えた存在だ。 やられる度に、自分の弱さを思い知らされるよ。」
「勇者様でも勝てない相手・・・かぁ。 全然想像つかないや。」
「それでいいさ。 でも次は必ず勝ってみせる。 そのために新しい仲間も入れたのだから。 今度こそ勝鬨を挙げてみせる!」
ユウシさんは子供達に囲まれながらも、自分の弱さをさらけ出していた。 勇者と言っても決して強い存在ではないことを証明しているように。
そしてそんな仲間達の光景を見ている私と隣にいるマノさんはと言えば
「マノちゃんの魔法は凄いわねぇ。 海の魔物も一撃で倒せるんだから。」
「あ、ありがとうございます。 まだまだ他の皆さんの力にはなれませんが。」
「なにいってんだい! あんな魔法を撃てるのにそんなにしょぼくれちゃって! もっと自信を持っていいんだよ! 女だからって謙遜ばかりしちゃいけないよ!」
この町の女性、それなりに高齢の方が多いけれど、その元気にマノさんは圧倒されていた。 港町のおばちゃんと言った感じで、もてなしも含めて結構懐が広そう。
「そうですよマノさん。 こうして褒めてくれる方がいるのに、自分の才能を卑下するのは良くないですよ。」
そんなおばちゃん達に混じって、私自身もマノさんの魔法の良さを伝える。 今までは後ろから眺めているだけだったマノさんだけれど、魔法が撃てるようになれば、連携次第では相手の意表すらつけることだろう。
「おや、あんただって大した魔法を持ってるじゃないかい。 みんなを守ってくれたんだろ?」
「そうそう。 見えないけれど壁があったって。 お陰で倒しやすかったって言ってたよ。」
そんな風に言っていたら今度は私に白羽の矢が立った。 改めてそう言われるとなんというか気恥ずかしさを覚えてしまう。
「そうなんです! 私の魔法よりも、ホノカさんの魔法は純度が凄いんです! 私も、ホノカさんのような、もっと強力な魔法を使えるようになりたいです!」
そんなことを思っていたらマノさんからさっきのお返しとばかりに褒め言葉が返ってきた。 自分の事を棚に上げるつもりは無かったけれど、少し恥ずかしい。
「まあまあ、みんな凄いって事で、このまま盛り上がっていこうじゃないか! ハッハッハッ!」
そんな豪快な宴は漁師さん達が海に出る朝まで行われるのだった。
「海を渡るは、ヨーソローってな。」
船の先端に立っているサイカさんが海に向かってそう言っていた。 宴も終わったその夕方頃に、私達が向こうの大陸に渡るための船が完成していた。 夜の航海は流石に危険だと言われたので、日を改めた上で私達は海へと出ていた。
「それにしても随分と簡素な船を用意して貰いましたね。 小さいですけど燃料まで付けて貰って。」
私達が乗っているのは船と言うよりは「火炎噴射付きのヨット」と言った具合に、最低限の物しか積んではいなかった。 荷物は私の「ストレジ」に入っているので、本当の意味で私達しかこの船には乗っていない。 舵を切っているのはアイルドさんだ。
「あの町に行く前にも海から魔物が襲ってきたでしょ? そして海の上は完全に無防備状態になります。 つまり我々も自分を守るので手一杯になってしまうのです。 それにどうせ往復はしませんので、使い捨てで構わないのですよ。」
私の疑問にユウシさんが答える。 確かにただでさせ海は危険なのに、魔物から襲われる事態になってしまえば、二重苦である。 そして船頭がいないのも、往復分を考えないようにするためだろう。
「そしてここから先の大陸の魔物も当然ながら一筋縄ではいかなくなる。」
そう答えたのは舵を切っているアイルドさんだった。
「魔物の強さもそうなのだが、魔物にも知性のある個体が存在する。 詰まるところ、闇雲に攻撃が仕掛けられなくなるということだ。」
「海からの魔物もそうでしたが、魔物も魔法を使ってくるようになります。 その威力も魔王城に近付くにつれて強くなっていきます。」
「っと、そう言っていたらお出ましのようだぜ!?」
ヨットの先端に立っていたサイカさんからそんな報告が飛んでくる。 見てみると鮫の他にもイカやタコなども現れて、正に海の魔物のオンパレードだった。
「この船をやられたら我々は向こうの大陸にたどり着けない。 なんとしてもこの船だけは守り抜くんだ!」
「それなら任せてください!」
このパーティーの全滅は勿論駄目だけれど、この船を向こうの大陸にまで持っていなかければならないとなれば、優先して守るものは限られる。 私は魔導書を開いて、船に向かって詠唱を開始する。
「「形を保つための箱となれ ショケース」。」
そう唱えてから、私は前を向く。
「透明ではありますが、この船を守るバリアのようなものを張りました。 これで魔物からの攻撃に何回かは耐えられます。 壊れても私が張り直しますので、船の事は気にせずに魔物を倒すことに集中してください。」
「恩に着るホノカ殿。 ワシは舵を切るため守りながらの戦いは不可能だ。 近付いてくる敵をいなす程度でいい。 向こうの大陸に着くまで持たせるのだ!」
「おう!」
「分かりました!」
「私も頑張ります!」
こうして私達は船を守りながらの攻防戦が始まった。
「「雷の剣」!」
「「雷光拳」!」
船に近付こうとする魔物はユウシさんとサイカさんで、弱点属性の付いた攻撃を当てていく。 攻撃が届きそうになってもアイルドさんが紙一重で舵を切っているため、船への被害も最小限に留まっている。
「ヴァァ!」
そう思っていたら奥からタコの触手攻撃が伸びてきた。 数がそれなりに多くて攻撃が変則的なので、ユウシさん達も攻撃を当てにくいし、アイルドさんの舵も右往左往しすぎている。 相手は無理矢理にでも私達を海へと引きずり落とそうとしているのだ。
「ここは私が! 「氷点下より生まれる地平へと織り成せ フロストクリプ」!」
詠唱を終えると海がどんどん凍っていき、魔物達は氷に捕らわれて動けなくなっていた。
「今です! アイルドさん。」
「うむ! このまま陸地に乗り込む! しっかりと船を捕まっているのだぞ!」
魔物達が氷漬けになっている間に一気に海を渡る作戦に変えて、全力で船を動かしていた。
「見えた! あの浜辺に乗りましょう!」
ユウシさんがそう叫ぶと後ろから「バキン」という音が聞こえ始めてきた。 振り向かなくても分かるように、どうやら魔物達が氷から解放されたようだ。
「陸に上陸したら船を捨てて一気に岩石地帯へと走る! この地帯の魔物ならばまだ陸へは上がれない! 一時しのぎでもまずは魔物から距離を取るぞ!」
アイルドさんの提案に反対意見はない。 船は最大加速をする。 そして砂浜へと乗り上げるようにして船は砂浜を走った。 そして止まった瞬間に私達はすぐさま船から飛び降りて、一気に走り出す。 後ろでは魔物達も砂浜に乗り上げたようだけど、水辺がないからかほとんど進むことなく引き返していったのを確認できた。
そして私達は岩影まで隠れて、そこで息を整え始める。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ~ 疲れたぁ~。」
「ここで一時的に休息を取ろう。 休むのはもう少し先で行うことにするから。」
息も絶え絶えな私達はユウシさんの意見に誰一人として文句は言わず、その岩影で呼吸を整えることにしたのだった。




