職業「白魔導師」
「なるほど、防衛魔法ですか。 確かにそれなら魔法適性にも納得が出来ますね。」
朝ごはんに用意されていたロールパンを食べていると、カレトさんがそんな意見を述べてきた。
「納得、とは?」
「特色に合っていると言うことです。 更に言えば「援護魔法」もあなたの魔法適性になるみたいです。」
「はぁ・・・」
言っている意味は何となく通じるけれど、思うように頭に来ない。 多分実感をしていないからだろう。
「・・・あれ? 防衛魔法に援護魔法ってことは、私お荷物なんじゃ・・・?」
よく追放物でお約束の役立たず職業というやつになるのではと思ったけれど、それはルビルタさんが否定した。
「別にそれしか出来ない訳じゃないわよ。 ただ援護特化な魔法の方が適任だってことよ。 今時「白魔導師」はなかなかいないし。」
魔導師にも種類はあるんだ。 「白魔導師」。 よくあるのが基本的には後ろにいることが多い、保護魔法を主体とする職業・・・っていうのは漫画やゲーム世界での話だけど、本当にあるのなら多分一番合うのかも。
「しかしそうなってくると、正式に魔道書等が必要になるかもしれませんね。 防衛魔法や援護魔法の数は少なくないのですが、正しい使い方を覚えるならば媒体はあった方が断然いいですから。」
杖に魔道書、本格的に魔法についての修行が始まりそうだ。 でももう戻れないと考えているから、しっかりと覚えることは覚えないと。 決意は既に固まっている。 そう思いながら私はスープを飲んだ。
「朝のうちはマウスレッドは用事で出掛けてるから、私が教えるわ。」
朝食を食べ終えて少しした後に外に出て、今度はルビルタさんから魔法を教わることになった。
「っていっても、私の場合は教えられることってほとんど無いのよね。 性質が違うっていうか、使い方が違うっていうか。」
どういうことだろうと思っていると、ルビルタさんが右手を後方に下げる。 そして
「フッ!」
という掛け声と共に正拳突きをして、次の瞬間に目の前の木が燃え始める。
「ってまあ、私の場合はこんな感じで魔法を出すの。」
「ど、どうやって出されたのですか?」
「私ね、全身を覆うように魔力が流れてるらしいの。 だからこんな風に!」
今度は足を蹴りあげて、先程まで燃えていた木を水で沈静していた。
「私の意志で魔力を飛ばせれるの。 無詠唱だし、属性も決まってないから、使い勝手は悪くないんだけど、魔法使いらしくは無いわよね。」
それで性質が違うと言ったわけなのか。 普通ならマウスレッドさんの言う通り、杖や魔道書なんかを使いながら、詠唱をして魔法をぶつけるのだろうけれど、ルビルタさんの場合はとにかく前面に飛ばすだけみたい。
「私の場合はどっちかって言えば舞踏家寄りの戦い方の方が似合ってるのかもね。 便利さと不便さは両立するし。 魔法の属性が無いのはいいけど、加減もしにくいのよね。 ちょっとした魔法も打てないの。」
そう言って寂しそうな顔をするルビルタさん。 魔法使いの家系に産まれたのに、舞踏家のような立ち振舞いに不満でもあるのだろうか?
「わ、私は凄いことだと思います。 だって、本来なら詠唱が必要なところを無くして魔法を使えるんですよ? それに舞踏家なのに魔法を使うって、相手からしてみたらかなり困惑すると思うんです。 それに・・・」
「励ましてくれているようだけど、私はこの体質は嫌いじゃないのよ?」
私の言葉に違和感を覚えたのか、ルビルタさんがそう切り返した。
「とはいっても最初は「魔法使いの家系なのになんで!?」って思ったわ。 でもね、ある時ふと思ったの。 これが私の魔法なんだって。 私達の家は家族全員が特色のある魔法持ちだから、こういう形の魔法もありなんだって、すぐに理解が出来たわ。 だから別に不幸だともなんとも思ってないわよ。」
そうだったのかと心配した私も少し恥ずかしかったけれど、自分の事を分かっている人だなとも分かった。
「そ、それなら、魔力を上手く動かす方法とか教えて頂けませんか?」
「それはあんまり教えるものじゃないけど・・・どうして?」
「ええっと、魔法って直線方向にしか撃てないと、相手がどの方向から撃ってくるか分かってしまいます。 私の魔法は回復魔法なので、それだと相手も魔法使いだと、味方に撃とうとしていることがバレてしまうのでは無いかと思って。」
「・・・あんたなんか考え方が独特ね。」
そこまでだっただろうか? まあ魔法って渦を巻いたり上から出たりっていうのがあるけど、それって結局は視点的なものであって大体は直線的な事が多いからだと思う。 物理法則や慣性の法則にはほとんどの場合は逆らえないから。
だから私は流れを変えるしかないと思って、そう言っただけなのだけれど。
「魔力の動かすって言っても、体内循環のやり方しか教えられないわ。 そう言うのは母さんかマウスレッドの方が上手いから。」
「まずはそれだけでも構いませんので。」
そう言うとルビルタさんは少しだけ目を見開いていた。
「・・・「白魔導師」・・・か。 納得しちゃうわね。 これなら。」
「?」
「なんでもないわ。 それじゃあ、ちょっと流れについて教えるわね。 まずは魔力の流れの事なんだけど・・・」
そうしてルビルタさんとお昼前まで、体内魔力の循環について試行錯誤した。 そもそも使ったことの無い魔法という概念から体の中の魔力を使うというのがどんなものなのかが分からないので、もう感覚的に掴んでいくしか無い、というのがルビルタさんの結論だった。 これはルビルタさんが教えるのが下手などと言う事ではなく、単純に体内に流れる魔力は人それぞれで、特徴を掴めるのは本人しかいないという所にあったからである。
実際に魔力の流れを掴むということがどれ程難しいか。 例えるならまさしく霞を掴むように不鮮明なものだった。 血液とも違う体に流れるものをいざ掴んでみろと言われて、掴めれる訳など無いのだから。
そんな言い訳じみた事を延々と繰り返しているうちにすっかり昼になってしまったが、出来るようになったことは、攻撃魔法でも魔法を撃つ対象が動いても、当てれるようになったこと。 だけどまだ歩いてる人にしかなので、実際はもっと熟練しないと。
「最初からそれだけ出来れば十分だと思うわよ?」
ルビルタさんはそう誉めてくれているものの、当の私は膝に手を当てて疲労感に耐えていた。 正直息も絶え絶えである。
「魔力の流れを掴もうとするのは正直簡単じゃないし、貴女も魔法について慣れていないから、疲れるのは魔力の消耗によるもの。 魔法使いなら必ず通る道だから、落ち込む必要は無いわ。」
その言葉で落ち着きを取り戻しながら、ルビルタさんの方に向き合う。
「魔力って、蓄積量って、増えるものなのですか?」
「当然よ。 しっかりと経験を積んだ魔法使いは、己の限界は越えるものよ。 力量を分かって、少しでも多く魔法を放てるように鍛練するのは、魔法使いにとっては人生みたいなもの。 ゆっくりとやっていくから、焦る必要はないわ。」
態度と言葉が似つかわしく無いかもしれないけれど、ルビルタさんの言葉はとにかく筋が通っていた。 それでふと私は思うこともあった。
「ルビルタさんの魔法を操る力って、凄いことだと改めて思いました。 それに魔法の効かない相手にも、有効的に使えるんですよね。 魔法を纏っているのは拳だったりするので、至近距離戦にはかなり有利に動けると思うんです。」
そう私が話すと、ルビルタさんは今度こそ大きく驚いた表情をしていた。 そしてなにかを悟ったような表情もした。
「・・・全く。 マウスレッドもいい買い物をしてきたんじゃないの? 白金貨5枚なんてレベルじゃないわよ。 本当に。」
「?」
「なんでもないわ。 さ、母さんがお昼ごはんを作ってる頃よ。 私からの魔法講座はこれでおしまい。 ごはんを食べに行きましょ。 魔力の回復には、休息と栄養補給が重要なの。」
そうしてルビルタさんとともに、家のなかに戻っていって、カレトさんが作っているお昼ごはんの匂いが漂うリビングに入ったのだった。