自警団は意外にも忙しない
自警団になって初めてとも言える仕事を終えて、街の警邏の続きを行う。 そして行く先々で色んな人から声をかけられる。
「自警団のみなさんこんにちは。」
「こんにちは。 本日もお変わりなくですか?」
「ええ。 こちらは集落のようなものですから、不審な人物や見かけない人物はすぐに分かりますので。」
「そうてすか。 こちらでも身分証明等は行っておりますが、なにぶんそれだけでは判別がつかないものですから・・・また何かありましたら自警団まで連絡下さい。」
そう数回会話したところでまたひたすらに歩いていく。 先に進むにつれて、どんどん道が悪くなっていき、最終的には舗装した道ですら無くなっていた。
「悪く思わないで下さい。 我々の手が行き届いてないわけではないのですが、優先的に都市の方に集中してしまうので。」
「いえ、悪いとは思っていませんよ。」
ララストさんが心配するように声をかけてきたので、私はすぐに否定した。 多分顔に出ていたのかもしれない。 ポーカーフェイスでも覚えようかな。
そして道無き道を進めば、先程の会話で出ていた集落のような場所に到着をした。 キョロキョロと辺りを見渡して、すぐに中学生くらいの男の子を見かけると、テントのような家の中に入っていってしまった。
「ここの集落の住民は人見知りが多くてな。 初めて見るあんたの姿に隠れちまっただけだ。 慣れればすぐに出てくるさ。」
ソトカさんの説明で別に嫌われたわけではない事に、少しだけ安堵を覚えた。
「自警団の皆さん。 本日もありがとうございます。」
「いえいえ、これも仕事の内ですから。」
「皆さんが真面目なお陰で、閉鎖的だった集落も少しばかりですが明るくはなりました。 ほんの少し、ですが。」
そうカナッツさんに語るのは、この集落の長とも呼べる老人の方だ。 ここは地図上で確認する上では「国」ではない。 最初にあった王や王子達も、「国王」ではなくあくまでも「この街を統一する長」と言った位置付けのようなのだが、こう言った場所を視察していないのかと思うくらいに、管理がズボラである。
「暗いこともあれば明るいこともあります。 老いた存在が亡くなろうとも、その代わりに新たなる生命が産まれる。 こう言った集落でも、輪廻の理に導かれております故。」
「へぇ! 赤ん坊が産まれたんっすね! どの家の子っすか?」
食い付いたのはソトカさんだ。こういったことに関心があることにちょっと意外さを感じてしまった。 失礼過ぎるかな。
「あの家ですよ。 苦労の末ようやくできた自分達の形ある証。 産まれた時も両親ともに涙ぐんでおられました。 自警団の方々も是非見に行ってあげてください。」
そう促されて私達は家の一角に入る。 するとそこには眠っている赤ちゃんを抱える母親と、その様子を見ている父親の姿があった。
「あ、自警団の皆さん。」
「こんにちは。 ご出産おめでとうございます。」
「ええ。 私達の想いの形がここにあるのですね。」
2人とも赤ちゃんを見て、とてもとても幸せそうな表情をしていた。
その様子を伺った後に、他の家も何個か見回って、この集落を後にすることになった。
「ここは夜の自警団さん達も見回りに来るんですよね?」
「いえ、ここは夜は通らないのですよ。」
「え? でもそれだと・・・」
「その辺りは集落の者が解決しています。 ほら、あそこに見えます高い策によって侵入者を容易に突破させず、この通りも門を閉めてしまえば完全孤立にはなりますが、この街の住人は手出しできません。」
「それに侵入者なら一発で分かるからな。 知らない顔がうろうろしてたら怪しむのは当然だと思うだろ?」
閉鎖的と言っていたのはそう言うことだったのか。 ここが街の最北端らしく、ここで折り返しを行い、来た道を戻っていく。 それにしてもここまで道が悪いと、往復をするだけでも大変だし、馬車なども通ることも出来ないだろう。 同じ街の中にありながら、この格差はなんなのだろうか?
「あの皇女がいなくなってからだよな。 ここまであの集落についてなにも言ってこなくなったの。」
唐突に話を始めたソトカさんの言葉に、私は疑問を思った。 この街の皇女様についてもだけど、それ以上に聞きたいこと。
「あの、皇女様がいなくなる前は、どのような街だったのですか?」
「うん? ああそっか。 あんたは召喚によって呼ばれた人だったっけか。」
「知っているんですかソトカさん? 私の事を。」
「まあな。 知り合いにも魔法使いの関係者がいるからな。 魔法使いの中でもあんたは噂の中心だ。 まあ、そんなことは後だったな。 皇女様は俺達みたいな平民にも平等に扱ってくれてよ。 それこそあの集落にだって、あんな獣道を平然と歩いていたんだぜ?」
「僕からも補足をしますと、そもそもこの街が大きくなり都市化したのは、全て皇女様の助力があってこそです。 しかし長らく寄り添っていた王はともかく、王子の方は全く理解していなかった。 皇女がいなくなり、王子に仕事が引き継がれたと聞いたのですが、目の届かないところは見ていない、と言うのが現実です。」
ソトカさんとララストさんの話を聞いて、私はこの街の闇を感じたように思えた。
「どうして、皇女様はいなくなったのでしょうか?」
「皇女様が消えた理由は分かりません。 王に愛想が尽きたのか、魔王が現れたからなのか。 ですが私達は皇女様がこの街を捨てたとは思っていません。 必ず帰ってくる。 この街のためにとね。」
信頼している人が帰ってくる日を待ちわびている。 それだけ期待をされていただけに理由もなくこの街を捨てたとは、会ったこともない人物なのに思うことが出来なかった。 誰にも打ち明けられないなにかがあったのだろう。 そう思うことしか出来ない自分を、何故だか心の中で嘆いた。
「お帰りあんた達。 ・・・どうした? 表情が暗いぞ。」
「すみません、警邏事態は滞りなく終わったのですが、少々重い話をしてしまいまして。 ホノカさんには知って貰って良いことでしたので、話を止めるわけにもいかず。」
「・・・まぁ何事もなければそれでいい。 今は大体昼過ぎだから、昼食を取ってから門の上での見張りを・・・」
「誰か! 薬を持っているものはいませんか!?」
次なる仕事を貰おうとした矢先に、門の方から切羽詰まったような声が聞こえてくる。 何事かとみんなで行けば、1人の男性がもう1人の男性の肩を持って、こちらに来ている様子だった。 もたれかかっている男性の顔色は悪く、息も荒々しくなっていた。
「どうしたんだい? そっちの顔色が良くないが?」
「俺達は冒険者で、この街にしばらく滞在しようと思ってたんだ。 その道中で魔物にあって、倒したのはいいがこいつが毒を貰ったみたいで! 生憎俺達は今薬を持ち合わせていない! 金なら後で払う! なんとかこいつの毒を取ってくれないか!?」
冒険者の一大事。 しかし自警団の人達は決して慌てること無く、次なる対処を取ろうとしていた。
「これは「ポイズリザド」の毒だな。 しかもかなり回りが早い。 毒の入った場所が悪かったか。」
「とにかく毒消しの薬草を持ってきます。 もう少しだけ耐えてて貰えますか?」
「急いで下さい。 このままでは彼は・・・」
「しっかり気を持ちな! こんなところで死ぬような奴じゃないんだろ!? 仲間のためにも自分のためにも踏ん張るんだよ!」
「うっ・・・ぐぅ・・・」
みんなが真剣になっている。 今なら私が一番適任かもしれない。 私は毒で倒れている彼の元に近付いた。
「ホノカ?」
「ここで使わないで何時使うの。 私の魔法は、こう言った人達のためにあるんでしょ。 自信を付けるためには、自ら動かないといけない。 そう心に決めたじゃない。」
そして私は男性の胸元に手を添えながら、常に持ち歩けるように改良したポシェットから白魔導書を開く。 そして
「「有害なる素質を取り除いて ポイケシ」」
そう呪文を唱えた。 白魔導書の中には身体強化魔法の他にも、状態異常を治す魔法も当然あった。 しかしそれらは病院などでは無い限り使用場面が無いと思っていた。 だからこそこうした場面で十二分に発揮できると思った。
魔法をかけられた男性の体が藍色のオーラに包まれた後、徐々に荒かった息が整い始め、やがて目を開けて体を起こした。
「・・・あれ・・・? もう苦しくない・・・? モディ、俺は・・・?」
「メディ!」
そう言ってモディと呼ばれた男性はすぐにその男性の名前を呼んだ。 メディと呼ばれた人は、自分の身になにが起きたのか分からないと言った表情をしていた。
「あんたの体の中にあった毒を、この子の魔法で取ってくれたんだよ。 後数分遅れてたら、下手すると死んでたよ。」
「・・・貴女が・・・?」
ミシル団長が後ろから私の肩を叩いたので、それに合わせて私も会釈をする。 するとメディさんは私以上に頭を下げてきた。
「本当にありがとう。 貴女のお陰で死の淵より戻ることが出来た。」
「俺からも感謝させてくれ。 こんなところで肉親を失くしたくは無かったんだ。」
2人から頭を下げられて私は困惑したけれど、それで救われる命があったのならば、私のやったことは決して無駄ではなかったことの証明だということになる。 そう思いつつも2人の頭をあげさせるのだった。




