魔法使い達の立場
「先程は本当にありがとうございました。 あのような魔法は見たことがありませんゆえ、このような形で使ってくれる方だと、我々も安心出来ます。」
先程の助けた人達とは別の人なのだが、この街ではお偉いさんになる方なのだそう。
「あの火事自体は大丈夫ですか?」
「ええ。 少々不注意があったようでして。 ああ、心配せずとも、あの家は半月程で元に戻りますので。」
「え? そんなに早く戻るんですか?」
「我々魔法使いの中にも、その様な類いが得意な魔法使いがいてね。 彼らに任せれば心配はいらないのです。」
「ヒダリー一家の方々含めて、我が街にとってとても大切な方々ですよ。」
そのやり取りに私は疑問に思ったので、口にしてみることにした。
「あの、この世界での魔法使いって、普通の人達にとってどう思われているのですか?」
自分で言っておいて何だったけれど、聞くのは正直怖かった。 本当は恐れられているとか、そんなことを言われそうで。
「私は古い知り合いと良く話すんだけれど、共存の形を取るのはやっぱり難しいようですわよ。」
カレトさんからその事を聞いて、やっぱりかと思ってしまう。 強すぎる力は例え本人達が思っていなくても、強大な力として怖れられる。 今となっては決して他人事ではなくなっていた。
「でも私達がいなかったら魔王の手下には対抗できないから、簡単には無下には出来ない。 それにこの街みたいに魔法使いがいるからこそ助かっている場所もある。 魔法使いのいるいないは、場所によってまちまちってことよ。」
補足するかのようにルビルタさんが話を続ける。 時代の流れのようなものだろうか?
「それにしても先程の魔法は素晴らしいものでした! 硬い地面が柔らかくなったかと思えばすぐに元に戻したのですから。」
そんなシリアスな気分を切るかのように、私が出した魔法について誉めてくれる。 この街の人達が悪い人達じゃないのは、こういった部分を見ているからなのだと思う。
「そうなればあの教会には行かれたのですかな?」
「ええ。 この街に来る前に。」
「そうですか。 魔法使いとして思うところはおありかと思いますが、どうか我が街の住民を守っていただける事を願います。」
そう言って私に対して頭を下げてくる。 まだこの世界に来てから10日程しか経っていないけれど、頭をこうして下げられる経験は初めてだった。
「あ、頭をおあげください! 私もこの街の魔法使いとして、精一杯頑張っていきたいと思っていますので。」
この街の人達は、魔法使い達の加護なんて要らないのではないかと思うくらいに強い心を持っているなとこの時は思った。
「ありがとうございます。 我々としても、一刻も早い魔王討伐の吉報を待ってはいるのですが、やはりそうは上手く行かないようなのでして・・・」
「あの、その魔王討伐の為に行っている方々とは、どういった人達なのですか?」
魔王討伐、俗に言う「勇者一行」について、知っておくことは損ではないと思う。 特かと言われると怪しいけども。
「そうですね。 勇者一行様方は国王の召喚によって、その力を認めれた異世界の方々でございます。 今は4人となり、剣士、守護者、魔法使い、格闘家の構成となっております。 旅に行き詰まりそうになる度に仲間が増えて、今では魔王討伐目前まで行ったという話をお聞きしました。 しかしそこからというもの、心身ともに疲弊している勇者一行様方の姿をよく見かけるようになりました。 最初こそ魔王が強かったと慰めを貰っていました。 ある時期には討伐を出来なかったことに不満をもたらしていた事もあり、罵詈雑言を浴びせる時もありました。」
その辺りで一度区切られる。 余程の苦悩がそこにはあったのだろう。 自分達は守られている側であり、危険な目にあっているのは常に勇者一行。 文句を言うには値しないのは、街の人も薄々は気が付いていたのだろう。
「そしてある時から、一変しない状況や待遇に、我々も勇者一行様方に慈悲が出てきてしまっています。 ボロボロになった勇者一行様方を見ると、心がとても痛く感じます。」
それだけ魔王を倒すことの難解さを物語っているのだろう。 魔王の力が話を聞いている限りでも計り知れないのだ。
「我々の世界を魔王の進軍から食い止めているのは勇者一行様方のおかげ。 そしてこの街に魔王の手下が蔓延らないのはひとえに魔法使い方々の障壁のおかげ。 力を持たない私達がのうのうと平和に暮らせていることを考えれば、魔法使いの扱いを存外にすることなど出来はしないのです。」
改めて拝むようにお祈りをするお偉いさん。 確かにRPGとかやっていてもこう言った感動とかがなにもないことに違和感は無かった。 あれはあくまでもゲームの中の話だったし。
だけど本当はこうして魔物が闊歩している世界の人間は、常に魔物に襲われる危険と隣り合わせ。 こんな風に感謝をすることは、不思議なことじゃない。 私は自分の命を軽んじた事を少しだけ悔いた。
そんなことをしていたら後ろからルビルタさんに肩を掴まれた。
「そんなことを言うならホノカも同じなんだけどねぇ。」
「どういう事でしょうか?」
「どうもこうも、この子も召喚された側なの。 だからあれだけの事が出来てもなんらおかしくはないでしょ?」
「なんと・・・し、しかしそれだけの力がありながら、何故勇者一行様方に参加をなさらなかったので?」
「それはこの国の能無し王のせいよ。 普通に切り捨てたのよ。 この子を。 マウスレッドが貰わなかったら今頃才能開花させずに生き地獄を味わっていたわ。」
この国の王に対してルビルタさんは辛辣な事を言っているけれど、私は否定しない。 当事者だし。
「左様ですか・・・毎度魔王との戦いに破れ、疲弊した勇者一行様方があのお城に向かわれると思いますと、心が痛みます。 我々もあの王子が産まれ、王妃殿がこの国のためと他国へと渡ったこの数年。 王族の情報がありません。 魔王自体は王妃殿が出られる前から現れてはいましたが、あの頃は街の人の事も考えられる良い王族でした。」
話を聞く限りでは落ちぶれたのは王妃がいなくなってからのよう。 尻に敷かれていて、その糧が外れたから好き放題してるとかかな?
「とにもかくにも、貴女のような魔法使いがいるのはとても安心が出来ます。 今回のように私達共々、なにかとお気にかけてください。」
最後は私に懇願するかのように、そう優しく微笑みかけられたのだった。
「私、魔法使いというものを、なにも知らなかったです。」
あれから街を歩き、色んな所で声をかけられた。 マウスレッドさん達が主だったけれど、時折私にも声をかけてくれた。 「あんな魔法初めて見たよ」とか「これで街も安心かしら」とか、果てには衛兵のような人に「人命救助心より感謝します」って敬礼もされた。
そもそも魔法なんてものはファンタジーでしか出てこない。 現代日本人が魔法を使えるのだって、それこそ漫画やアニメの話。 そんなものが地球で起きていたら今頃星が壊れてる。 だからこそ実感なんてものは存在しなかった。 あり得ないと思って当然だったから。
だけどこの世界で魔法に触れたこと、そしてその魔法を人のために使おうと思ったこと。 全てを見ても私は魔法使いを軽んじてみていたのかも知れない。
「確かに自分が魔法使いなのだということは、最初には自覚はないですし、ホノカのように魔法なんて無い世界から召喚されたのならば、尚更でしょう。」
「それにホノカは「白魔導師」だからねぇ。 私達でも知らないことばかりよ。」
マウスレッドさんはともかく、ルビルタさんまでそんな風に言ってくる。 ルビルタさんの方はどちらかと言えばからかっている感じだった。
「それでも魔法使いはまだ恐れ多いと思っている人は少なくありません。 この街の外に出れば、そういう方々もいるでしょう。」
「だからこそ地道に貢献していくしかないということさ。 信頼は得るのは難しいが、無くすのは容易だからね。」
カレトさんもガネッシュさんも、同じ様にされたことがあるのか、そんなそんみりとした雰囲気になっていた。
「今日は帰りましょうか。 またお金の使い方や街の出方については改めて説明しますので。」
そうして後ろ髪を引かれるように後にした街を振り返ると、そこには街の人達の活気が溢れていた。 私もこの街に住むならば、ちゃんと貢献したい。 そう思いながら、マウスレッドさん達の後ろについていくのだった。




