頂上にあったもの
いくらゆっくり進むと行っても天候には勝てない。 私達が山を登っている間に大雨が降ってきた。 道も足元が悪くなり、この状態での登山は不可能と判断し、適度な大きさの道から私とマノさんで岩肌を削って雨避け用の洞窟を作って、今は登山が出来るようになるまで待機の状態だ。
「これはここに魔物達も簡単には出てこれないだろうな。」
ユウシさんは外の様子を確認しながらそんな感想を言った。
「それはオレ達だって同じだろ? いいじゃねぇか。 最近滅多に取れなかった休息だぜ?休める時に休めってアイルドのおっさんも言ってたじゃねぇか。」
サイカさんがそう喋ってアイルドさんの方を見ると、アイルドさんは既に横になっており、つまるところ昼間であるにも関わらず既に睡眠を取っていたのだ。
アイルドさんは山頂に近付いてから、寝る間も惜しんで私達が魔物から遅れを取らない様に最前線で守備と警戒をしていた。 そんな彼に疲労が溜まっていたのは誰の目から見ても明らかだったし、マウスレッドさんから貰ったペンダントも色褪せていた。 それでも守ってくれたのは、私達に万が一があっては困るからだと言うアイルドさんなりの気遣いなのだろう。
私としてはここで白魔法を使いたいところだったのだけれどアイルドさんから
「この程度の疲労なら自分で治すことが出来る。 ホノカ殿の魔法はもっと重要な場面で使えるようにすればいいのだよ。」
と、言われて断られてしまった。 確かに今すぐに治して欲しい訳ではないのだからする必要は無いのだけれど、今では役に立っていない、とまでは言わなくても、私のサポートはほとんど使われていない。 白魔導師だからそう言うもの。 と、割り切ることがまだ出来ていないのだ。
「ホノカさん。 申し訳ないのだけれど、ここでの見張りと天気の様子を見ていてくれないかな? 俺達も少し眠りたいからね。」
「分かりました。 なにかあればすぐに起こしますので。」
「ホノカさん。 よろしくお願いいたします。」
「何かあったらすぐに言えよ?」
そうして他の皆さんも洞窟の奥へと入っていって、横になって眠りについた。 私は他の人よりも休息は多く取れているので、休むことはほとんど無い。 だけど戦闘ともなれば私は戦えない。 そういった魔法もなければ、武術などもっての他だ。
「「障壁は岩盤なりて作られる ウォーロック」。」
私は皆さんが少しでも休まるように岩の壁で入り口を塞ぐ。 勿論ちゃんと向こう側が見えるように工夫はしてあるし、空気の通り道も作ってある。 これは遠目から洞窟が奥に続いていないように見せるためのカモフラージュだ。 本当は戦闘での壁役になるのだが、その役はアイルドさんが担っているのでほとんど役には立っていない。
この旅に同行したのは、少しでも自分の白魔法を多くの人に知って貰うため。 そしてユウシさん達勇者一行のパーティーとして、役に立つ為に一緒に来たはず。
「・・・でも、やっぱり、頼られたいって、思ってるのかな?」
私の中の欲望なのか、そんなことを口に出してしまう。 白魔導師は表立って活躍する職業でないのは重々承知しているし、自力でなんとか出来るのであればそれに越したことはない。 自分の非力さか、なにかを頼られたい欲求か。 私を埋め尽くすなにかは、私自身には分からなかった。
「いやぁーようやく再開出来るなー! 休むのも大事だが、あんまり体動かさないと鈍っちまうぜ!」
外に出られるようになった途端にその場でシャドーボクシングを始めるサイカさん。 よっぽど身体を動かしたかったのが分かる。
「道の状態を考えて2日程閉じ籠ってしまったな。 その間の見張りをありがとうホノカさん。」
ユウシさんからそんな言葉を貰う。 元々足元がおぼつかなかった為に、崖から落ちてしまうことを考えた上で、休みを取ったので、その辺りに関しては感謝されるようなことはしていないのだけれど、それでも魔物から襲われないという点に関してはかなり役に立ったみたいだ。
「ここから頂上まではそこまでそう距離はない。 このまま一気に駆け上がろう。 そこからは下るのみだし、まだまだ魔物も多い。」
「私としては、もう少し観察をしておきたいところではありますが・・・」
アイルドさんの提案に私は少しだけ申し訳なさそうに答える。 この2日間に私もここの場所で出会った魔物を出来る限り情報としてスケッチブックに残してきた。 これを渡すのはこの旅が終わってからになるだろうけど、ちゃんと渡すことの出来るように保存もしてあるので心配はない。
一昨日の雨から2日が経った今では天気もすっかりカンカン照りになっていて、今が暑い時期ということもあってか汗ばみすら覚えた。
「もうそろそろ・・・でしょうか?」
「ああ、ここを登れば見えるはずだ・・・っと、着いたみたいだ!」
ようやくこの山の頂にたどり着いた私達。 ここからは次なる目的地へと下っていって、そこから平坦を歩いていくだけなので、今後の旅としては楽になるとの事。 平坦ならば馬車などを借りることも示唆しているとも言っていたし。
「っはぁー。 見晴らしがいいぜ! つっても向こう側だけはあんまり見たくはないがな。」
サイカさんが首をひねって見た先には、今の天気とは思えないくらいの禍々しい空が広がっていた。
「あの近くにあるのが魔王城になります。 ここからでは見えにくいですが、空を飛んでいる魔物も数多くいます。 空からでは簡単には近付けません。 我々を嘲笑うかのように魔王はあの場所で待っています。 地を這ってでもあの地へと向かわなければ、魔王とは立ち向かえないのです。」
全てを拒絶するかのように配置をしているとしか思えないやり方で敵を遠ざける。 魔王とは一体どんな人物、いやどんな魔物なのだろう。 私では想像するのは難しいのかもしれなかった。
「あの・・・皆さん・・・これ・・・」
私達が魔王城の方を見ている最中に、マノさんが声をかけられる。 するとマノさんの後ろには大きななにかがそびえ立っていた。
「わっ!? 敵か!?」
「いや、これはなにかの卵のようだ。 かなり大きいが。」
「これだけの大きさの卵・・・恐らくは魔物の卵に違いないだろう。 これだけの大きさの卵は、この世界の動物では不可能だからな。」
「うぇ!? じゃあどうするんだ!? これが還ったら、どんな魔物が出てくるか分かったものじゃないだろ!?」
私達の背丈を遥かに越える大きさの卵。 大きさにしろ数にしろ、一般人ではまず手に追えないレベルなのは間違いではない。
「どうするユウシ。 ここで卵を破壊しておくか?」
「それは俺も考えたんだけど、ここは破壊しないでおこうと思う。」
「なんでだ? 今破壊した方が魔物は少なくなるぜ?」
「魔物は、な。 だけど親鳥が卵を破壊されたとなれば、怒りで周辺に災いを起こすことになるだろう。 そうなってしまえば、ここを通りすぎている我々はどうすることも出来なくなる。 ならば無理に逆鱗に触れる事はないだろう。 どんな魔物であろうとも。」
魔物が増えるがいいか、天災を起こすがいいかの天秤で、今は危険でないことを悟るならば、ここで壊すこともないだろうと、ユウシさんは決めたのだろう。
「ならばせめて私がこの卵の状態を調べます。 親が産んでからどのくらい経っているのか位は分かるはずですから。」
そう言って私は卵に近付いて、白魔導書を開いて、それらしい呪文のところでページをめくるのを止めてから、卵に向き合う。
「「周波数にて内部を調べる エコーロ」。」
卵内を音波で伝えて、中の状態を確認する。 音の反響具合で中がどうなっているのか確認をするためだ。耳を澄ませてみて、反響を確認する。
「・・・どうですか?」
「まだこの卵は産みたてのようです。 中の状態が不安定ですが、心拍のようなものはまだ聞こえません。 しばらくは大丈夫だと思います。」
「そうか。 なら山を下っていこう。 ここに長居する訳にはいかない。 また雨が降るかもしれないからな。」
そうして私達は卵を挟んで逆側の道へと進んでいった。 そうして私はもう一度卵を見る。
果たしてこれが産まれたらどんなものになるのだろうか。 興味はあったものの、それは私の目的ではないので、そのまま一緒に下っていくのだった。




