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具現化院で新たな知識を

「それはまた随分な仕事をしてきたものね。」


 仕事から帰ってきた夕飯時、私は今日起きたことを皆さんに報告した。 私自身も自警団ということもあって、どう言ったものなのか想像は出来てはいなかったものの、実際にやってみて街の人との交流の場としてはかなり有効だと感じた。


「白魔法は認識としてはまだまだ少ないようです。 これを機会にして、もっと知って貰いたいと思いました。」

「我々としてもそのように魔法を役立ててくれるならば、魔法使いとしても本望ですよ。」


 そして食事を終えて私は腰に付けていた小袋を机に出した。


「日雇いとしてお給金を貰ったのですが、そこそこ重たいんですよね。」

「中身を見せて貰っても?」

 そう言われて私は小袋を逆さにすると、銀貨が18枚ほど入っていた。

「ほほう。 銀貨が18枚も。」

「自警団って全うにすれば最低でも銀貨9枚なのに、倍あるじゃないの。 凄いじゃんホノカ!」

「えぇ? いいんでしょうか?」

「それだけ仕事や能力を見て貰ったのでしょう。 報酬としては見合っているのかもしれませんよ?」


 大したことをした覚えは・・・いや、お婆さんの足の打撲を治したり、毒を打ち消したりしたので、もしかしたらそれがこの報酬金としての証明なのかもしれない。


「それなら・・・ありがたく受け取らせていただきます。」

「そうしなさいな。 あれでもミシル団長は情に熱いからね。」

「知り合いだったのですか?」

「昔馴染みってのもあるけど、私も昔は自警団に入ってたのよ。 懐かしいなぁ。 これでも自警団の中では一二を争う迅速解決をしていたしね。」

「大抵は喧嘩等のいざこざだったと聞いていますが。」

「ちょっと! 姉の威厳を損なわせないでよマウスレッド!」


 ルビルタさんにもそんな時代があったんだなということと、なんとなく想像が出来てしまったことに、少しだけ笑ってしまう私だった。



「突然申し立てしてすみません。」

「構いませんよホノカさん。 貴女は白魔導師。 私達も知らない魔法の知識のある宝物庫のようなお方です。 無下になど出来はしませんよ。」


 今私は具現化院に来ている。 一度空を飛んでしまえば後は慣れが付いてくるようで、空を飛ぶ魔法は魔法使いの中で簡単に覚えることの出来る数少ない白魔法のようで、発見されてからは魔法使い達の移動手段としては飛躍的になったそうな。


 そしてマルスティさんにお願いして、新たなる魔法の模索と試し打ちをさせて貰う事が出来るようにしてもらった。 その代わりに今後他の魔法使いが使える可能性のある白魔法を、なにも書かれていない本に書き加えてほしいとのこと。 魔法使い自らの手で書いた書物はグリモワールになると聞いたことがあったのでその事を心配すると


「グリモワールのようになってしまうのは、その書物に対して詠唱用の魔力を流し込んだ場合です。 力の強弱はありますが、魔力を流し込まなければグリモワールのようにはなりません。 そして魔力の無い書物は例えその場で唱えたとしてもその書物から魔力は発生しません。」


 とのことで、要は普通に書く分には問題はない。 万が一グリモワールになっても書物として保管するらしいので、気にする必要は無いとのことだそう。 それならいいんだけれど。


 そんなわけで私は部屋を借りて、自分の持ってきたデコイ用の置物数個とスケッチブックを机の上に置く。 そして私は自分の魔導書を開いて呪文を唱える。


「「遠方へと視線よ届け スコーピー」」


 唱えた後に目を開けると、机に置いてある置物がまるで自分の目の前にあるかの距離まで見えていた。 当然手を伸ばしても触れはしない。


「スコーピーで届く範囲は2~3m位。 しかもそこに一点集中するから逆に周りが見えなくなる、ね。」


 瞬きをして視線をリセットする。 モグラーフの時もそうなのだけれど、こう言った人体に直接影響を及ぼす白魔法は術者である私が任意で解除したり出来る。 身体強化魔法とはまた違うので、使い勝手の良し悪しはある。

 そんなことを思いつつも次の魔法へと移る。


「「視野を左右に広大せよ アイレンズ」」


 今度は視野を広げる魔法なのだけれど


「・・・うっ! 中央の視野が重なりすぎてて、なんか立体映像みたいになってる・・・これ以上は気持ち悪くなる!」


 すぐに魔法を解除をする私。 白魔法の中にも当たり外れはある。 魔導書というだけに作者であるエンピューロさんもそれっぽいものをとことん魔法を詰め込んだんだと思う。 でも実際に使ってくれる人はほとんどいなかった。 そう考えればこう言った魔法もどうなってしまうのかが分からなかったというのも、案外頷けるのかもしれない。


「って、授けてくれた人の事を悪く言うのは良くないわ! 私が受け継がないと。」


 この世界で「白魔導師」が唯一無二に近い人だったであろうエンピューロ・メディスンさん。 風化してしまった白魔導師の存在。 私に少しでも出来ることはそれを後世に受け継ぐこと。 そして魔法は危ないものばかりではない事を使えていかなければという、私なりのこの世界で生きる理由として定めた。


「この魔法にもっと具体性があればあんな風にはならないかも。 そうなると人間の目は前方向にしかないから、視野を向ける方向を変えればいいのね。 あ、でも両方違う視点は人間にとっては危険かも。 やっぱり同方向で見えないと行けないから、こうなって・・・」


「視野を広げる」と一言で言っても遠方だったり左右だったりと捉え方は様々だし、なにより使いどころが限られるのも白魔法には多い。 だからこそ効力をしっかりと捉えた上で伝えなければ、白魔法の価値がなくなってしまう。 そんなことを思いながら私はスケッチブックにさっきの2つの魔法のイメージを描いていく。


「・・・よし。 まずはこんなものかな。 後はラフェルマさんが参考にって持ってきた魔導書を確認しないと。」


 そう言いながら数冊の本の中から適当に選んで流し読みをする。 魔導書というのは後世に残すために魔法使い達が書くものらしいのだが、自分達が覚えた魔法をザックリと書く魔法使いも多く、そう言った魔導書の大半は統一性のない内容となっているため、使えそうな魔法が眠っている可能性があるということらしく、その中に白魔法もあるかもしれないと、ラフェルマさん達も思ったそう。


「・・・ええっと、これは攻撃魔法で・・・「如何なる風も当たらないで ムフーフ」・・・これは風魔法の応用かしら? 風魔法ならカレトさんに教えて貰えば良いし・・・」


 魔導書は基本的には個人で魔法を生み出す事が多いらしく、どんな魔導書でも大体200~300ページはあるけれど、似たり寄ったりの魔法は数多い。 私自身も自分の持っている魔導書以外から覚えた魔法はまだ数えられる程度である。


「・・・あ、これは白魔法っぽいかも。 試しに・・・ 「全てを包む暖かなる光 ホーリオン」。」


 呪文を唱えると部屋一帯が光に包まれる。 どこか暖かみを感じる光ではあるものの、効力としてはいまいち分からない。


「うーん、ただ光を発するだけだとは思えないけど・・・なんだろうこれ?」

「ホノカさん、今よろしいでしょうか?」


 その声に私は「大丈夫です」と声をかけた。 開けた人物はマルスティさん。 今しがた通りかかったような状態だった。


「どうかされましたか? あ、もしかしてさっきの光ですか?」

「ええ。 光が外に漏れだしていたので、緊急事態かと思い出向いたのです。」

「それはご迷惑をお掛けしました。 実はこの魔法を使ったのですが、暖かい光を浴びせるだけが効果なのかなと思って。」

「これですね。 著者は・・・なるほど、そう言うことですか。」


 マルスティさんは著者を見て納得をしているようなのですが、私には分かりません。


「この魔法を使った方は修道院の方で、そこでお祈りを掲げるのが日課でした。」

「シスターさん、ということですか?」

「そうなります。 そしてその方は死者がこの世に留まることの無いようにと修道院の裏手にある埋葬墓地に聖書を読み続けていました。」


 シスターさんの仕事がどのようなものかは分からないけれど、その人はとても誠実な人だったんだろうなと、話を聞いているだけで感じた。


「けれど彼女一人でも聖書を読むには限界があり、中には怨みが溜まり、それが腐敗人として現れることもありました。 そこで使われたのがこの魔法なのです。」

「つまりこの魔法の光は、浄化の光? この人も魔法使いだったのですか?」

「いえ、この魔導書の著者は多くいます。 魔法使いではないものの、少しでも素質のある方が使った魔法を、ある意味では無造作に書きなぐられた書物になります。」


 それはそれでなんだか勿体無い・・・けど魔法使いでない人が残してくれた魔法にだって可能性はある。 私はそう思いつつ、また次のページを開き、しばらくした後で具現化院を後にしたのだった。

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