街での依頼
「一体どうした? そんなに大慌てで。」
「とにかく来てくれ! 川の水がおかしくなっちまったんだよ!」
川の水が? 残っていた朝食を掻き込んで、その人の話を聞くことにした。
「落ち着いてください。 あらましを教えて頂けますか?」
「あんたは勇者パーティーの・・・説明するよりも、とにかく見て貰った方が早いかも知れねぇ。 着いてきてくれ!」
そう言って大慌てで出ていってしまった。 とりあえず私達も準備は出来ていたので、その人を追いかけることにした。
「これがその川なんだけどよ。」
目的地に着いた私達が目にしたのは至って普通の川だった。 だけど少しだけおかしな事を言えば
「川の深さに対して、水の流れが悪くないか?」
アイルドさんの言った通り、川の水が非常に少ない。 マノさんの話ではこの辺りは土壌が良いと言っていた筈。 それなのに川の水が少ないのでは、作物に十分に水が行き渡らないのは、ここの人達はならばすぐに分かることだろう。
「ここはあくまでも下流だ。 理由はもっと上にある。」
そうして川の上流の方へと足を踏み入れる。 そしてある場所に差し掛かった時、この川の流れが悪い原因を見つけた。
「・・・これは・・・川を誰かが塞き止めたのか。」
ユウシさんがそう呟いた。 そう、そこにあったのは川幅位に設置された木の板だった。 完全に川の流れが悪いわけでないのは、下の方が檻のようになっていて、そこから一定量の水が流れているのみだった。 簡易的なダムのようなものを作っていたのだ。
「川を塞き止めたのは俺だ。 俺が急いで作ったんだが、明朝で見に行ってなけりゃ、ここら一帯が駄目になるところだったんだ。」
どう言うことなのだろうかと塞き止めている反対側へと回ってみてみると
「うわっ! なんですか!? この紫色の塊は!?」
私は驚愕した。 見るからに禍々しく、ブヨブヨとした塊がそこに溜まっていたのだ。 下流側の水が無事なのは、この塊がここで止まっているからだろう。
「俺が塞き止め始めた時よりも増えてやがる。 今までこんなこと無かっただけにどうしたらいいか困ってたんだ。 そうしたら勇者であるあんた達がこの街で泊まってるって聞いたんで、ダメ元であんた達の元に助けを求めたんだよ。」
「恐らく上流側になにかあると言うことですね。 それならば請け負いましょう。 どんな小さなトラブルでも、勇者であるからには、それに手を差し伸べるのが性ですから。」
「申し訳ねぇ。 もし魔物の仕業だったとしても、俺達じゃ対処できねぇ。 情けねぇ話だ。」
「そんなこと無いですよ。」
悲観的になりそうになっているその人に私は優しく声をかけた。
「あなたの迅速な行動が無ければ農作物への被害が出て、街の人達に影響が出ていました。 情けないなどと思わないで下さい。 人にはその場に応じて、出来る出来ないが現れるのです。 問題は私達に任せてください。」
「あんた・・・ ・・・おっしゃ。 俺は若い連中を連れて、この塊を何とか排除する。 そっちは任せますぜ!」
そう言ってその人は街の方に下っていき、私達は上流へと目指すことにした。
「にしてもホノカ。 あんたすげぇな。」
歩いている道中でサイカさんにそんな言葉をかけられる。
「何がですか?」
「あの街人に言った言葉だよ。 オレは慰めるなんてこと出来ないから、あんな風に出来るのは、ある意味才能だと思うんだよ。」
「確かにそうだ。 我々は人々を魔物や災害から守ることは出来るが、起こってしまった後の事は管轄外になりやすい。 心のケアまでは出来ないことが多いんだ。」
「勇者としては耳の痛い話だけどね。」
サイカさんに続いてアイルドさんもユウシさんもそう言ってくる。 私としては人には得手不得手があるのだから、出来ないことまでやらせようとするのは間違っているのではないかと、この世界に来て改めて思った。 適材適所なんて都合の良い言葉にすら聞こえてくるのだ。
「それにしても、確かに上に行くにつれて、濃度が濃くなっている気がします。」
マノさんが言うように川の色がどんどん紫色になっている。 これでは農作物に使わなくても、飲み水としても使えないことだろう。 この先に何がいるのだろうか。 そんな期待と不安が入り交じった感情が渦巻いていた。
「そろそろこの川の上流付近に着くぞ。」
先頭のアイルドさんがそんな報告をしてくる。 そして川の色は完全に紫に染まっていた。 原因が目の前にいると言うことであるのは分かっていた。 そして森を抜けて開けた場所に出た。 そこで見た光景は
「・・・魔物だね。 明らかに。」
そこにいたのは数体の亀のような魔物だった。 その魔物は自分の近くに生えている草をゆっくりとした速さで食べていた。
「あ! 見ろ!」
サイカさんの指差す方に目を向けると、亀の魔物の後ろ側、正確にはその尻尾が川に浸かっていた。 そしてよく見るとその尻尾から下流付近まで流れている紫色の何かが出ていたのだった。
「どうやら原因が明確になったようだね。」
「ああ。 幸い向こうはこっちに気が付いていない。 先手必勝でオレが行くか?」
「いえ、倒すのは構わないんですけれど、多分それだけじゃ解決はしないと私は思います。」
サイカさんが拳に付けた爪を「ガチンガチン」と鳴らすのを確認してから私は意見を述べる。
「そうだ。 魔物は倒せばある程度の素材を落として消えるが、しばらくすればまた同じ魔物が現れて、同じ様に被害を繰り返すだろう。」
「でも魔物は、一部を除けば同じ場所にしか同じ魔物は現れません。」
アイルドさんの言葉にマノさんが続く。 同じ魔物しか現れない。 だけど定期的に倒しに行くのも多分手間になるんじゃないかな?
「とりあえずあいつらは倒しても良いんだよな?」
「・・・そうだな。 まずは倒してから考えよう。 アイルドさん! こちらは出来るだけ敵に気が付かれないように先手を撃ちます! 敵がそちらに行かないように注意して下さい!」
「任された! マノ、ホノカ殿はワシの後ろに。」
そう言いながらみんなそれぞれの位置に着いた。 ユウシさんは右の、サイカさんは左の魔物に狙いを定める。
「やぁ!」
「フッ!」
ユウシさんの振り下ろされた一閃で首を一撃で落とし、サイカさんは懐に潜り込んで下から腹を蹴りあげて、そのまま腹を殴った。 それに気が付いた魔物は2人に襲いかかるが、速さで言えばこちらが上。 すぐに追撃が入っていき、そして魔物達は消失をしていったのだった。
「ふぅ。 倒せた。」
「でもあんな魔物前に来た時いたか?」
「新たに生み出された魔物かもな。 とにかく報告をしに行きがてら、対策案を考えよう。 魔物は種類によってはすぐに現れる。 二度も三度も構ってはいられない。」
そう言いながら下流へと私達は歩き出そうとしたけれど、まずは魔物達によって汚されてしまった川をどうにかするのが先だった。
「このまま下流まで流れれば、塞き止めていた場所で塊として集めることは出来るだろうが・・・」
アイルドさんが渋い顔になる。 アイルドさんが心配しているのは、その塊を回収出来ているのかどうかと、回収出来ているとして、果たしてその塊を捨てる場所があるのかという懸念が混じっていた。
魔物を倒したから消える、と言うものでないのは川を見れば一目瞭然。 村の人達では完全にお手上げかもしれない。 そんな気持ちになっていた時に、不意に肩を叩かれる。 見るとサイカさんが叩いていたようだ、
「なぁホノカ。 前に見せてくれたあれでこの水、浄化出来たりしないのか?」
「前に見せたって言うと・・・あぁ。 あの濾過魔法ですね。」
私が納得すると早速試してみることにした。 今回の場合は塊として残るので、濾過自体はそこまでしなくても良さそうだ。
「「作らんは目に見える捕縛の糸 アミット」。」
そうして川幅にアミットを形成させた。 すると下流で見たものよりも多くの塊が作られていった。
「凄い・・・! でもこれだけでは・・・」
「分かっているわマノさん。 そしてこの塊は・・・「有害なる素質を取り除いて ポイケシ」。」
その塊に向かって毒消しの魔法をかける。 するとその塊はどんどん小さくなっていった。
「色から大体想像はしていたが・・・やはり毒ではあったか。 川を見に来たあの人が塞き止めていなければ、確実に農作物が、この街の人が死んでいただろう。」
問題自体は解決出来る。 でもその先のことを考えなければいけない。 私達はその塊が完全に消滅したのを確認してから、下流へと下っていった。




