崖っぷちを進む勇者一行
こんなサブタイトルですが、ピンチになっているとかではありませんので、悪しからず
「今は大体山の中枢位でしょうか?」
自分達が歩んできた道のりを後ろに見ながら、私は質問をした。
「そうだね。 でもそれでも3合目から4合目位には位置するかな?」
「まだまだ山頂には遠そうですね。」
後ろを見た後に上を見る。 途方もない岩肌を眼前にして、私はここからの旅が過酷になることは覚悟した。 だけどいざその場面になると、やっぱり私の体力では無理なのでは? という想いがひしひしと込み上げてくる。 もちろんそうならないように体力はつけてきたつもりではあったものの、それでも無理難題というものは付き物でもあったりする。
「ここに来る前にも話はしたけれど、ここから先はテントを張ることは難しいし、天候によっては2、3日足止めを食らうこともあるだろう。 しかし無理に進んで我々が倒れてしまっては元も子もない。 進むのは安全第一。確実に歩を進めていくんだ。 では行こう。」
ユウシさんの言葉で私達は山を登り始める。 険しい道のりは始まったばかり。 立ち止まってもいられないから。
「にしてもすげぇ崖だぜ。 落ちたら一発アウトだな。」
今にも崩れそうな道を進んでいる時に、サイカさんがそんな言葉を発した。 もちろんそれは私達全員が思っていることの代弁であり、そうならないように細心の注意は払っている。
「道がやや細いな。 これでは敵と遭遇しても、まともに戦えないであろう。 接敵は避けたいところではあるが・・・」
アイルドさんが喋るのを止める。 どうしたのかと思えばなにかの足音が聞こえてきた。 そして現れたのは一つ目で私達の身体を一回りほど大きくしたかのような巨人だった。
「くっ・・・避けたいところと言った矢先にこれか・・・! 後ろに下がりすぎるな。 敵に有利を作らせてしまう。」
アイルドさんはそう言うが、実際にこの狭き道で退治しているのはアイルドさんのみ。 私達の事を敵に悟られないようにしている。 そのため既に盾も大きく展開されていた。
「敵はアイルドさんのみだと思っているはず・・・奇襲をかけるのは一瞬だ。 斬るか蹴るか、魔法で行うか・・・」
「一回バランスを崩させようぜ。 そうすれば反撃が遅れるだろうし、触れれば奴の体がどういう感じなのか分かる。」
「・・・よし。 サイカ、お願いできるか?」
「ああ。 何とか倒れなくても怯ませるくらいは出来るだろうぜ。」
「もし駄目でも、私が魔法で追撃します。」
アイルドさんが私達を隠しているからこそ出来る作戦会議。 私も出来るだけ補助しないと。
「アイルドさん。」
「話は聞いていた。 瞬間はワシが見よう。」
そして数秒の静寂に包まれ、そしてアイルドさんが肩を下げた。 それが合図だと言わんばかりにサイカさんがアイルドさんの肩を借りて上空から飛び出す。 そして前のめりになっていた魔物の頭部よりも飛び越えて、その後頭部に思い切り後ろ蹴りを食らわせた。 魔物は急な出来事と後ろから攻撃されたことによってバランスを崩した。
「くっそ! こいつ硬ぇぞ! 普通の攻撃じゃ効かないかも知れねぇ!」
「それなら私が! 「自身を守る汝の肉体を崩さんとす ユルート」。」
今唱えた呪文は相手の装甲をほんの少しだけ柔らかくする白魔法で、ほとんどの場合は魔物にしか使えないと思っていた魔法の一つ。 そもそも街にいるのでは魔物に会う機会もないので、使い所が無かったとも言えるけど。
「私も続きます! 「我が魔力により生成されし水流 フォロール」!」
マノさんの魔法で魔物の真上から水が滝のように当たる。 この辺りの魔物が水による攻撃に弱いのは、魔力的にも物理的にも実証済みなので、魔物も痛みを伴っていることだろう。
「もう一度いけるか!? サイカ!」
「こんだけ弱ってりゃ勝てるぜ! 「地砕き」!」
水魔法の攻撃を受けて、うつ伏せで倒れている魔物の背中に真上から拳を叩き込むサイカさん。 かなり勢いよくいったのか、魔物は悲鳴をあげることもなくそのまま消えていった。
「よっしゃ! オレ達の作戦勝ちだ!」
「見事な采配だったユウシ。」
「とりあえず危機は去ったな。」
皆さんが励まし合っている中で、私はマノさんと軽くハイタッチを交わした。
「しかし今後この道は通りにくくなるぜ? 道幅が細すぎて一人ずつ通るしか無いみたいだ。 見通しも悪いしな。」
魔物を倒すために前の方に飛んでいたサイカさんが先の状況を説明してくれた。 この先はかなり危険な道らしい。
「ふむ。 では隊列はどうする? このままワシが先頭を行くか?」
「それも考えたのですが、前方の状況が分かりにくいのもどうかと思いまして。」
アイルドさんの盾は収縮してしまえば確かにそこまで大きくはない。 だけどそもそもアイルドさん自身が大きいし、道幅を考えれば逃げ場所が無くなるのは困るのだろう。
「それにアイルドのおっさんが落ちたら誰も助けてやれねえぜ? オレ達4人でも留めるのがやっとだろうぜ。」
確かに他の誰かなら1人、最悪2人で引き上げればいいけれど、アイルドさんが落ちた場合は、非力な私達では鎧ごと持ち上げるのは不可能に近い。 最前列にいってしまえばなおのこと出来なくなるだろう。
「隊列、道幅、敵の出現に加えて、下手をすれば天候で土砂崩れを起こす。 さて、どうするか・・・」
「あの」
そろそろ私もなにか発言した方がいいと思ったので、声を出した。
「どうかしましたかホノカ殿?」
「いえ、道の件なら私が解決しますよ。」
「というと?」
そう言って私は崖近くに手をかざす。 そして魔導書を開きながら呪文を唱える。
「「我が手前に作らんは見えざる障壁 エアール」。」
そしてその呪文を唱える。 手元が光った後には私の手元に魔力の流れを感じた。
「・・・? なんも変わってなくないか?」
「私も見えません、けれど、ホノカさんの手元から、魔力が流れているのは、見えます。」
流石の私も目の前のこれを黙視することは出来ない。 だからこそ私も流れているという感覚しかない。 手をかざしたままでいると、マノさんが崖まで近付いてくる。
「マノ、流石に危ない・・・」
「いえ、恐らくここにホノカさんが作った見えない壁があるんです。 実際に触れるまでは、透明で、なにも見えませんが。」
マノさんの説明に、ユウシさんは剣先で私が作った壁をつついた。
「・・・確かにここになにかあるようだ。 これも白魔法ということなのだろう。」
「なるほど、これなら我々が落ちる心配は少なくなるわけか。 ホノカ殿。 この魔法はどのくらい継続出来るのだ?」
「私が手を掲げている限りは消えることはありません。 それにこれは私達だけが有効なのではありませんので、その辺りはご注意を。」
「よくゲームとかにある「見えない壁」って奴だよな。 確かにこれがあるだけで落ちる確率は減るよな。」
「安全に配慮させてくれたんだ。 無駄にせずに行こう。」
そうして細道を進んでいく私達。 隊列としては前方からユウシさん、アイルドさん、私、マノさん、サイカさんの順番になった。
アイルドさんよりもユウシさんが先にいるのは、魔物と対峙した時にすぐに報告が出来ること。 アイルドさん程ではないけれど相手の攻撃をいなせる技を持っていることから、簡単には遅れを取らないからと説明してくれた。 アイルドさんは私達を守るため、サイカさんは後ろからの敵に対処出来るようにするためだとか。
「そう言えばその見えない壁は、ホノカ殿が手を掲げている限りは消えることはないと言ったが。」
「はい。」
「それは魔物と遭遇した場合はどうするのだ? 一度魔法を無くすのか?」
「そう言うことになります。 あ、勿論戦いが終わればすぐに張り直しますので、そこは大丈夫です。」
「ふーん。 オレ達にはマノが魔法使いとしていたから、ある程度は疲れを感じるんだろうなとか思ったんだが、ホノカは全然疲れてないのな。 白魔導師なだけあるな。」
サイカさんには感心の言葉を貰うけれど、果たして本当にそれが白魔導師だからなのか、それとも適性魔法によるものなのかは分からない。 個人的な疑問が新たに増えつつも、岩肌片手に登頂を目指すのだった。




