白魔法のお勉強
「うーん・・・」
私は魔導書を読みながら悩んでいた。 魔導書を読んでるうちに読み書きは出来るようになったし、簡潔的だけど数字やお金の事も学んだ。
ではなにに悩んでいるのかと言うと、この白魔法が書かれている魔導書には、戦いを有利にする魔法や回復を中心とした魔法が多い。 たまに物理法則を無視した魔法もあったりする(前に使った「ソフトラップ」)けれど、それでも対象物が簡単には見つからない。 練習相手もいないのだ。
「どうしようかしら・・・」
とはいえ私はなにかしらの仕事がまだあるわけではないので、家にいるだけになってしまう。 今日は全員お仕事のようで、早く帰ってくるカレトさんを抜くと、夜遅くまでかかってしまうとのこと。 つまり暇なのだ。
私も魔法使いになる以上は勉強と修練は必要だと思う。 でも白魔法は回復させたりするのが主なので、使い勝手が普通の魔法よりは悪いのだ。 かといって街に出て「体調が悪い人」を探すのも気分が悪い。 ならばひたすらに読んで覚えるしかない。 そうは分かっていても、だ。
「やること無いから、もて余すのは仕方ないけれど・・・うーん」
どうしてもなにかをしなければ行けない気持ちになってしまう。
「・・・仕方ないから、ちょっと絵でも描こうかな。」
私は前の世界での趣味の1つである絵を描く事を考えた。 元々は漫画やアニメのキャラクターを模写したところから趣味として確立していったけれど、流石に私がそんな趣味をしていることは前の世界ではあんまり知らない。 少ない友人にも打ち明けたのは1人か2人くらい。 大学に入ったら受け入れてくれる人が見つかるかもと思った矢先のこの世界への転移なので、やるせない気持ちになる。
そんなことを嘆いていてもしょうがないので、紙とペンは既に買って貰っているので、それを持って描いていなかったブランクを取り戻すために適当に模写をする。 そうしてから人形を描いていくのだけれど、最初はキャラクターの模写だけだったけれど、高校に入った辺りからオリキャラを描いたりもしていたりした。 まあ誰かに見せる訳じゃなかったけど。
そんな感じで時間が許す限りで鉛筆でサラサラと描いていく。 とは言え絵ばかりには集中しないで、白魔法も勉強する。 具体的には技のイメージ図を描いていた。
マウスレッドさん曰く、
「魔法を使う時は、その魔法がどのように動くのか、どんな魔法なのかをイメージをしてみると、その魔法が具現化しやすいと言われます。」
とのこと。 イメージを具現化する。 そうなれば一番手っ取り早いのが頭に浮かんだイメージを絵にするのが一番である。 もっともイメージは出来るもののそれが画力に反映されるかは人次第ではある。
「まずは「ソフトラップ」を完全に覚えないとね。 やるのは簡単だろうけど、完璧に使いこなそうと思ったら、やっぱり回数は重ねないと。」
熟練の魔法使いはその魔法をどれだけ発動してきたのか、それ以外に上達はしない程に魔法を使う。 それこそ10や100何て言う、数えられる単位なんかではない。 それこそ人生を掛けてこその熟練になるのだ。
しかし私にはそれだけの年月を同じ魔法だけに費やすわけではない。 私の持つ魔導書にはそれだけの価値があるとマウスレッドさん達は言っていた。 ならば載っている魔法全てを覚える気力で挑まなければならない。 だからこそイメージを曖昧に終わらせるのではなく、具体性を固めておいた方がよりやりやすいと思ったから、絵を描くのと並行することにした。
「ええっと、「ソフトラップ」は地面を柔らかくして、それから人を包むようにしたのよね。 だったら今度はトランポリンみたいに、波を打たせることも出来るかもしれない。 発動も手で振れるだけじゃなくって、足からでも出せれば・・・魔力を足に溜めるイメージで・・・ うーん、もう少し工夫できるかな。 足でタップする感じとか・・・」
イメージと絵を少しずつリンクさせていく。 ちゃんとしたイメージを絵にするのも苦労するものでバランスだったり、イメージに合わなかったりと、試行錯誤をするところは、なんとなく一緒なのかもしれない。 そんなこんなで「ソフトラップ」のイメージを絵にすることが出来た。 下に落ちている紙の束は、試行錯誤故の結晶ということで。
「これをこのまま具現化出来れば、この方法で使える。 これを一旦別の場所に閉まって、次の白魔法を見てみよっと。 次はどれがいいかなぁ・・・」
そんな感じでただひたすらに白魔導書を読む、使えそうな魔法をイメージしてそれを一度試してみる、それを絵にして描いてみる、イメージと合わなかったり、改良できる部分を描き直してみる。 そんな作業の繰り返しをしていると、不意に背中から風が吹いた。 どうやら誰かが家の鍵を開けたようだ。
「ただいま戻りました。 ・・・あら、私が一番だったかしら。」
「お帰りなさいです、カレトさん。」
「そう畏まらなくてもいいですよホノカさん。 貴女はもう私達の家族なのですから。」
それは分かっているけれど、やっぱりそう言ったところでは線引きをしておかなければいけないと、私の中では存在する。 家族と言っても今は養われてる立場だし。
「その様子ですと訪問者は居なかったようですね。」
「誰か来られたりするのですか?」
「そんなには来ないわよ。 私達の友人とか街長さんとか魔法使いさんだけよ。」
それって結構な量だと思うのですが、と口元まで出そうになったものを抑えて、次の話題に振ることにした。
「カレトさんは今日は病院へ?」
「そうですよ。 あそこで頑張ってる子供達の相手をね。」
「最初に見た時も大人気でしたものね。」
元々カレトさんは優しい人なので慕われているということに関して言えば当たり前と言えば当たり前だろう。
「それにしても、随分と使い込んだわね。」
そう言ってカレトさんは私の足元の試行錯誤で描いていた絵を見た。 とは言えこの紙はこの家の備蓄品のようなもの。 許可などは得ていない。
「あぁ! す、すみません! 勝手にこんなにも使ってしまって・・・!」
「いいのよ。 紙は買ってくればいいし、それにホノカさんはなかなか欲しいものを言わなかったものですから、こういった1つの趣味を知れたのは嬉しい限りです。」
そんなことで嬉しがられると、なんだか逆に申し訳無くなってしまう。 とは言えなにも言わなかったのは、こちらにどういうものが存在しているのか分からなかったのと、マウスレッドさんに買われた身で物をねだるのは気が引けるという観点から、特に口にはしなかったのだ。
「すみません。 床に落ちているものは今片付けますので。」
「うふふ。 ゆっくりで大丈夫ですよ。 ホノカさんは絵を描くのが上手なのね。」
カレトさんがいくつかの模写の絵を見ている。 実際には鉛筆での殴り書きの様なものなのでお世辞にも上手く描けたとは思ってない。
「・・・よし。」
そしてかき集めた失敗作の絵を1つにまとめて、とある白魔法を試すことにした。
「「上塗りされた記憶を消し去って イレイサー」」
そう唱えるとまとめてあった失敗作の絵達はたちまち消えていき、残ったのは使用前の紙だけとなった。
「あら、とても便利な魔法ですね。」
「ええ。 魔導書を読んでいたら見つけまして。 ただこの魔法、元々の媒体の劣化までは直せないみたいなんです。 ほら、こうやって薄目で見ると筆跡が残っているんです。」
具体的には「消す」方が優先されるので、復元のようなものではないことも今ので分かった。 まあ「消しゴム」じゃあねぇ。 でも絵や文字を消すだけじゃないかもしれない。 今後もこの魔法は使っていこうと思った。
私が考える熟練度の向上は「使用魔力の減少」、もしくは「魔法そのものの強化」だと思っている。 マウスレッドさんやルビルタさんのような「最初から最大火力」とは違うのではないか、白魔法はまだまだ未開拓に近い魔法。 その魔法自体は強力でももっと強くなるのではないか。 私個人の勝手な憶測による結論が出ているけれど、ゲームでも似たような事が起こり得るので、可能性は0ではないと私は魔導書とそれをイメージして模写した時に感じた。
「他の皆さんはやはり遅くなると?」
「そうね。 しばらくは私達だけになるかしら。」
「あの、それなら料理の手伝いをさせてください。 私もこの世界の料理に触れてみたいので。」
「分かったわ。 それにしてもホノカさんは好奇心旺盛ですね。」
「いえ、なんというか、もう戻れないんだろうなって思ったら、この世界で生きていくのに必要なことだと思って。」
「・・・ホノカさんは元の世界に戻りたい?」
自分の本音に初めてカレトさんが聞いてきた。 その答えに私は
「・・・まだ、分からないんです。 戻りたい気持ちと、戻らなくても大丈夫な気持ちが、整理できていなくて。」
「強く願う方に、運命は傾くもの。 あなたの悔いの残らない選択をすればいいわ。 意地悪言ってごめんなさいね。 さ、準備に取りかかりましょ。」
そう言うカレトさんの後ろを私は、ただ着いていくだけしか出来なかった。
最後は転移主人公にありがちな悩みを書きました。




