新たな魔法は新たな魔導書へ
「魔力を分け与える魔法・・・確かにどこにも記されてはいない魔法にはなると思います。 類似した魔法も聞いたことはない。」
「ワシも魔法使いとして長らく見てきたが・・・発想への行動力は今の魔法使いには無いものを感じる。 無意識か直感か。 いずれにしてもワシもこんなことは滅多に見たことがなかった。」
私が戻ってきたことで何事かと聞かれたので、先程起きたことをありのままに答えたら、ガネッシュさんもモリューシュ様もそんな反応をされていた。
「あの・・・なにかいけないことだったでしょうか?」
「ああ、すまない。 不安にさせてしまったね。 しかしホノカさんの行ったことは、魔法使い達に取っても有意義な事なのですよ。」
「そうなのですか?」
「新たな魔法の誕生というのは熟練した魔法使いでもなかなか出来るものでもなければ、出逢えるものでもない。 偉業とまではいかなくとも、大いなる進化を遂げられるのは間違い無いということですじゃ。」
なるほど、なんでもかんでも魔法がある世界ではないということなんだ。 でもそこで私は1つの疑問が生まれる。
「あの、私、その魔法を無詠唱で使ってしまったのですけれど・・・大丈夫なのでしょうか?」
そう質問するとガネッシュさんもモリューシュ様も顔を見合ってから、やや考え込むように腕組みをした。 や、やっぱり無詠唱はまずかったのかな?
「・・・どう思われますか? モリューシュ様。」
「ふむ。 無詠唱での魔法の発動は別段問題ではない。 しかしその魔法をその者しか使えないというのはもったいない。 となれば取れる方法は魔導書に書面をすることが一番ですな。」
無詠唱なのに魔導書に書面をするの? どういうことなのかモリューシュ様が説明に入った。
「よろしいですかな? 元々魔法というものは詠唱を唱えれば使える、というものではないのはお分かりですかな?」
「ええっと、その人に魔力がない、もしくは魔法に対して適性な魔力じゃないって事ですよね?」
「その通りですじゃ。 ホノカ殿の白魔法が使えても攻撃魔法が使えないことと同じことですじゃ。 じゃが例外もあり、無詠唱魔法は個人的から魔法使い全員に使えるようにする方法がある。 その方法と言うのが」
「魔導書にその魔法使い本人の魔力を流して、唱えれば使えるようにする、ということですか?」
「まさしくその通りじゃ。」
具現化院で見た本の中にはそう言った魔導書があるのは知っているし、その魔導書の中から実際に魔法として取り入れたものもあるので、結論としてはすぐに出た。
「とはいえ今回は結界を作る仕事の方を優先して貰いたいので、どのような魔法を使ったのか、感覚を忘れない内になにかにメモをしておくことをオススメします。」
すぐにでも具現化院に行くのかと思ったのだけれど、ガネッシュさんがそう言ったので、今回は見送りのような形になった。 時間を取られたような気がしたので、すぐに魔方陣のある部屋へと戻って、すぐに自分が使える限りの魔法を、時間いっぱいまで魔法を撃っていた。
「では本日もよろしくお願い致します。」
「すみません、わざわざこのような機会を設けて頂いて。」
「構いませんよ。 元々この白紙の魔導書にはホノカさんの白魔法以外はほとんど入っておられませんので。」
私が新しい魔法を自分で編み出してから2日後。 私はマウスレッドさんと共に知識の具現化院へと足を運んでいた。 編み出したその次の日に行くと思ったら、「結界作りに貢献したばかりだし、休む暇もないのはこちらとしても心配になる。 そんな状態で魔法を撃っても質の悪いものになってしまう。」とガネッシュさんに言われたので、次の日は魔法も撃たないでお家でゆっくりとしていた。 思えば私は前の世界でも休み方を知らないかのように多忙に動いていたように感じた。 何も考えないで、ただゆっくりとしたのは子供の時以来な気がする。
閑話休題
事の顛末は既に話を聞いていたのであろうラフェルマさんがその魔導書が保管されている場所に案内される。
「そういえばどうして未完成の魔導書なのに別の場所に保管されているのですか?」
「理由は3つあります。」
ラフェルマさんから指を立てられる。
「1つは魔導書としてお客様に提供を出来ないからです。」
「未完成だから、ですか?」
「その通りです。 それに関連して2つ目が魔力が暴走してしまわないように、という理由があります。」
「暴走?」
「色んな方が入れる魔導書ですし、ホノカさんも実感していると思いますが、真っ白な魔導書に魔力を流し込むので、どのように魔力が混じっているか分からないですし、なにより使った魔法使い本人の魔力が安定しなければ世に出せないのですよ。」
私の疑問はマウスレッドさんが答えてくれた。 絵の具のようなものかと私は思い浮かべた。 色んな色を混ぜることで新たな色を作れるけれど、配合とかを間違えると全然思い通りの色にならない、そんなイメージだった。
「そして3つ目が先程マウスレッドさんがお話なられた、魔力の安定です。 安定性を持たせるまではどうしても時間が必要ですし、魔法の数だけ魔力の質があります。 そしてそれらが他者に渡らないようにするために別の場所へと保管をしているのです。」
ラフェルマさんが説明を終える。 知識の具現化院だけあって、その辺りもしっかりとしているようだ。 流石に暴走してしまっては具現化院としても不始末なものになってしまうのだろう。
そんなことを考えている内に魔導書が保管されている場所に到着した。 そして私は魔導書を渡される。 というのも今手に持っている魔導書は私が持つ前から白紙で、ほとんど私が使った魔法が書かれている。 第二の白魔法の魔導書として残したいと言っていたので、そう言うことなのだろう。
「では今まで通りに白魔法を魔導書への記載を・・・と言いたいところなのですが。」
「?」
「お話をお聞きしたところ、今回の魔法は無詠唱での発動とのこと。 無詠唱の場合は魔法としては扱った本人にしか使えないことになります。」
確かにモリューシュ様もそう言っていた。 あれから詳しく話を聞いたところ、無詠唱で魔法を唱えることは別段問題ではないし、いきなり出来た、と言う点においてはむしろそれが一般的な部分もあるらしい。 ただその魔法の使用者が魔法使いかそうでないかが魔導書の記載に影響を与えるのだとか。
「そして無詠唱の場合は、記載する際にその名称を付けなければなりません。 そうしなければ記録としても残らないので。」
「ええっと、それってつまり・・・」
「今回使った無詠唱の名付け親になる、と言うことになりますね。」
うえぇ!? そ、そんなことになるの? うわぁ・・・責任重大になってきた・・・
「そんなに心配することはありませんよ。 名付け親になると言うことは魔法使いとしてとても誇りを持てる事なのですよ。」
マウスレッドさんはそう言うけれど・・・ 簡単になにかに名前を付けるって言うことは出来ないのが、普通の人の性であって。
「名前などは自分の頭に浮かんだ言葉を、詠唱できるように形にすれば成立します。 急かしたりは致しませんので、じっくりとお考え下さい。」
確かに時間は関係ないけど・・・今後この魔導書を読まれると思うと下手な詠唱文句を伝えるわけにはいかない。 でも分かりにくいのも困るだろうし・・・ それなら・・・
「「我に眠る力を他者へと分け与えたまえ トランサー」」
そう私が魔導書に詠唱をすると、その言葉がどんどんと浮かび上がり、最終的に、その魔導書の1つの言葉として記載された。
「・・・お疲れ様でした。 新たな魔法として魔導書に記されました。」
「ふぅ・・・今回は無詠唱の魔法を唱えたからか、どっと疲れが来ました。」
「元々無かったものを形付けたのだとするならば、その分の魔力の消費は確かに激しいですね。 しかしホノカさん。 あなたは無詠唱を形にしたにも関わらず「疲れが来た」程度にしかなっていない。 あなたの今の魔力量は、最初に来たときよりも格段に増えているのです。」
マウスレッドさんは喜びを表している。 多分普通の人、もしくは魔法使いだったら魔力切れギリギリまで持っていかれて、立つことすら困難なのかもしれない。 私はこの世界で特別な存在になりつつあるのではないか。 そう考えたらなんと言うか、自分に価値がついたような気がしてきた。
「では今回の作業も終わりましたので、今日はこれで。 ラフェルマさんもありがとうございました。」
「え? そのまま帰るのですか?」
「流石に魔導書に無詠唱魔法を具現化させた後には作業はさせませんよ。 というよりも、そういうことにしておかないと、家族のみんなに大目玉を食らってしまう。 「少しはホノカさんの事を労ったらどうだ」とね。」
私はそこまで・・・と言いかけたが、心配をかけたくは確かに無い。 私も普通に具現化院から去ることにした。 私って甘え下手過ぎるんだよなぁ。




