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魔法使いの友人

 マウスレッドさんの家の庭で、いつものように魔法の練習と絵での具体性を描き綴る行為を繰り返している時に、1人の男性が訪れた。


 銀髪で短いストレートヘアに前髪は下ろしているが、どこか鋭い眼光を感じる。 細身で肌白なその男性は、私に目を向けていた。


「こんにちはお嬢さん。 ここでなにを?」

「えっと、絵を描いているんです。 あの、どちら様で・・・」

「・・・やっぱり君かバックス。 来るなら連絡を入れてくれと言っているだろう?」

「やぁ我等が同志。 言わずとも魔力量で分かるだろうと思っていたさ。 


 それよりも彼女について色々と知りたくなったのだが。」


「・・・中に入ってくれ。 立ち話は趣味ではないのでね。」


 そう言ってマウスレッドさんは中へと彼を案内したのだった。



「まずは紹介しておこう。 彼はバックス・フェルナンド。 とある街で工芸家をやっている。 目利きは確かだ。」

「先程は急な訪問に驚かせてしまったようです。 すみませんでした。」

「そう思うなら本当にちゃんと連絡を入れてくれ。 魔法使い同士だからと言ってなんでもかんでも分かるものではないと知っているはずだろう。」

「気が向いたらね。 それで彼女は・・・」

「彼女は僕達が保護をしているホノカ・ワキヅカさん。 君も分かっているとは思うけれど彼女は召喚された魔法使いということになる。」

「なるほど・・・確かに魔法使いの素質がある。」


 2人の会話の中心になっている私は、視線を右へ左へと動かしていた。 魔法使い同士での会合は少なからずあるとはカレトさんから聞いていたけれど、本当に唐突に始まったので、頭の中では理解が半分しか追い付いていなかった。


「ところで今日はどうしてここに来たんだい?」

「友人に会うのに理由なんているのかい? 近くに来たから会いに来た。 それだけだよ。」

「そんな風にのらりくらりな受け答えだから相手に誤解を生んでしまうのでは無いのかい?」


 このバックスと呼ばれる方はかなり能天気な性格なようだ。 しかしマウスレッドさんの友人としては真逆にもみえるのもまた事実。


「あ、あの。 お二人はどのようにしてお知り合いに?」


 だから純粋に聞きたくなった。 だって私はこの世界に来てから彼の、この家族のことをほとんど知らないのだから。


「そんなに対した話ではないよ。 な? マウスレッド。」

「そうですね。 我々魔法使いは1ヶ所に集まって学ぶ場所などは設けておりません。 基本的には独学か具現化院を通じて勉強をしたりするのですが、その時に出会ったのですよ。 彼とは。」


 聞いた限りでは友情や感動のない話だった。 いや、本人達がそう言っているので間違いでは無いだろうけど。


「それで、彼女も魔法使いの素質があるのは分かったけれど、彼女はなんの魔法が得意なんだい?」

「白魔法、と言ったらどう思う?」

「冗談、と鼻で笑うところだけど・・・ もしかして彼女は本当に・・・?」

「紛れもなく白魔法が使える。 そして既に彼女は「白魔導師」としての才覚の鱗片を現している。」

「・・・それでその膨大に近い魔力量を・・・しかしそれだけの力を持つ彼女は何故ここに? 魔王討伐の勇者一行の元へ行くのが自然だと思われるが?」

「・・・それはこの街の事情を見れば分かると思うのですが?」

 マウスレッドさんの言葉にバックスさんも目を伏せた。 状況は把握しているようだ。

「あの・・・」


 その負の感情を断ち切るために私は話題を変えようと思った。


「さっき言っていた「工芸家」というのは?」

「ああ。 バックスは主に「人や物を見る」魔法が得意なんだ。 だから相手がどんなものを創ったのか、どんな作品なのか魔法の力で分かると言うことです。」

「人の心などを覗くのは、魔法使いの間では賛否両論ですがね。」

「実際に見てなにかを鑑定するのですか?」

「正しいとも言えるし間違ってるとも言える。 普通に考えればそんなことはまず出来ない。 自分が見ているのは「価値」ではなく「真偽」なのだから。」


 真偽? 持ってきた人や創った人がいるのならともかく、物1つだけを見るだけでそれが可能なのだろうか?


「可能だから「工芸家」をしているのだけどね。」


 私の疑問に答えるかのように発したので、体が反応してしまった。


「今彼女の疑問を読み取っただろ? 彼女に疑いをかけるのならばまずは僕を疑うのが筋じゃないのかい?」

「今のは彼女が顔に出していたから答えただけだよ。 読心術は魔法とは関係無いからね。」


 どうやらこの人の元々の生まれ持った才能のようだ。 でも流石にいきなりこちらの意図しない言葉で喋られると心臓に悪い。 多分そんなところが憎みきれないから彼とは友好関係のままでいられるのだろう。 でなければ既に絶交をしていてもおかしくないレベルの才能の持ち主だからである。


「それで、これから彼女をどうするつもりだい?」

「どうするとは?」

「口には出さなかったようだが、彼女は君が王子から言い値で買ったそうじゃないか。 しかも白魔法が使えるとあれば、その才能を活かす方法は少なくとも考えているのだろう?」


 そう話しているバックスさんだったけれど、マウスレッドさんはその言葉にとても友人と話しているとは思えない険しい表情へと変貌していった。


「・・・なにが言いたいんだバックス? まさか僕達が彼女を売り物にするために使うと思っているのか?」


 最初に会った頃ではあり得ないであろう表情に私はなにも言わずに唾を飲むことしか出来なかった。 そして当のバックスさんはと言えば・・・品定めするような目から先程の会話をしていた時のような穏やかな表情に戻っていた。


「そんなことをするとは思っていないし、そんなことをしても得をする人間なんて限られている。 君を試すつもりは無かったし、そもそも読心術を使わなくても分かっていることさ。 だけど彼女の処遇はもっと偉大なるもので無くてはいけないとも思わないかい?」

「僕は彼女の望む事をやらせようと思うだけだ。 強制力を与えてしまえば個人としての尊厳も失われる。 言われたことを出来ないくらいならやらない方がまだましだ。」


 私の事1つでここまで議題が進むとは私自身も思ってはいなかった。 だけど目の前の2人の魔法使いは、白魔導師のことを、魔法使いの在り方を、そして私の事を考えて言ってくれている。 その気遣いが嬉しいような苦しいような気分になっていた。


「勇者一行の元へ推奨はするつもりは?」

「それも一度は考えた。 が、正直僕はその案は却下した。 そして姉さんや両親にも話したら納得して貰えた。」

「推奨を却下した理由は?」


 その答えを私も固唾を飲んで耳を傾けた。


「彼女が危険に晒されるからだ。」


 そ、それだけ? それだけで私は勇者一行の元へ行かなかったってこと? 確かに白魔法は攻撃魔法が苦手らしい。 何度か私も攻撃系の魔法を唱えてみたのだが、目も当てられない程に威力が無かった。 火属性ならライター程、水属性なら水道から出る水ほどと言った具合だ。


「君の場合はそれだけのようには見えないけどね。」


 バックスさんがそう返すとマウスレッドさんは溜め息をついた。 どうやらまだ隠し事があるようで、それを見抜かれたことを呆れているようだった。 多分何回もこう言ったやり取りをしてるんだろうなぁ。


「彼女は具現化院以外でこの街を出たことがない。 つまり魔物とはまだ戦わせていない。 そんな状態でいきなりパーティーに加えたならば疲労は凄まじい事になるだろう。」

「つまり今は時期ではないと。」

「そう言うことになる。 魔王討伐が速まる事と、彼女を危険に晒すことはまた別問題だ。 それに勇者一行がどこまで進んでいるか分からない。 だからこそ余計に、な。」


 やっぱりただ危険に晒されるからという理由だけでそんなことをしないとは思っていた。 私も自分の力が未熟なのは分かる。 そのために私はまだまだ勉強をしなければならないと、もっと多くの魔法を使えるようにならないと。


「・・・どうやら彼女もやる気のようだし、僕はもう少しこの街を見ていくことにするよ。」

「何度も念を押しておくが、今度からは連絡の1つくらい送ってから訪問をしてくれ。」

「はいはい。 それではねホノカさん。 マウスレッドの言葉は必ず守るように。」

「あ、は、はい。」


 そう言いながらバックスさんは家を後にした。 その後にマウスレッドさんはどっと改めて椅子に座り直した。


「ふぅ・・・毎度の事だが、あいつと話をしているとこちらの精神が参る。 悪い奴ではないが、見透かしてくるのは少し勘弁願いたい。」

「魔法使いって、大体あんな感じで?」

「似たり寄ったりと言った具合ですよ。 あいつも具現化院には行きますので、会いましたら挨拶位はしてあげてください。」


 とんだ訪問者は来たものの、それ以外は平和に訪れた1日でした、

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