街のみんなと出来ること
「ん? おお! 勇者様方! 原因は分かりましたか?」
下流へと下って行く途中で、塞き止めをしてくれた人と、他の数名の若い男性達が、塞き止めていた毒の塊をスコップで掘り起こしていた。 私達が対処した塊よりは小さいけれど、それでも量としては十分な位に採れていた。
「ええ。 正体は魔物の毒でした。 むやみやたらに触らない方が良いでしょう。」
「やっぱり毒だったってよ! 危なかったなぁ。」
「それで、その魔物は?」
「倒したは倒したぜ。 けどよぉ・・・」
「けど?」
「すみませんがこれは私が片付けますので、先に行って説明をした方が良いかと思います。」
そう言って完全に採りきった後の塊に私は「ポイケシ」を唱えて、みんなと一緒に街の方へと下っていったのだった。
「魔物は定期的に出るから、川の方に対策をしておいた方が良い、ですか。」
この街の代表の人や若い人達を集めて、ユウシさんは一度そう説明した。
「現状あの毒を取り除けるのは、今この場では白魔導師であるホノカさんただ一人です。 しかし彼女も我々と共に旅をする仲間。 お側に置くことは出来ません。 それならば魔物達から川を守る方法が、一番安定するかと。」
「ふむ。 確かにあの川はこの街で作物などを育てるのには唯一と言って良いほどに重要な水源。 魔物からの被害を出す前に対処しなければ、手遅れになる。 なにか良い案は無いか?」
「今のように川の流れを制限してその塊を止めるのは?」
「それでは塊が増える一方で、水の供給が減れば農作物へ別の被害が生まれる。 上流で落ちてくるなら、川を囲うように堀を作れば・・・」
「今回のような簡易の柵はともかく、大掛かりな物になると川の側面を削りかねないし、魔物以外の動物達もあの川は利用するから、泥水になるのは避けたい気がする。」
「でも魔物が川に流してるなら、それも致し方ないかと・・・」
集まってくれた人達が話を出しては意見を述べあっている。 街の事は街の人達が決める。 普通な事でも当たり前には出来ないだろう。 前の世界では。
「勇者様方はどうなさるので?」
「行く末を見守る。 なにか力添えが出来れば遠慮無く言ってください。」
「とんでもない。 勇者様方のお手は煩わせませんよ。」
「でも、なにか力になりたいんです。」
街の代表の人が必要ないと言った要求を、私が遮った。 ただ見ているだけでは、私の中の何かが収まり切らなかったからだ。
「彼女も我々の仲間です。 治癒魔法を使わずとも皆さんのサポートは出来ます。 どのみち我々も滞在するのですから、人手は多いに越したことは無いでしょう?」
ユウシさんもそう代表の人に詰め寄る。 詰め寄るって言い方は悪いけれど。
「分かりました。 早くに対処を出来たお陰で、お昼過ぎには一度案が出来上がる事でしょう。 その時はまたよろしくお願いいたします。」
そう言われて私達は集会所のような場所を後にした。
「別に街の人達がやるんだから、オレ達が手を出すまでも無いんじゃね? オレ達だってやることはあるんだから。」
「そう言うでないサイカ。 乗り掛かった船なのだから、尽力は出すのが勇者としての在り方だともワシは思うぞ。」
「アイルドのおっさんは真面目だねぇ。 ま、オレだって街を点々と歩く旅に飽きてきてたから、文句はねぇけどよ。」
アイルドさんとサイカさんのやり取りを見ながら、私は内心ホッとしていた。 流石にちゃんと見守る理由があったのだから。
「ホノカさんももし怪我人が出たとしても、傷薬などを利用してサポートをお願いします。 白魔法を広めたくない訳ではないのですが、あなたの魔法は強力だと聞いています。 あまり大きな怪我でなければ多様は厳禁かと。」
「分かりました。 私も出来る限りで皆さんのサポートを致そうと思います。」
「わ、私も、この街の人達の為に、頑張ります。」
ユウシさんもマノさんもやる気はあるようで、次の街に出発を控えながらも、この街の事を最後まで見届けるようだった。
「おーい! そっちの柵の素材、こっちにくれ!」
「そこは掘りすぎるなよ。 これ以上は川幅を広げるわけにはいかないからな。」
そして午後から始まった作業は、上流部の魔物の毒を川に流さない様にするための柵の確保だった。 木製の柵でもあの毒の塊は溜めることが出来るので、まずは高過ぎない程度の堤防を作る運びになった。 当然私達もお手伝いはしている。
「フッ! これぐらいの大きさかな?」
「おう! ありがとうよ勇者様! 均等に切る作業はあんたが一番適任だから、任せっぱなしになるのは申し訳無いが。」
ユウシさんは持ってきた木材を均等に、しかもささくれ無く切る仕事をしている。 自前の剣で切ってるわけではないのにあそこまで繊細に出来るのは凄い技術だと思う。
「この木が良いだろう。 サイカ、頼む。」
「オッケー! ハァッ!」
「・・・うむ。 良い大きさになった。 ではワシはこれを運んでくるとしよう。」
向こうでは樹木をサイカさんが武術で伐採し、それをアイルドさんが持っていく作業が行われていた。 アイルドさんの大きな身体は伊達では無かった。 そしてその間私とマノさんはと言えば
「ありがとう。 今度はこっちのやつにニスを塗っておいてくれますか?」
「はい。」
「分かりました。」
私達は物理的なお手伝いは出来ないので、こうして出来る限り皆さんと一緒に柵を作るための下準備をしている。 そしてそうこうしているうちに柵の半分近くが作られていった。 日が沈む前の半日でここまで出来たのは、みんな積極的に柵作りに参加してくれた賜物である。
「よし! 今日はこんなところだ! 残りは明日にするぞ! 朝からやるから時間があるやつはなるべくこっちに参加してくれよな!」
皆さんを纏めてくれていた人が手を上げると、同じ様に手を挙げながら威勢の良い声を出していた。 これならこちらの問題はすぐに解決できそうだ。 ならば次に直面するのはもう一つの問題だ。
「あとは魔物が再び現れた時どうするか、と言う点だな。」
宿屋に帰った後で食事を取っている最中に、私の思いを代弁するようにアイルドさんが声を出した。
そう、魔物が出た時、対処もとい退治できる人が圧倒的に少ないのだ。 屈強な人達はちらほら見えるものの、その人達も畑を耕したり街に建造物を建てる為に鍛え上げられたようなもので、戦いにおいては疎遠に近いものを感じる。
「それも大事ですが、まずは毒の塊をどう対処するかも問題になると思います。」
アイルドさんに続くように私も意見を述べる。 魔物が倒せても、川から毒が流れないとは限らない。 特に今回は魔物の尻尾が直接川の中に入っていたからと言う事があったので分かりやすい状態になったものの。 柵から少量でも塊が発生すればいつかは決壊し、また川に流れるかもしれない。 しかし毒だと分かって触る人はまずいない。そこも一つの問題になっていることだろう。
「ホノカの魔法を使えないのか? ほら昼間にやったやつ。」
「出来なくは無いのですが、無限に残るわけではないので・・・毒消しの魔法が無くなってしまえば、また塊として作られてしまいます。」
「どこかに運ぶにしても埋めるにしても限度がある。根底的な解決は現状難しいのかもしれない。」
ユウシさんも自分達が留まらずとも街の人達の解決を望んでいる。 ポイケシを付属させたアミットも魔法が尽きればそれも使えなくなってしまう。 それでも少しでも解決に近付ければと思う。
そして翌日になり、昨日の続きの柵を作っていると、見通しが立ったようで、同じ作業をしていた数名の若い人達は別の方向へと進んでいったのを確認した。
柵はなんとか完成に至った。 魔物が現れる場所と完全には隔離はしていないものの、それでも私達が見た魔物は越えられない作りになっていて、しかも登ろうとしても越えられないようにネズミ返しのような物も作っていた。
「とりあえずはこんなもんだ。 でもこれで完成ではない。 改良を重ねることも多くなるだろうが、我々の街の安定した生活のためにも、みんなには都度協力をしてもらうことになるだろう。 勇者様方がいなくても、我々だけで生計を立てられることを見せて、安心して魔王討伐に向かって貰えるように、これからも頑張っていくぞ!」
「「おおっ!」」
手伝ってくれた人達もやる気は十分で、昨日と同じ威勢の良い声が上がった。
「おーい! こっちも出来たぞ!」
先程離れていった人達が帰ってきて、何かを作ったように言ってきた。 それを見に足を運ぶと、そこには大きくはないけれど、複数の穴が用意されていた。
「これを落とし穴にして魔物を落としたり、毒の塊を入れて土で埋めて様子を見ようと思ってるんだ。 あの毒の塊が土程度でどうにかなるとは思ってねえが、街に出るよりはましだと思ってな。」
こちらもこちらで別の対策を取っていたようだ。 街に行かないことを優先するならば、これでも構わないだろう。
「勇者様方。 我々の心配は無用です。 この世界に1日でも早く、平和が訪れる事を我々は願っております。」
「みんな・・・一刻も早く平和を届けられるよう、必ず成し遂げよう!」
ユウシさんが自分の持っていた剣を掲げ、街の人達に活力を見せていた。 その中に私もいる。 私も魔王を倒す為に召喚された1人として、この活力を忘れないようにしよう。 この世界の為に。




