今の世界に来て
「どうやら季節の変わり目に訪れる体温変化による体調不良のようです。 それと慣れない場所での日射による体温の上昇が脳にまで負担になったようでして・・・僕としても少々迂闊でした。」
翌日になっても体調が治らなかったので、そのままベッドで寝ながらマウスレッドさんの話を聞いていました。 まさか日射病にまでかかるとは思っても見なかった。
「正直なことを言えば、急激な魔力放出による魔力枯渇かと思ったのですが・・・こちらの対応不足でした。 本当に申し訳無いです。」
そう言ってマウスレッドさんは頭を下げた。
「止めてくださいマウスレッドさん。 マウスレッドさんだけのせいではありませんよ。」
そう訂正する私。 まだちょっと頭が痛いし、視界も虚ろだけれど、マウスレッドさんだけの罪ではないので、そこだけは言いたかった。
「でも良かったのではないですか。 こうしてホノカさんがゆっくり休める理由が出来たのは。」
そう言うのは隣でリゾットを作って持ってきてくれたカレトさん。 今は1人分のお椀に取り分けてから私に渡してくれた所だ。
「ありがとうございます。 それで良かったとは?」
「ホノカさん、この世界に来てからなんだか体に力が入りすぎているように見えましたし、緊張感がなかなか取れていなかったと思いますよ。」
自分の中では分かっていなかった変化。 それは前の世界と違うことによる警戒心が強くなっていたということ。 その荷が体から降りたのだとカレトさんは言った。 流石は病院に通っている人なだけあるなぁ。
「ではその緊張が解けて、この世界に慣れたから、ということですか?」
「それも起因している、というだけよ。 季節の変わり目の体調不良とはまた別。 とにかく何日かはおやすみなさいな。 動きすぎてまともに体も休めてないでしょうし、少しくらい私達に甘えてくださいな。」
そう言ってカレトさんは部屋を出て、マウスレッドさんもそれの後を追うように出ていった。
「部屋で休んでて、ねぇ・・・」
そう思いながら私はカレトさんからもらったリゾットを食べる。 元々私はアクティブに動くような人間ではなかったのは自負している。 だからこそだったのかこの世界では自分が白魔導師だと言われたこと、何だかんだで趣味である絵を描く事が出来た事が色々と私の体を無意識に動かしていたのかもしれない。 それだけはしゃいでいたのか、使命感に動いていたのか、とにかく体の疲労も省みずに行動していた部分があったようで、その疲れが今になって現れた、ということだろう。
「ふぅ。 ごちそうさまでした。 ゆっくり休んでと言われても、実際になにをしようかしら・・・」
この世界にはまだテレビが無いようだし、私が所持しているスマホも既に使用不可の領域に入っている。 スマホの中に入れてある音楽はとりあえず聴けるみたいなので、それを聴きながらもう一度目を瞑ることにした。
「「聴覚集中魔法 リスリード」。」
勿論この音楽を他の人に聴かれても困るので、魔法で私の耳にしか聴こえないようにした。 元の世界の言葉が通じる理由は分からないけれど、会話が出来ると言うことは何らかの翻訳魔法のようなものが私の中に入っているのかもしれない。 でなければ最初の召喚の時点で訳も分からないままこの世界に留まることになっていたから。
聴こえてくるのは安らぎの歌詞と音楽。 忙しく動いていた今の私には十分すぎるくらいの心の安らぎ。 そんな安らぎの中にあったからか、いつの間にか私は目を瞑って、そのまま眠りに入ったようだった。
次に目を開けた時に見えた光景は自分の部屋だった。 但し地球の日本でのだが。
なにも変わっていない、何もかもが残っている私の部屋。 そんな時ふと部屋の下から声がした。
「穂乃果。 そろそろ時間よ。 早く降りてきなさい?」
これは・・・母さんの声だ。 時間・・・スマホの時間を見ると7時数分前を差していた。 とりあえず私は下に降りることにした。
リビングのドアを開けると朝食を用意している母さんと、既にトーストを囓っていた父さんがいた。
「やっと起きてきた。 ほら、早く食べちゃいなさい。 制服に着替えないなんて珍しいこともあるんだから。」
制服・・・そういえば私は今パジャマだったことを思い出して、椅子に座って朝食を取ることにした。
「学校は楽しいか? 穂乃果。」
あまり朝は多く語らない父さんが珍しく私に聞いてきた。 学校・・・そうだ。 私大学に行っているんだった。
「あれだけ頑張って受かった大学だ。 キャンパスライフは大変だろうが、穂乃果にとって充実した人生になると思っているよ。」
「・・・普段から言うのが苦手なのに、ちゃんと伝えられたじゃないですか。」
「・・・すまない。」
「謝るのは私ではなく穂乃果にですよ。 心配して願掛けまでするんですもの。 娘に素直じゃないんですから。」
父さんがそんなことを思っていたなんて夢にも思わなかった。 元々誤解を受けやすかった父さんだったけれど、そんなことをしてくれていたことに私は涙が出そうだった。
「さ、時間になるわよ。 ほら、準備しなさいな。」
ハッとして急いで朝食を掻き込んで、制服に着替えてドアに手を掛ける。
「穂乃果。」
呼ばれたので母さんの方を振り返る。 父さんも顔を覗かせていた。
「母さん、行ってきます。」
「ええ。 あぁそれと、こっちの事は心配しなくていいわ。 貴女は貴女なりに生きなさい。 離れても見守ってるからね。」
「・・・え?」
既にドアを開いていた私は、母さんの最後の言葉に疑問を持ったまま、ドアから差し込む光に包まれて、そして再び目を開けると、今度はマウスレッドさんの家の私の部屋の天井が見えた。
「・・・そうだった・・・あれは・・・夢だった・・・」
今更になってその事を痛感させられた。 分かっていた。 私の両親は元の世界にいることを。 私は別の世界にいることを。 もう二度と・・・会えないのではないかと・・・
「母さん・・・・・・父さん・・・・・・」
耳から聴こえてくるバラードに包まれて、私の目からは雫が流れた。 私は、私を産んでくれたあの二人に、なにか返せていただろうか? 父さんの本当の想いを知ることも出来ず、母さんの優しさを汲み取って揚げていなかった。 夢の中の母さんの最後の言葉。 私に未練がないように、私の中で変換したのかもしれない。 そう思ってしまったら、私は、枕を濡らすことしか出来なかった。
「・・・今入れるのは心苦しいですね。 日を改めて貰う方が・・・」
「馬鹿ね、ああ言った時こそよ。 待ってなさい。 私がやるわ。」
外で声がする。 私は涙を拭って、入ってきた人物、ルビルタさんと会話をする為にそちらに顔を向けた。
「入るわよ・・・って既に勝手に入ってるけどね。 具合はどうかしら?」
「すみませんルビルタさん。 少しだけ寝たら楽になりました。」
「楽に、ねぇ・・・ 私からはそんな風にはあんまり見えないけど?」
先程まで泣いていた事もあってか、頭が痛いのは自室だったりする。 どこまで聞かれていたのかは分からないけれど、心配だけはさせたくなかった。
「ま、いいわ。 それよりもお客さんよ。 ホノカにね。」
「お客さん?」
そうしてドアを開けたマウスレッドさんと共に入ってきたのは
「ホノカさん、大丈夫でしたか!? 突然倒れられたと言われて。」
「私達も心配しておりました。 ご負担をかけていたようでしたら、こちらでもホノカさんのやり方を考慮致します。」
「魔法使いは肉体的、精神的に負荷があれば、それだけで魔法放出に影響を及ぼす。 体調は良くなっていても、もう少しお休みになられた方が良いでしょうな。」
「絵描きの姉ちゃんがいないから探してたら、今日は寝てるって言われてさ。」
「だから私達で絵を描いてきたの。 お姉さんが元気になるようにって。」
「なんか悪いことしちまったみたいだったからよ。 見舞品にゃ合わねぇが、うちの魚の甘酢漬け食って、元気を取り戻しておくれよ。」
自警団のカナッツさん、具現化院のラフェルマさん、モリューシュさんに私の絵を見に来てくれている子供達に、昨日のお店の人まで色んな人が私の部屋に入ってくる。
「ラフェルマさんやモリューシュ様は魔法使いなので僕が違和感を出せば分かるのですが、他の皆さんはどうやったのか、ホノカさんが体調不良だとしると、僕に場所を案内させられました。 いやはやここまでとは。」
この世界でなんて事の無い事をしていたのに、色んな人達に、私の存在がちゃんと認識されている事を私は知った。 知ったからこそ私は、また目から涙を溢していた。
「ホノカ? どうしたの?」
「いえ、す、すみません。 なんだか、嬉しくって。」
これは嬉し涙。 私がこの世界でもやっていけることを認めて貰えた証拠とも言える。 母さんが言った言葉は私の体の言い夢だけれど、それでも本当に嬉しかったのだと、私は思った。
お見舞いに来てくれたみんなが帰った後で、私はマウスレッドさんに言った。
「私、この世界でマウスレッドさんに買われていなかったら、こんな風に人々から心配されることなんて、無かったのかもしれないです。」
「人の出会いとは一期一会、でしたっけ? 僕達もホノカさんに会えたことを、本当に嬉しく思います。」
そうマウスレッドさんも答えてくれた。 母さん、父さん、私はこの世界でもやっていけるようです。 ですからあの言葉が例え夢だったとしても、ずっと見守っていて下さい。 私は、もう大丈夫だから。
そう思いながら私は夜をゆっくりと過ごして、1日でも早く街の人達に元気な姿を見せるために、静かに眠りにつく事にしたのだった。
召喚された主人公によくありがちな話を書かせて貰いました。
これがあるだけで今後の展開が作りやすいんですよね。




