共闘戦線
「それでは前回と同じような形でよろしいのですね?」
「ええ。 ここに来ては無理なお願いを聞いてもらい申し訳ないです。」
「何を仰いますか。 このような場所でお願いされることなど、今となってはありがたいお話ですよ。 それではこれから取りかからせますので、また2日後になりますが。」
「それまではこの町に滞在するので問題はないですよ。 ここの料理も美味しいですし。」
「そう言っていただけるだけで、我々も喜ばしい限りです。 それでは明日の事もありますので、私どもはここらで失礼を。」
そうして私達が泊まっている民宿で説明をした後にその人は去っていった。 先程まで漁に出ていたとは思えないくらい元気な人だった。
「もしかしてこの町は活気が無いんじゃなくて・・・」
「ここは漁業が盛んだから、漁師の方が多いらしい。 だから朝はあの時間帯になるまではほとんど人が通らんのだそうだ。」
つまり静けさは漁師さん達が海に出ているからって事なんだ。 魔王が訪れてから何かの不手際で人が居なくなったのかと思って少し安心した。
「とはいえこの町も、ほんとはもっと人が来てたのには変わり無いんだと。 こんだけ色々とあるのに、見に来る人達が明らかに減ったのは寂しいって言ってたぜ。」
サイカさんがそう付け足してくれた。 少なからず影響はあったという事なのだろう。 そうだとはいえ、何かしらあるのだろうと思い、私はひとつ提案をしてみることにした。
「あの、私はこの町を見てみたいのですが、いいですか?」
「そうですね。 折角訪れたのにただ待ってるだけというのも味気ないですし。」
「町の方達にも、ご挨拶をしないと、いけないと、思います。 お世話になりっぱなしになるのは、ちょっと・・・」
ユウシさんもマノさんも行くことには賛成のようだった。 アイルドさんとサイカさんも特に何も言っていないけれど、ついてはきてくれるみたい。
町を見てみると堤防や灯台があり、何隻もの船もあって、海の町とはまさしくこの事を言うのだなと実感させられた。
「どうも勇者様。 これからどちらに向かわれるので?」
声をかけてきたのは捕獲用の網を丁寧にまとめていた若い男性の人。 漁師さん達には劣るけれど、それでもしっかりとした体を持っている。
「ちょっとこの町を見ようと思っていて、周りを見ながら歩いていたのですよ。」
「あ、それと井戸のような場所はありますか? そこで少しやりたいことがあるんです。」
「井戸・・・ですか。 それって井戸じゃないとダメとかあります?」
「あ、いえ。 水が簡単に無くならない場所でいいんですけど、海だと広すぎてダメなんです。 なにか水を一ヶ所に貯めている場所とかで構わないので。」
「それなら浄水場があるので、付いてきてください。」
青年はそう話すと私達を案内してくれました。 そこには原始的ではあるけれど、確かに大きなろ過装置がありました。
「ここの水でしたらよっぽどでない限りは無くならないので、大丈夫かと。」
「ありがとうございます。」
「それにしても、なぜ、このような物を?」
「町民だって海の水はそのままでは飲めませんから。 それにこれなら雨の水も使えますので、施設が完全に破壊されない限りは永久的に飲み水が飲めます。」
そんな説明を受けつつ、私は「場所戻りの芳香」から「記憶の雫」を取り出して、一番小さいろ過装置に一滴垂らす。 そして「場所戻りの芳香」の頭の部分を見てみると数字の「3」が増えていた。 これでこの町でも来れるようになった。
「青年よ。 その肉体、かなり鍛え上げているようだな。」
「いえいえ、俺なんてまだまだですよ。 海に出るのは勿論ですが、それよりも今は町を守らないといけないので。 昔の漁師町として復興も兼ねているんです。」
「町の復興・・・なにか災害に襲われたのですか?」
「災害・・・と言えばそうかもしれませんね。」
なにやら複雑な心境の青年。 これは聞いてもいいことなのだろうかと考えていると、突如として地鳴りが辺りに響く。
「な、なに!?」
「最近姿を現さないと思ったら・・・お客が来たからそれを襲いに来たみたいです。」
「もしかして、魔物?」
「ええ。 ここの海域は魔王が現れる本の少し前から魔物が現れる場所でした。 とはいえそんなに強くもなく、一般の人達にもほとんど被害を加えない魔物ばかりでしたが、魔王が現れてから魔物が強くなったような気がするんです。 なのでこの町に寄る時には、最初に注意を言ってるんです。 「魔物の出る港の方には、お客様は昼夜問わず近付かないで欲しい」と。 今回は勇者様が来たと聞いていたので安心していましたが・・・」
そう言いつつも青年は既に走り出していたので、私達もその後を追うような形で話を聞いていた。 青年は急いではいるようだったけれど、なんというか、表情は冷静そのものだった。 それたけ場馴れしている、ということなのかも知れない。
「おう来たか! 野郎ども性懲りもなく襲おうとしてやがる! これから眠ろうって時によ!」
「おっちゃん! ここは若い俺達に任せてくれよ!」
「馬鹿野郎! お前らだけに任せるほど衰えてはねぇぞ! どうせこの数だ。 人手はいるだろ!? 寝る前の大仕事、行くぞお前ら!」
「「おおおぉ!」」
海の向こうから数多くの鮫やエイの魔物が来ている。 だけどここの人達は怯むどころか立ち向かおうとしている。
「皆さん!? いくら武器を持っているとはいえ危ないですから・・・」
「大丈夫だよ嬢ちゃん! 俺達はこの状況には慣れっこだからよ。 でも手伝ってくれるんならありがたい限りだけどな。」
その言葉に私は気が付く。 この人達は恐れ知らずなのではない。 魔物に立ち向かうのは怖いはずだ。 だけれどそれを自分達に鼓舞をすることで、困難に怯まずに進めるのだ。 彼らは普通の人達である。 だけど立ち向かう姿はまさに「漢達」と言えるだろう。
「ホノカさん。 我々も手伝いましょう。」
「船を作って貰えるだけでもありがたいってのに、町の人達見捨てて魔物と戦わないなんて、勇者失格だからな。」
そう腕のガントレットを鳴らしているサイカさんを尻目に、アイルドさんがみんなの前に立つ。
「皆のもの、前衛はワシに任せるのだ。 飛び道具を止めたらすぐに攻撃に移れるように準備をしておくのだ。」
「助かります。 嬢ちゃん達は下がってな。 ここからは荒れるからよ。」
「いえ、私も、戦います。 私だって、勇者パーティーの、1人ですから。」
「そうですね。 私は攻撃は出来ませんが、皆さんのサポートに徹します。」
「嬢ちゃん達・・・」
「・・・来たぞ!」
アイルドさんの号令と共に最初に飛び込んできたのは鮫の魔物。 防波堤があるにも関わらずその波に逆らうようにヒレを出したまま泳いでくる。 そして一度ヒレが海に隠れたかと思いきや、思い切り飛び上がり、私達の所まで大口を開けて来た。
「数が多いな。 ならば横に広げれば問題なかろう!」
アイルドさんは持っている盾の裏側から、ワイヤーを引っ張る。 するとアイルドさんの持っていた盾が幅を広げていって、鮫の空襲を凌いでいく。 そして鮫達は盾に当たって目眩を起こしたり、海に戻れないでいた。
「少しでも数を減らすぞ! 鉤爪部隊は突撃! 銛部隊はそのまま待機だ!」
号令と共にアイルドさんの前に落ちている鮫の魔物を討伐しにいく人達。 だけど魔物は鮫だけではない。 エイ達は鮫の魔物がやられるのを見て、攻撃方法を変えたようで、なにやら氷の針のようなものを生成し始めた。 もしかして魔法攻撃!?
「「障壁により魔法を防ぎたまえ マジックプロテクト」!」
エイ達から放たれた氷の針は、私のマジックプロテクトによって防いでくれたものの、かなり急いで作った為か、完全に止めることは出来ず、先端だけは貫かれていました。
「くっ・・・すみません、完全に防ぎきることが出来ませんでした・・・」
「いや、止めてくれただけでも十分だぞホノカ殿。 これで近付いてくる敵には安心して攻撃できるようになったのですからな。」
「エイの魔物は私に任せてください。 あの魔物には雷は効かないけど、氷を使うなら・・・「炎よ1つに集まりて水平より逆巻け フレムピラー」!」
マノさんが魔法を唱えると、海から赤い魔方陣が現れて、その魔方陣からまさしく柱の如くエイを真下から攻撃し、空に浮いていたエイ達が海に落ちる・・・前に灰になっていった。
「おお! やるな嬢ちゃん達! よっしゃ! 俺達も負けてらんねえぞ! この勢いに続け!」
そうして町を襲おうとしていた魔物達は、私達の活躍もあって、被害が届く前に倒すことが出来たのだった。
「今日も町を守ったぞ! 勇者様パーティーがいれば怖いもの無しだぜ! 俺達だって、自分達の町は守れるってことを見せてやれたしな!」
みんなで喜びを分かち合うと共に、今回の事でこの町の人達は私達の力を借りなくても、自分達で魔物と渡り合えることを証明してくれた。 それは私達にとって安心して魔王に挑んできてくれと言っているようだった。
「しかし流石に漁から帰ってきた後だから疲れたぜ。 宴は夜だな。 それじゃみんなまた夜にな。 勇者様達も参加していってくださいよ。」
そう言ってみんな思い思いに分かれていった。 私達も夜になるまで民宿でゆっくりとすることにした。




