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私の価値

 マウスレッドさんと歩きながら街並みを見て、本当に元々私が住んでいた場所とは全く違うところに来てしまったんだなって実感した。


「ホノカさん。 これをどうぞ。」


 いつの間に買ってきたのか分からなかったけれど、渡されたのは杖だった。 しかも柄の部分に緑色の水晶が添えられていた。 これって良く見る「魔法の杖」って奴じゃない? レプリカじゃない、本物の魔法の杖を私持ってる。


「これは安物ですが、鍛練をなさっていけば、もっと強い魔力を持った媒体を使うことも出来ますので、今回はこれで辛抱してください。」


 そう言って頭を下げてくるマウスレッドさん。 その行為に私はすぐさま頭をあげてくれるよう言った。


「辛抱だなんてとんでもない! 右も左も分からない私にここまでしてくださるなんて! 本当ならこんなことをして貰うだけでも申し訳が立ちませんよ!」


 それにまさかこんな形で男性から贈り物をくれるなんて思いもしなかったから、むしろ私の方が混乱しっぱなしだったり。


 そして街から離れて(道中で食材も買っていた。)ある森の中に入ったところで、街の人には聞かれないだろうと思って、私は訪ねてみた。


「あの、マウスレッドさんの言う、私の価値とはなんなのでしょうか?」


 そう、私の価値。 この世界であの駄王子が切り捨てた私に、なにがあると言うのだろうか?


「この世界に召喚されたのは、貴女が最初じゃないのは、会話の流れで分かってもらえると思いますが、何故我々のような魔法使いが、揃いも揃って魔方陣に立ち、そして貴女のようなこの世界の人ではない人材を召喚するのか。 それは魔王を打ち倒す為なのです。」


 魔王。 まさか本当に漫画やラノベのような展開になるとは思ってもみなかった。 だけど、それなら何らかの不手際で、とかみたいなパターンじゃないのはホッとした。


「でも、それだけならもっと強い人を出せば良いのではないですか? 実際に向かっているんですよね?」

「ええ。 既に4人でパーティーを組んで魔王の首元まで近付いたとの報告も挙がっています。 しかしそこまでなのです。 最近の情報ではようやく魔王と対峙できるまでになったと聞いていますが、その先は連戦連敗とのこと。 そのパーティーは例え死んでしまっても、加護によって祈った神殿で復活してもらえるようになっています。」


 そこも漫画宜しく死んでも死なないご都合主義なのね。 そういったのってよくあるのが死にながら攻略法を探るんでしょうけど、その前に精神的に狂いそうになるかも。


「そうなることも見越した上の召喚儀式なのですが、残念ながらそのパーティーが出来上がって以降は、召喚される人々は戦力にならないと切り捨てられていくのです。 その時までいた王妃が、愛想を尽かしたのか国を去ってしまい、あの親子が代わりをやっているのですが、いかんせん親子共々見る目が無いようで、パーティーに入れることを考えれば、中途半端では良くないと、ほぼ独断でああ言った行為を行っているのです。」


 本当にどうしようもない親子王だったみたい。 そんなところで性奴隷なんて言われて・・・改めて寒気がしてくる。


「大丈夫ですか?」

「え、ええ。 ちょっと思い出しただけなので・・・」


 本当は思い出したくもない、あの憎たらしい身体の王子など、心底どうでも良かった。


「あの、王や王子は見る目がないって言いましたけど・・・結局、私の価値とはなにを指すのでしょうか? 杖を持たしてくれたと言うことは、魔法に関係しているのは分かるんですけれど。」

「ここではあなたの魔法はほとんど使えません。 今は使いどころが無いのです。」

「つ、使いどころ?」


 魔法に対して使いどころと言う表現をするのはおかしい。 言葉がおかしくなったのかと私の方が思ってしまった。


「その時はいずれ訪れ・・・ん?」

「どうされました?」

「この森に誰かいますね。 家族の誰かではない、けれど侵入者といった怪しい行動はしていない。 少し寄り道しますが、いいですか?」

「え? ええ。 それは構いませんが・・・」


 私は保護されている身だし、この世界の事はちんぷんかんぷんなので、こちらから意見を述べようとは思っていない。


 そして進んでいた道からそこそこ逸れて、森の奥に奥にと進んでいくと、なにやら動く影があるのが見えた。 なにかと目を凝らしてみると、そこには女の子が蹲っているのが分かった。 マウスレッドさんはその少女に声をかける。


「こんにちはお嬢さん。 どうかしたのかい?」

「ひぐっ・・・えぅ・・・ お母さんに・・・木の実を頼まれたの・・・ でも・・・取った後に・・・木から落ちて・・・足が・・・動かなくなっちゃった・・・」


 女の子は普通に座っているように見えるが、太ももの一部分が痣になってしまっている。 落ちた衝撃で骨にヒビが入ったのかもしれない。


「とにかく親御さんのところか、病院があれば連れていきましょう。 このまま放ってはおけません。」


 寄り道をして本当に良かったと思っている。 ここでこの子を見捨てるなんて私には出来ないから。


「・・・丁度いいかもしれませんね。」

「え?」

「ホノカさん。 今こそあなたの本当の価値を示す時が来ました。」


 え? え? この状況で? 泣いている女の子は怪我をしている。 しかも応急手当てをしてもまだ痛みは残っていることだろう。 だから一度彼女を帰そうと考えていた。 そんな時に私の価値を示すと言った。 この状況で価値を示す・・・女の子・・・魔法・・・怪我・・・


「・・・・・・あ!? 治癒魔法!?」

「その通りです。 貴女には人の傷を治す力があるのです。」


 なんの事だか分からずに軽く混乱してしまったけれど、今の状況を冷静に見ればとても簡単な事だった。 事だったのだけれど・・・


「あの・・・私、魔法の使い方とか言葉とか全く分からないのですけれど?」


 この世界に召喚されて数時間しか経っていないのに言葉とか呪文とか全く知らない。 いきなり治癒魔法を使ってくれと言われても無理がある。 これはもしかしてあれかな? 適当な言葉を言えばそれに反応して魔法が発動するとかかな?


 疑問を頭の中で過らせていると、マウスレッドさんが私の耳元で囁いた。


「あの女の子に杖を向けて「フーラ」と唱えてください。 初級呪文ですが十分に力を発揮できると思います。」


 あ、ちゃんと呪文あったのね。 当たり前と言えば当たり前だっただけに、少し恥ずかしい。 そんなことよりも治癒させるのが優先よね。 私は少女に向けて杖を構えて、深呼吸をして自分を落ち着かせる。 そして呪文を唱える。


「・・・フーラ」


 ・・・魔法が発動したと言う感覚はない。 成功・・・したのかな? そんな思いで動けなかった私の代わりにマウスレッドさんが少女に声をかけにいった。


「お嬢さん。 痛みはどうかな?」

「・・・痛くない・・・」


 そうして少女は立つと、その場で軽く跳ねた。


「凄い・・・凄い凄い! お姉ちゃんのお陰で痛いのが無くなった!」


 私には感覚がいまいち掴めないけれど、女の子が喜んでるならそれでいいかなと思ってしまった。


「ほら、早く帰ってあげないと、お母さん達も心配なさると思うよ?」

「うん! バイバイ! お兄さん、お姉ちゃん!」

「また怪我しないようにね!」


 そう言って女の子が見えなくなるまで手を振っていた。 そんな中マウスレッドさんだけはなにやら真剣な表情で私を見ていた。


「下級の魔法であの治癒力・・・杖をもっと魔力を高めるものにすればもしかしたら・・・」

「マウスレッドさん?」

「いいですか? 驚かないで聞いてくださいね?」


 この世界に飛ばされていきなり性奴隷扱いされた経験がある私からしてみれば、もう並大抵の事では驚きませんよ。 私は。


「貴女は治癒魔法が使えるのは今ので分かったと思いますが、貴女の魔法量はとてつもない量です。 痛みまでは引かせることは出来ても、折れていた骨まで治すことは、下級魔法のヒーラではあり得ない事です。」


 そ、そこまでの魔法力を持ってるの? 私。 あの馬鹿王子からマウスレッドさんがお金を払ってまで私を引き取った理由が分かった。 性奴隷なんてならなくて本当に良かった。


「・・・うん? でもそれだけではマウスレッドさんが驚いている理由にはならない気がするのですが?」

「そうです。 貴方には治癒魔法の他に、再生魔法も兼ねていたのです。 そして再生魔法を扱える人物はこの世界において50人も居ないのです。」


 そ、そんな大義名分な・・・普通の魔法を使えるだけでも確かに凄いことだと言うのは分かるし、その魔法の力が強いのも分かった。 だけど再生魔法を使えるのは、マウスレッドさんの中でもかなり大きいらしい。


「しかし再生魔法というのはそれなりの代償を支払わなければ扱えない。 それだけ優れつつも危険な魔法なのです。」

「ええっとつまり・・・?」

「一部では再生魔法は禁忌の魔法と言われているそうです。 つまり貴女は、その禁忌の魔法を、なに不自由無く、しかも代償も無しに使えているのです。 これはとても危険で、貴女の事を脅かす事態になっているのですよ!」


 それまで冷静だった私の顔は、恐ろしく真っ青になっていると思える程に、頭から血の気が引いていた。


 そんな禁忌の魔法を使えるなんて・・・私、これからどうなっちゃうの~!?

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