書いた絵は意外なところで大人気
私はこの世界に来てからも常日頃から何かしらの絵を描き続けている。 近くの置物、街並み、遊んでいる子供達。 人から「そんなものを描いて何になるの?」と言われようが構わない。 そう言った日常を描いている事が私にとっての趣味であり、私の楽しみである。
「今日はどこに行こうかな? 前は東側の街並みを描いていたから、次は門前側で描いてみようかな。」
自警団の仕事もあって、この街の地形も概ね分かってきたこの頃。 マウスレッドさん達が心配しない程度には街を一人で歩けるようになったし、買い物も普通出来るようになった。 とはいえ相場としてはまだいまいち掴みきれていない部分も存在するのでまだ勉強中ではあるけれど。
さてそんな中で門前側まで来た私は、何処で描こうかなと辺りを見渡して、いいポジションが無いか探していると
「おや、ホノカさんではありませんか。 自警団のお仕事に来られたので?」
丁度近くを通りかかったカナッツさんに声をかけられる。 自警団任務を全うするなかで、良く一緒に仕事をするようになったのもあって、カナッツさんとはちょくちょくプライベートで街を散策することも多くなった。
「いえ、今日はこれですから。」
カナッツさんには私の趣味も知らせている。 スケッチブックを見せてカナッツさんも納得した。
「なるほど。 でしたらそちらにお座りください。 丁度いい高さだと思いますし、色んな人が見れる方がホノカさんとしてもありがたいと思うので。」
カナッツさんがそう言ったので、その場所へと座り、まずは慣らすために遠くの屋台などを描いていく。
「お、ホノカじゃないか。 自警団任務以外で来るのは珍しいな。」
他の自警団さんとも仲良くなったこともあって、最近顔が広くなったように思える。 そしてそんな中で見回りのグループを見かけて、1人の男性と目が合い、手を軽く振った。 すると向こうも小さく振り返してきた。 その人はこの街に無銭で入ろうとして、団長であるミシルさんのお慈悲で自警団の仕事をさせて貰った人だ。 そして意外にも冒険者と自警団の仕事を両立出来ることにしっくりと来たらしく、ああして定期的に仕事をするようになったよう。 元々色んな街を渡り歩きながらの生活だったようで、留まりながら生活できることに少し安堵した様子だったのを覚えている。
そんな人達と仲良くなれたのも、故に皆が優しかったからだろうと思っている。 あのまま性奴隷になっていれば、こんなことはまず起こり得なかっただろうし。
あの時の記憶を奥底にしまいつつ、私はある程度筆が乗ってきたので、街に入る人やその馬車、冒険者と衛兵さんのやり取り、近くを見学に来た子供達。 様々な人や物が要り組むこの場所はモデルスケッチにはもってこいの場所だった。
絵を描く上で大事なことは大きさを明確にすること。 よく鉛筆を立てて大きさを図るようなポーズを取るのだけれど、私はあまりやらない。 別に見ただけで大きさが分かるわけではないけれど、描き続けることである程度の空間把握能力がついたようで、下書き位ならばすぐに描けるようになった。
「次はこれを描いてみて・・・あ、その前にあの人を描いてからにしようかな。」
そう言いながら描いていたりするので、結構目標物はコロコロと変わる。 まあ1つに没頭するよりは色んなものを描ける方がいいんだけれど。
そしてそれをお昼が過ぎた辺りで手を止めて、お昼を買ってきてからもう一度同じ場所で昼食を取る。 今日描くと決めた場所はそこから帰るまで動くことはしない。 その方が集中が出来るからである。
そして午前中と同じ様に様々な物を描いていると
「あ! 見つけた! 今日はここにいたんだ!」
絵を描く手を止めて顔を上げると、そこには数人の子供達が私の前に立っていた。
「ねぇねぇ! 今日はなに描いていたの? 僕達に見せてよ!」
「私も見たーい!」
そう、この子達は私が絵を描き始めてしばらくした時に見に来てくれた子達で、最初は女の子1人だったのに、今となっては10人くらいにまで集まるようになっていた。 この子達はある意味でお客さんなのだ。
「ちょっと待ってて。 もう少しで・・・よし、描き終わった! それじゃあまずは・・・これとか!」
「わぁ! お馬さんだ!」
私の描いた絵を見て、凄い凄いと喜んでくれている。 今まで絵描きなんて趣味でやっていたに過ぎなかったけれど、こうして小さな子供達に喜んで貰えることは嫌いではない。 むしろやりがいを新しく与えてくれたこの子達には、私の中で感謝しないといけない存在であった。
子供達と賑わいを見せて、皆が満足すれば子供達は帰っていくだけだった。
「また見せてね! 絵描きのお姉ちゃん!」
「次も絶対に見つけるからな!」
別に私は隠れてるつもりはないんだけどなぁ・・・ あの子達がお遊びの延長で私を探しているのだと考えれば、なんだかホッコリもする。
「随分と人気があるのですね。」
その様子を遠くから見ていたのか、カナッツさんが子供達が掃けたタイミングで私のところにやってくる。
「ええ。 いつの間にかあんなにも集まって来てくれて。」
「それだけホノカさんの絵に魅力があるということです。」
そう率直な感想を答えてくれるカナッツさん。 私としては本当に趣味の延長線でしかやっていないのだけれど、喜んでくれる人がいるのは案外嬉しいものである。 そしてその相手は子供達だけではない。 そう思っていると1人のお婆さんが私の前に立った。
「ホノカさん、今日はここにいらしていたんですねぇ。」
「あ! もしかしてここまで来られたのですか!? いつもはお家の前で見せているのに! 無理をなさっては・・・」
「いやいや、今日はこちらに用事があったものですから、こうして足を運んだら、ホノカさんがいただけですよ。」
このお婆さんは足腰がよろしくなくて、この門前に来るためには歩くだけでも一苦労な筈。 そんなお婆さんがたまたま来てくれただけなのに、心配をしてしまった私は少しだけ罪悪感を感じた。
「今日もお絵かきかい? ホノカさんの絵は、どこか暖かさを感じるからねぇ。」
「あ、それじゃあ今日も見ていかれますか? 子供達にもさっき見せたばかりなんですよ。」
そんな罪悪感を拭う事が出来るなら、絵を見せることなど容易い事である。
「そうかい。 こんな時にまで見せて貰えるなんて、あたしゃ運がいいねぇ。」
確かに私は同じ場所で絵を描く事は無い。 毎回どこかで描いてはいるし、子供達が見つけてくれる時間にいるとは限らない。 私も自警団の仕事だったり、具現化院へ行くこともある。 そうそう毎日見れる筈でも無いのに、今日は出先でたまたま見れたというのは、運がついているという意味では合っているかもしれない。
「ではどうぞ。」
「どれどれ。 ・・・うん。 どれもこれもしっかりと描いてあるけど、やっぱり心が暖かくなるよ。」
「そう言っていただけると幸いです。」
「ホノカさんの絵を見て元気が出たよ。 帰りも頑張れそうじゃよ。」
そう言ってお婆さんは門前の自警団の人の元へと歩いていった。
「ホノカさんの絵は人々を元気にさせてくれる、本当に魔法のアイテムの様ですね。」
カナッツさんはそんな一部始終を見てそんな感想を言っていた。
特に利益になるものではない。 だけどこの街の人達にはしっかりと根付いているようだと、改めて思った。
「・・・ん?」
そんな時にふと目の前を三毛猫が通った。 普通なら何て事の無い野良猫で見過ごしていたのだけれど、私はどこかあの三毛猫に覚えがあったような気がした。
「ねぇカナッツさん。 あの三毛猫・・・どこかで見たこと無かったですか?」
「え? どこですか?」
あ、あれ? 確かにそこにいた筈なんだけど・・・指差した方向には既にその猫はいなかった。
「ホノカさん、どんな猫でしたか?」
「ええっと、三毛猫でちょっとタレ目で・・・ あ、描けばいいんだ。」
そう言いながら私は記憶を頼りに殴り書きのようにその三毛猫を描いていく。
「こんな感じの猫だったんですけど・・・」
「うーん・・・? あ! 分かりましたよ! 北区の方で迷子猫として貼り紙が出ていた猫ではないですか!?」
探し猫・・・それなら貼り紙があってもおかしくはないのかな。
「まだ近くにいる筈です。 すみませんがホノカさん。 この紙を貰っても?」
「はい。 あ、ちょっと待ってください。」
そう言って私はその紙に向かってある呪文を唱える。
「「無機物を複製せし力 ココッピ」。」
すると1枚だった紙は数枚分へと膨れ上がった。
「皆さんに見せるなら直接の方がよいかと。」
「確かにこれなら1人ずつ渡せそうです。 早速行ってきます!」
カナッツさんは急いで事務所へと走っていった。 私はこの場にいても邪魔になりそうだったので、そのまま帰ることにした。
その後の事で三毛猫は見つかって、探していたご主人の所へと無事保護されたと連絡を受けた。 後日改めて私にお礼もしたいらしいとも言っていた。 次はしっかりと見ておいた方がいいと思います。




