街の結界を張る仕事
この世界に来てから早い話で2ヶ月が過ぎた。 私はマウスレッドさん達と街の結界を作っている街との境界の門へと足を踏み入れた。 理由は至極簡単。 私にも結界を作る仕事が回ってきたからである。
「お待ちしておりましたヒダリーご家族様。 そしてホノカ様。 今回の結界維持作業に参加して貰い誠にありがとうございます。」
たまたま居合わせた魔法使いの方にそう言われる。 そんな風に言われてしまうと複雑な気分になってしまう。 そんなことを知ってか知らずか、マウスレッドさん達はその人と少し会話をした後に階段を下りていく。 そして最初にモリューシュ様の所へと足を運んだ。
「いらっしゃい。 今日はそこのお嬢さんの初の結界維持作業になるな。 しかしなにも家族全員で見守りに来ることも無かろうに。」
そう、今回ここに来るのは本来なら私だけだったのだけれど、初の結界維持作業で心配になったのか、マウスレッドさん達総出で私の事を見に来たのだそう。 はじめてのお使いみたいになってる気がする。
「良いではないですかモリューシュ殿。 私は他の魔法使いの観察も兼ねているので。」
「お主はそう言うだろうなガネッシュ殿。 まあ良い。 代わり映えのしない場所ではあるが、今回は白魔法がどのように作用するかも確認したい。 すまないがワシも少しばかり観察をさせて貰うぞ。 興味がないと言えば嘘ではないからの。」
そう言われながら私は結界を張っている魔法使いさん達の中へと紛れ込む。 みんな魔法を撃つことに集中しているのか、私が入ってきたところで気が付いていないように見えた。
「ええっと、とりあえず私が普通に撃っても大丈夫な魔法を使わないと。 白魔法とは言え魔力を出すなら放出系になるだろうし。」
私の勝手な考えではあるけれど、この結界を作るのに必要な魔力は体から離れた魔法だと思っている。 攻撃魔法を吸収するのならばそう言うことかなと考察はしているので、相手に渡す身体強化魔法はともかく、個人で使用するための白魔法は今回は使えないのではないかと思っている。 使えないというよりは、使ったところで結界の一部にはならないだろうという判断からだ。 そんなことを思いつつ私は白魔導書を開き、1つの置物を置いた。
「まずはどれだけの魔力を回収するかの確認からね。 「物質の持つ質量に更なる重量を グラビトーン」。」
置物に向かってそう唱えた魔法によってその置物は重みを増す・・・事はなかった。 近寄ってその置物を持っても、最初の重量のままだった。
「ほんの少し床が沈む位の重量になるように魔力を送ったけれど・・・魔力が取られたって感じが無かったな。」
感覚的になにか分かるものなのかなとやってはみたものの、体から力が抜けたとか、魔力が減った気がするとかのような感じは無かった。 それだけ魔力に対して負担がないのか、それとも実は吸収されていないで霧散してしまったのかを考えていた。
「他の魔法でもやってみないと分からないかな。 どうしようかな? それならこれならどうかな? 「物質を柔らかくして包み込め ソフトラップ」。」
この魔法なら全体魔法に近くなるので、効果が現れやすいかもしれない。 そう思ったのだけれど、以前のように地面が柔らかくなるわけではなかった。 だけれど発見もあった。
「そっか。 吸収しているのは地面からだったんだ。」
先程は目標物に対して魔法を使ったので、魔力の流れが分からなかったけれど、今回は床に直接手を添えながら魔法を唱えたので、魔力の流れが手元に伝わってきた。 つまり空に放った魔力は全て床から吸収されて、結界を生成しているのだと分かった。
「それなら魔力は下に流れるような魔法の方が良いのかな? あ、でも放出している魔力も下に吸収されるからあんまり関係無いのかな。」
そんなことを考えつつも、止まっていては結界なんて張れないので、別の魔法を唱える。
「この世界に来た時よりも魔力量が上がってる?」
大体2時間くらい連続で魔法を使用しているにも関わらず、前みたいな魔力切れが起きてない。 それほど大きな白魔法を使っていないのかと問われると決してそうではないはずなのに。
「常日頃から何かしらの魔力を使えば、魔力の体内循環が変化し、蓄積できる魔力量が増えるのです。 勿論魔法の質だって上がっていきます。」
上の方からガネッシュさんの声が聞こえた。 ほかの皆さんは既にいなかった。 しかしそう言うことならば、この2ヶ月の地味たる魔法の練習は無駄ではなかったという証明だ。 コツコツとやることは嫌いではなかったので、こうして結果として現れる分には分かりやすいかもしれない。
少し休憩も兼ねてモリューシュ様の元へと戻る。 魔力を放ちながら周りを見てみても似たようなことをしていたので、私もそう言うことにした。
「お疲れ様ですホノカさん。 とても貴重なものを見させて貰いました。」
「ワシも長年この場所で結界を張っておるが・・・白魔法・・・なかなかに素晴らしいものであるな。」
「なにか他の魔法とは違う部分があるのですか?」
「うむ。 この街の結界はワシが維持していることは、前回の話でなんとなく分かったと思うが。」
確かにガネッシュさん達と会話をしているなかで、そんなことを言っていた気がする。
「ワシはその結界を作ると同時に、皆が撃っている魔法の吸収もしているのじゃよ。」
「吸収と放出を同時に行っていたのですか?」
「正確に言えば吸収だけはこの部屋一帯に魔力吸収魔法を張り巡らせていて、その魔力がワシに入ってくるのじゃが・・・お嬢さんの魔法は魔力抵抗をほとんど受けないのじゃ。」
「魔力抵抗?」
「身体的に受け付けない魔力の事です。 炎を得意とする魔法使いには水の魔力は受け付けにくく、拒絶反応に近いものが見受けられます。 最も魔力は「魔力吸収」の魔法以外で身体的に魔力を入れる方法はほぼ無いと言われています。 見つかっていないというだけですが。」
その説明を受けて頭の中に浮かんだのは輸血する際の血液型みたいだなと思った。 同じ血液型でなければ凝固してしまうとか、多分そんな意味合いなんだろうなと勝手に解釈した。 その辺りはまだ分からないから。
「そして魔力抵抗。 ほとんど受けないのは、おそらく白魔法じゃからかのぅ。 白魔法は聞けばそのほとんどが回復魔法や補助魔法だと言うではないか。 どうやらそれが魔力の中にも入っているようじゃの。 攻撃的な魔法ではないゆえに、魔力の無い一般人にも受け入れられるのだろうぞ。」
そんなことにもなるなんて、魔法っていうのも一概には言えないのは漫画や小説とかで知ってはいたけれど、ちゃんとした理由も存在していたんだ。
休憩を挟んだことで頭も少しスッキリしたので、今度は魔力を放つのではなく、今までの魔法をもっと具体的にするために絵を描く事にした。 自分の魔法は勿論の事、たまに周りで使われている魔法にも、自分なりのアレンジを加えてみたりしてとにかく色々と描いてみる事にした。 個人的にも色んな魔法を見る機会は滅多に無い訳なので、ここに来る時はこう言ったものを嗜むのもいいなと思った。
そうして描いている内に色んな魔法のイメージ画が固まってきたので、まずは1つ、魔法を使おうと私は魔導書を開き、置物に向かって詠唱を始める。
「「この世のどの物質よりも硬度を極めん セメントーモリ」。」
この魔法はどんなものでも硬くしてしまう魔法。 それこそ置物全体すらも。 だけど私がこの魔法でイメージしたのはその一部だけ硬くするというものだ。 そうすれば硬くなった事で動かせなくなるであろう間接部を動かせれるようになるかもしれない、という発想から生まれたものだった。 だけど実際に置物の一部だけ硬化させても恐らくは分からないし、なによりこの空間では魔力は全部床に吸収されてしまう。 目論見としては不確定要素の多い魔法の使い方だけれど、そう言った魔法があるということは使い方は1つではないという現れでもあると、魔法を学びながら思った。
そんなことを再度繰り返していると、ふと視界の端で凄く疲れている様子の妙齢な男性を見つけた。 私は駆け寄ってその人に声をかけた。
「大丈夫ですか? 膝をついているようですけれど。」
「あ、あぁ。 今日はハリキリ過ぎてしまって、魔力を使いきるギリギリまで魔法を放っていたら目測を見誤ってね。 少しすれば魔力は元に戻る。 若い魔法使いさんの手を煩わせる訳にはいかないさ・・・」
そう言ってはいるものの、見ている限りでは立とうとしてもフラフラの状態になっている。 「レントゲイナー」を使うまでもなく体調が悪いことは明らかだった。
魔力は食べ物を摂取したり睡眠等でも回復出来ると話は聞いているけれど、流石に休憩させるための場所まで運んでいける訳もないし、他の人の協力を仰ぐのも気が引けた。 うーん、どうしよう・・・
「・・・あ、もしかしたら・・・」
私はあることを思い付いた。 だけどこれは魔導書には載っていないし、出来る確証はない。 だけど物は試しにやってみようとその男性の手を取って、私は目を瞑って集中をする。 上手く行って欲しいと願いながら。
「・・・不思議だ・・・さっきまでの疲れがどんどん無くなっていく。」
その言葉を聞いて私は手を離すと、今度は私の方が疲れを出していた。 疲れと言っても辛くならない程度の魔力を与えたので、その魔力分が無くなった位ではあるけれど。
「一体、なにをしてくれたんだい?」
「私の中の魔力を、ほんの少しだけ分け与えました。 正式な魔法詠唱は無いですし、私の思い付きでやったことなので、加減が分からなかったですが。」
「いや、凄く助かったよ。 でももうこれ以上はやらない方がいいね。 魔力をくれた貴女のためにも。」
そう言いながら男性はこの場を後にして、私も少し休んでからモリューシュ様の元へと戻る事にした。




