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我が背中だけは傷つけぬ

今回はアイルド視点となります

「ブルルルルルル!」


「まさかこのような魔物がこの場所に存在するとは・・・」


 森を抜けて山の岩肌に差し掛かろうかと言った矢先に、まるでこの先に行かせぬかのように猪の魔物が我々に威嚇をしていた。


「ここの魔物達はよっぽど山に登らせたくないみたいだな。 何かあるのか?」

「分からない。 だが向こうも臨戦態勢に入っている。 戦いは避けられない。 行くぞ!」


 戦いが始まる。 ワシはいつも通り敵の攻撃に備えて盾を構える。 他に武器は必要ない。 この盾こそがワシの防御であり攻撃の要だからだ。


 自分には盾や鎧など、相手の攻撃を耐え得るに必要な装備をしている。 そしてこの盾には色々と改造が施されており、


「アイルドさん! そちらに行きました!」

「あい分かった!」


 ワシはユウシに警告を受けて、盾を構えてから盾の裏に仕込んである数個のワイヤーとボタンを丁寧に押していく。 するとその盾は先程持っていた時よりも一回り大きくなり、更にいくつもの針を飛び出させた。 戦闘の際には自身が重いため、機動力は全く無いに等しい。 だがそれでも守るべきものを守るために、今の盾を改修に改修を重ねて、攻守両立出来るような形にしたのだ。


 敵の突進してくる足音が聞こえてくる。 ワシが動かないので、真っ向から力比べするつもりのようだ。 魔物ではあるがその立ち振舞い。 我が身で答えよう。


 ワシの盾に衝撃が走る。 後ろにいる2人にはなんとしても近付けまいとワシは足を踏ん張らせる。


「ぬううぅ・・・!」


 奴との力比べで負けるわけにはいかない。 なによりここでワシが退くことは許されないからだ。


「アイルドさん! そのまま頼みます!」

「アイルドのおっさんから離れろ! 猪野郎!」


 盾の向こう側でユウシとサイカが攻撃に加わっている。 魔物はワシの盾の針でしばらくは身動きが取りにくくなっている。 今なら弱らせるチャンスだろう。


「「貫くは天然なる樹木なり ウドランス」!」


 後ろのマノ殿も自身の魔法で魔物を攻撃している。 これならばワシが踏ん張れば・・・


「ブモモモモ!」

「うお!」

「うわ!」


 雄叫びと共にワシにかかっていた体重が無くなった。 僅かに見える盾の隙間から向こうを見ると、猪の魔物が背を向けて走っていた。


「退けたのか?」

「いや、これは・・・!」


 ユウシがなにかを理解したように叫ぶと、猪はこちらを振り向き、そして前足で土を蹴っていた。


「まさか・・・先程の突進よりも更に強力な突進を繰り出すつもりか!? ユウシ、サイカ! ワシの後ろに来るんだ!」


 ワシの号令にユウシもサイカも応える。 そして奴が突進を繰り出す。


「この音・・・さっきよりも明らかに重い!」

「ワシが必ず止める!」


 新たなボタンとワイヤーを操り、もっと大きな盾を生成した。 そして盾の下部分は杭のように地面に突き刺す。 これでワシの全体重を乗せれば強固な盾が生まれる。


「この足音からしてかなりの突進力だ・・・アイルドさんでも、耐えられるのか?」


 いや、それは違うぞユウシよ。 ワシは耐えねばならぬのだ。 ワシとて伊達に最前線を張ってきたわけではない。 例えワシの身が砕け散ろうとも、ユウシ達だけは守り抜くと決めたのだ。


「もうすぐ当たるぞ! 突進力は衰えねぇ!」


「「この世のどの物質よりも硬度を極めん セメントーモリ」。」


 ホノカ殿がなにかの呪文をワシに唱えた。 するとワシの持っている盾とワシの身に纏っている兜と鎧がなにかに覆われたように包み込まれる。 そしてその数秒後に「ゴゥン」という鈍い音がした。 ワシは1歩も退く事はなく、どうなったのか分からなかった。


「ど、どうなったのだ?」


 ワシにはなにが起きたのか分からん。 全員が無事でワシも無事だと言うことしか分からない。


「アイルドのおっさん。 魔物が倒れてやがる。 多分おっさんの盾にぶつかってそのまま絶命したみたいだな。 お、消えてく消えてく。」

「魔物が角を落としたぞ。 何かに使えるかもしれないから取っておこう。」


 サイカとユウシが現状を言ってはくれているが、ワシは一向に動ける気配がない。 鎧が固められているのか、全くと言っていいほど動かせないのだ。


「・・・ああ! ごめんなさいアイルドさん! すぐに解除しますね! 「変化を元に戻して リワインド」。」


 ホノカ殿が別の呪文を唱えると重みはあるが、感覚のある重みへと戻った。 今回はホノカ殿の魔法があって魔物を倒せたと言ったと過言ではない。 あの突進を食らえば、ワシも後ろにいた皆もただでは済まなかっただろう。


 その日の夜は森での最後のキャンプをする場所であった。 今宵はワシが先に睡眠を取り、明朝から皆が起きるまでの時間をワシが見張るという役割になった。


「アイルドのおっさん。 そろそろ時間だぜ。 ふぁぁ・・・」

「・・・む、そうか。 すまない、今起きる。」


 そうしてサイカと交代したのち、ワシは椅子に座り、そして目を瞑る。 眠るためではない。 強靭な肉体は強靭な精神に宿るとも言われる。 瞑想をすることで心の冷静を保っているのだ。 何時いかなる時でも、年長者であるワシが冷静に物事を見て考えれば、自ずと仲間は理解し、ついてきてくれるものだ。


 それほど時間が経っていないだろう時に、風が動いたのを感じた。 敵ではない。 そしてまだ日が昇るか昇らないかの時間帯に動くものとは?


 瞑想を止め目を開けると、そこにはやかんでお湯を沸かしているホノカ殿の姿があった。 ワシはその行動に内心安堵した。


「ホノカ殿も随分と早い目覚めであるな。」

「すみません、どうもこう言ったのには落ち着かなくって。」

「睡眠が取れていればそれでよい。 そうだ。 昨日の事で聞きたいことがあったのだった。」


 ワシは思い出すように昨日の事を振り返った。 あの猪の魔物の事についてだ。


「ワシにかけてくれたあの魔法、あれはなかなか便利なものだったが、どうしてあの場面で使ったのだ? いや、最初から使っていればとは思わんが、使う場面が限られないかと思ってな。」


 そうワシが訪ねる。 そしてホノカ殿が考えるために空を見る。 そして口にだした。


「あの魔法「セメントーモリ」は物質を一時的に硬度を上げます。 しかしそうなれば重量や固定化もついてくるので、次に動けなくなるんです。」

「ふむ。 確かにあの魔法をかけられた時には動けなかったな。 だがそのお陰で魔物を倒せたというわけでもあるが。」

「相手はコンクリートの壁におもいっきりぶつかったようなものですから。」


 そんなものに自らぶつかりに行けば、脳震盪は免れないだろう。


「私の白魔法は「ここぞ!」という時以外は使わないように心がけているんです。 むやみやたらに乱発すれば、ありがたみまで失われてしまいそうで。」


 ワシはホノカ殿が悲しそうな表情をするのを見ているだけだった。 彼女が悪いわけではないはずなのだが、だ。 我々はそのようなことは気にしないのだが、どこかホノカ殿には思うところがあるのだろう。


「それにしてもお背中、とっても綺麗でしたよ。 服越しでも分かります。」

「む。 恥ずかしい所を見せてしまったな。 あまり背中は見せないようにしていたのだがな。」


 話題をホノカ殿が変えた。 本来ならワシが話題を変える役割のはずなのに。 ホノカ殿は人の気持ちに敏感なのだな。


「本当に綺麗でしたよ。 傷ひとつないなんて。」

「それがワシにとっての誇りだからな。」


 そう、それこそがワシが盾役となり、皆を支える理由。 ワシは皆のように剣術も無ければ武術の心得もない。 そしてなによりも魔法適性も無かったが、この鍛え上げた身体だけがワシの武器だった。


「ワシがどれだけ傷付こうとも、決して敵には背を向けぬ。 そして背中に守るものがあるからこそ、ワシは踏ん張れる。 それがワシの生きる理由。 このパーティーとしての存在意義だ。」


 自分語りをしてしまったと改めて思い、ホノカ殿を見れば、特に表情を変えずに、ただ真剣に聞いてくれていた。


「すまないな。 ワシばかり喋ってしまって。」

「いえ、それだけの誇りを、これからも失わないで欲しいと思っただけです。 私もその想いに全力で応えたいですから。」

「ホノカ殿・・・」


 ホノカ殿にはどこか優しさを感じる。 まるで母や祖母に語りかけているかのように。


「もうすぐ夜が明けるな。 皆のために朝食を用意せねばな。」

「そうですね。 お湯も既に湧いていますから、飲み物はすぐに作れますよ。」


 そうして2人で朝食を作ることにしたのだった。


「ここから先もワシが先導する。 皆は後ろの警戒を。」

『了解!』


 ワシは盾を持ちながら歩む。 このワシの誇りを潰えないように。


「アイルドさんも、ホノカさんからなにかを悟られたようですか?」


 すぐ後ろをついてきていたユウシからそんな質問をされる。 その質問にワシは「フッ」と笑いかける。


「ホノカ殿は白魔導師と言っていたな。 言い当て妙だとワシは思ったな。」

「本当に、仲間になってくれたことを感謝したいです。」


 互いの事を知らぬ仲ではまだあるが、それでもホノカ殿なりに我々と接しようとしている姿。 なんとしても守りきらねばと1人の少女の姿を見て考えたのだった。

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