季節は移り変わる
この世界に来て3ヶ月が経ちました。 向こうへの世界へと帰れるか分からなくなっていますが、私は既に向こうへの世界への未練は無いので、例え向こうの世界へと戻ろうとは思いません。 その事は考え抜いた末にマウスレッドさん達にも話してあります。 改めて話すとなった時は家族会議のような雰囲気にはなったものの、答えとしては
「そうですか。 しかしホノカさんが決めたことですし、僕達は特になにかを助言する必要も無いようですね。」
「そうですね。 ホノカさんにはまだまだこの先辛いことが沢山あるかもしれませんが、ホノカさんにはそんな状況でも覆せる心を持っている様ですし。」
「悪かったのは最初だけ。 後はこの世界の事を楽しんでください。」
「内心はヒヤヒヤしてたけどねぇ。 帰らないならそれはそれでいいじゃない。」
と、何だかんだで意見を受け入れてくれていました。
そんな事を伝え終わった翌日、今までは暖かかった気候から、太陽が暑く感じるようになってきました。 今着ている服では暑いと感じてしまう程に。
「今日から熱期に入ったようですね。 これからこの辺りはもっと暑くなりますよ。」
マウスレッドさんも昨日までのジャンパー姿とは違い、七分袖の服装へと変更をしていた。
ちなみにさっきマウスレッドさんが言った「熱期」とは、日本で言う所の夏にあたる季節らしく、この国にも四季は存在する。 熱期が夏なら冷期が冬になるそう。 ちなみに春は暖期で秋は寒期だと言うのだそう。
「多分街の衣服店にも時期に合わせた服が用意されていると思います。 一度見に行きますか?」
「え? いえ、そんな申し訳無いですよ。」
「申し訳無いと思うのはこちらも同じですよ。 いつまでも姉のお下がりと言うのも・・・」
私はこの世界に来てから、服についてはルビルタさんの衣装を着回していた。 元々の私の服はもしも元の世界に帰ることになった時のために残しておいたのだけれど、もう向こうに戻らないのなら必要ないのかなと思いつつ、元の世界の唯一の名残でもあるので、捨てることはしないことにした。
「まあとにかく行きましょう。 この世界の季節代わりと言うものも味わって貰いたいですし。」
確かにマウスレッドさん達の家にいる時は、魔法の力で快適な温度で暮らせている。 それが外に出たときに急に変わってしまっては体は慣れない。 マウスレッドさんなりの気遣いなのだろう。
そんなわけで私はマウスレッドさんと共に街に出ました。 外に出ると家の中に居た時よりも暑さを感じ、つい腕まくりをしてしまう程だった。
「こちらの夏・・・熱期はいつもこのような感じなのですか?」
「そうですね。 季節の変わり目は唐突に現れますから、街の皆さんも商材を変えるのでてんてこ舞いだと思いますよ。」
少し街に入っただけで、あちらこちらで右往左往している人達がよく見える。 その手には商品が入っているであろう箱があり、その中の商品を出しては、外に出ていた商品を入れたりと、忙しそうにしている姿がよく見えた。
「大体夏の前に連続的な雨が続くけれど、こっちではそういった天候の変わり目は無いのかな?」
「それは興味深い現象ですね。 一体どのようにしてそのようなことが?」
あ、本当に無いんだと色々と日本離れし始めているんだと感じつつ、梅雨についてマウスレッドさんに分かる限り話しながら、街を歩いたのだった。
「ホノカさん。 着きましたよ。 ここで服を購入しましょう。」
着いたのは何て事の無いただの服屋。 前の世界でもよく見かけるような服屋だった。
「なんというか、もっとしっかりした場所で購入するのかと思っていたのですが。」
「ここもしっかりとした場所ですよ。 着飾るのも良いですが、普通に生活する分にはこういった場所でも十分だと思いませんか?」
私としてもその意見はごもっともだと思ったので、なんの抵抗もなく私もお店の中に入っていった。
「いらっしゃいませ。 どのような商品をお求めで?」
「彼女にあった熱期を過ごせる服装を見繕って欲しいのですが。」
「かしこまりました。 それでは熱期に合わせた服装でしたらこちらのゾーンになりますので、直接確認の上でご購入の検討をお願い致します。」
少しのやり取りの後に私達はその場所へと向かった。 そこには薄手の素材を使った服やワンピース、ミニスカートやホットパンツなど様々な種類が取り揃えられていた。
「凄い・・・こんなにも服があるなんて・・・」
「種類もそうですが、数もそれなりに多いのがこのお店の特徴だったりします。」
「数?」
「ここにも少なからず冒険者はおりますので、服は一種の消耗品。 まとめ買いしていく人も少なからずいるようで。 ほら、ここにまとめ買いによる値引きの値札もありますよ。」
マウスレッドさんが指差す方を見ると、確かに値引きの値札があった。 ここでは値引きは%値引きではなく直接値段の値引きみたい。
「まずは気になった服から見てください。 僕もそれに合わせて見繕いますので。 僕は一度こちらを見ていますから、決まりましたら声をかけてください。」
そう言ってマウスレッドさんとは離れて、私は服を見ることにした。 とはいえ私自身もあまりお洒落至上主義ではないので、こういった服でも問題はない。
「うーん、この半袖は動きやすくていいかも・・・ ・・・いや、肩紐の服はちょっとなぁ・・・」
今の状況では本気で悩んでいる。 というのもプライベートで着ていたものなんてたかが知れていたし、そもそも誰かに会うための服を選んだことすらなかった。 これを機にお洒落に目覚める、何て事はあり得ないとまで思っている。
「ならやっぱりこの辺りが一番かなぁ?」
そう手に取ったのはこの世界の文字で書かれたデザインのTシャツ数着だった。 これを選んだ理由は至極単純。 絵を描くので汚れても大丈夫な代物として選んだ。 とはいえそれだけでは味気無いと思い、先程気になったワンピースやらも数着取ってきた。
「おや? もうよろしいので?」
「私、前の世界でもそんなに着飾るのは好きではなかったので。」
本音である。 別に好きな人がいたわけでも、社交的でも無かったので誰かに見せる訳じゃないなら必要最低限で十分だと思う。
「そうでしたか。 もしホノカさんが望むのならば装飾店にでも行こうかと思ったのですが・・・僕のお金だからと遠慮しているわけではないのですか?」
「そこまで遠慮しているなら私はそもそもここに寄ったりしません。」
自分のお金もあるのにとは内心は思った。 でもこれはマウスレッドさんの好意によるもの。 そこまで無下にするほど私も人が悪いわけではない。
「そうでしたか。 いえ、ホノカさんからなかなか欲しいことややりたいことを言い出してこないので、家族として少し心配だったりしているのですよ。」
そんな心配・・・家族として受け入れて貰えているのはありがたいのだけれど、そうハッキリ言われるとむず痒いものが出てくる。 甘え下手もここまで来ると最早何をしていいのか分からなくなる。
そして私の分とついででマウスレッドさんも服を見繕っていて、それを購入してお店を出た。
「まさか私のだけでなく、マウスレッドさんの服にまで値引きがされるとは・・・」
「元々大量購入が推奨のお店でしたからね。 そう言った部分もしっかりしていると言うか。」
普通に服を買う値段よりも1割2割は安くなっていて、お店の方は利益が少ないんじゃないかと思ったけれど、案外そうでもない様子。 ああ言うのを商売上手って言うんだろうなぁ。
「あ、お荷物お持ち致しますよ。」
「いえ、大丈夫です。 私にはこれがありますから。」
そう言って私は服の入った紙袋に向かって手をかざす。
「「物質の質量の軽減を エステール」。」
すると先程まで服の重みを感じていた紙袋は、私の力でも両手で持てるようになっていた。
「質量軽減魔法ですか。 しかしそれならば服を軽くしたら良かったのでは?」
「この魔法、実は質量を完全に無くしてしまうと空気抵抗が無くなってしまうんです。 なのでこう言った複数個の運んだりする時はむしろ全体的に掛けるくらいがいいんです。」
それでスケッチブックを軽くしたら本当に紙のようにふわふわ浮いて風で飛ばされそうになったものだから、回収が大変だったのは記憶に新しい。
「なるほど。 質量軽減魔法があるということはその逆も?」
「はい。 「物質の質量に更なる荷重を ウエイティ」という魔法です。 こちらも調整が可能です。」
実際にこちらも日常生活においてはかなり便利だったりする。 まあ重たくする場面なんてよっぽどじゃない限りは使わないんだけど。
「うわ!」
そんな風にマウスレッドさんと話していると、「ドスン」という音と共に何かが溢れるような音がした。 見てみると木の樽が大量に置かれているお店だった。 周りには私達以外にはいなかったので、近くまで様子を見に行くことにした。
「どうされましたか? なにがあったのですか?」
「ああ・・・実はこの木蓋の上に重石を乗せようと思ったら、うっかり落としちまってな。」
「大丈夫でしたか!? お怪我は!?」
「いや、怪我はしてない。 ただ重石が割れちまって。 今日仕込んだ奴だから早めに圧縮しておきたいんだが・・・流石になにも乗せないまま放置するわけにはいかないんでなぁ・・・でも割れちまったら重石にならないんだよ・・・」
「それなら任せてください。」
そう言って私は割れてしまった重石を触る。
「「物質の質量の軽減を エステール」。」
まずは重石を軽くして蓋に乗せる。 勿論割れてしまった分全てを。 そしてその後に再び重石に触る。
「「物質の質量に更なる荷重を ウエイティ」。」
すると今度はその重石をある程度まで重くする。 魔力を多く注ぎ込めば、私が離れていてもしばらくは持つだろう。
「はい。 これで問題ないと思いますよ。」
「お、おう。 済まねぇな、手間掛けさせてよ。 あんがとな。」
そうして困った人(なに屋なのか聞くのを忘れていた)を助けて荷物を持って歩きだそうとした時に、私の視界が空を捉えた後・・・気を失ったのだと知ったのはその日の夜の、マウスレッドさんの家の自室のベッドの上だった。
小説内では3ヶ月経っていると言うのは
まあ、そう言うことにしておいてくださいという意味合いです。




