私が新たな魔法使いです。
「驚いた・・・このような魔法をいとも簡単に・・・」
「そ、そんなに難しい魔法だったのですか?」
「うむ。とはいえこの白魔法は魔法使いにとっては最初の関門とも言える魔法。 魔法の本を少しでも読んでいれば分かると思うが、白魔法には「肉体付与型」、「肉体影響型」と続いて「精神干渉型」を習うのだが、動物の神経というのは想像の何倍も複雑で、間違えればその均衡が崩壊する可能性も0ではない。 しかも彼に向けた睡眠魔法はかなり質が高い。 時間は短いものの、効果は絶大だろう。」
モリューシュ様がそう言うのならばそう言うことだろう。 もしかして普通に出来るのはこの白い魔導書のお陰なのかな?
「その魔導書は?」
モリューシュ様も私の手に持っている魔導書を見て興味を示したようだ。 やっぱり魔法使いになったので、魔法具は常に持ち歩くのが普通なのかなって思って持ち歩くように心掛けるようにしていた。
「これは知識の具現化院で、彼女が「声」を聞いて譲り受けた物です。」
「「声」・・・そうか。 その者には声が聞こえたのか。 その魔導書の。」
「しかもこの魔導書、凄いんだよモリューシュじい様! あの魔導書の著者が、なんとあの伝説の白魔導師「エンピューロ・メディソン」なんだよ!」
「・・・なんと・・・」
マウスレッドさんとルビルタさんのやり取りを見ていて、やっぱりすごい人なんだと、改めて思った。
「それでは私達はこれで。 ああ、彼は私達がお店まで送っていきますよ。」
そう言って私達は教会を離れた。
「まずは眠っている彼をお店に送らなければいけませんね。」
そう言いながらマウスレッドさんが背負っている彼のお店に着きました。 ここまで全く休み無しで。 マウスレッドさんって存外体力はある様子。 魔法使いたるものっていうあれなのかな?
「いらっしゃいませ。 あ、マウスレッドさん。」
「こんにちは。 彼の当番が終わったので送りに来ました。」
現れたのは若い男性の店員さんでした。 この店はアクセサリー屋さんのようで、ネックレスやブレスレットが所狭しに置いてあった。
「え? ・・・あぁ、本当ですね。 この人がここまで眠るなんて珍しいですね。 余程疲れてたのが見えますよ。 そんなにお店を任せられないのかな?」
「いえいえ、皆さんの頑張りは伝わっていると思いますよ。 ただ彼の場合はそれ以上に頑張らないとという想いがあるようです。 あぁ、安心してください。 後数時間もすれば起きると思いますので。」
「それはどうもご丁寧に・・・」
そうマウスレッドさんがお店の方のやり取りをしている傍ら、ルビルタさんはお店を見て回っていた。 既に女性の店員さんも一緒に回っている。
「最近はどうですか? お店の方は。」
「売れ行きとしては上々と言った具合です。 ここは魔法使いの方も多くいますので、魔力の媒体として運用される方も少なくありません。 本来はそう言う使い方はしないので、消耗品のように扱われてしまうのですが。」
魔法石みたいな感じなのかな? でも売れてないという訳じゃなさそうなので、話としては本当そう。
「彼によろしく伝えておいてください。」
「はい。 マウスレッドさんもこれからもご贔屓に。」
お店を後にして次の目的地に行くために私達は歩いている。
「こうしてみているだけでも魔法使いがいるとは思えないですよ。」
「魔法使いのみんなも自分からさらけ出す様なことはしませんよ。 特にこの街に馴染んでしまったら尚更。 そう言った街ですから。」
ガネッシュさんの言うようにあちらこちらでそれっぽい人がいるにも関わらず、まるで当然のように挨拶を交わしたり井戸端会議をしている。
そんな街の様子を見ているとまた別の場所へとやってきていた。 見る限りでは病院のような場所だった。 この街では大きいのかもしれない。 なんの躊躇いもなく皆さん入っていく。
「こんにちは。」
「あらー、いらっしゃいカレトさん。 今日は子供達の子守りはお休みでは無かったですか?」
「今日は見に来ただけですよ。 新しい娘の紹介も兼ねてね。」
「あら? あらあらあら? もしかしてその子かしら? んまぁ可愛らしい顔立ちをしてぇ。」
そう言ってのんびりそうな姿とは裏腹な速度で私の手を握っていました。 一番後ろにいた筈なのに。 というか可愛らしい、なんて小さい頃にしか言われてなかったものなので、しどろもどろになってしまいました。
「はじめまして。 私はここの看護師をしています「レレス・ワイン」と言うものよ。 貴女も魔法使いなのでしょう?」
「は、はい。 ホノカと言います。」
しどろもどろながらも挨拶は出来た。 ここで印象は悪くしたくない。
「魔力の流れから分かるわ。 貴女、私と同じなのね。」
「同じって・・・レレスさんも白魔導師と言うことですか?」
「そんな大層なものじゃないけど、治療関係の魔法の方が得意だわ。」
「治療関係・・・もしかして魔法にも系列みたいなものがあるのですか?」
私が想像したのはゲームとかによく見られる「スキルツリー」というものだ。 1つのスキルから様々な派生によって、全く異なる能力を身に付けるものだ。 昔からの伝統のようなものかな?
「魔法には基本的にそのようなものはありません。 魔法使いにはそれぞれ適性というものがあって、その適性で魔力量や質が変わるのです。」
「私は魔法使いの中でもこう言った分野の勉強をしていたからね。 この職業に辿り着いたの。」
きっかけとはやはり些細な事なのだなと改めて思った。
「あ! カレトさんだ!」
そんな話をしていると奥から子供の声がした。 見てみると数名の子供達がこちらを見ていたのだった。
「カレトさん今日はお休みじゃないの?」
「こんにちはみんな。 今日は見に来ただけよ。 また明日から遊びましょうね。」
「「はーい!」」
そう言って子供達は素直に奥に引っ込んでいった。
「慕われていますね。」
「そうよ。 自慢の母さんですもの。」
カレトさんの事を言ったのに、ルビルタさんが誇らしげに言っていた。 ああいう人なら確かに自慢できるかも。
そしてそんな病院ともお別れをして、再び街の方に歩き始めた。
「そういえば今日の夕飯ってどうするの?」
「丁度切らしていた食材が無かったかな?」
「そうですね。 今日の夕飯の食材と一緒に買っていきましょうか。」
「本日はどのような料理になるのでしょうか。」
皆さん思い思いの言葉で会話をしているものの、私は中には入りません。 入れない、というのが現実なのかも。 そもそもこの世界に10日程しかまだ生活していないのに、いきなり「住めば都だから慣れてくれ」と言われても無理な話である。 まずは慣れること。 そして身を任せる他、私にはやれることは無かった。
「ホノカさんは前の世界ではどのようなものが好みだったのですか?」
そんな空気に成りかけていた私に声をかけてくれる。 その優しさに涙しそうになりながらも、そこはグッとこらえて、会話に入ることにした。
「料理に好みはあまり考えたことは無くて・・・あ、でも味付けはさっぱりしたものが好きです。 酢の物とかあれば良く食べてました。」
「酢・・・というのは調味料でしょうか?」
「ええっと、確かにそうなのですが・・・味の説明はちょっと・・・」
「その辺りは家に帰ってから色々と模索してみよう。 他にはなにかあるかな? 食べ物を言ってくれると作りやすいと思うが。」
「それならカルボナーラ・・・牛乳と小麦粉で作ったクリームにパスタを絡めるものなんですけれど。」
「パスタにホワイトシチューをかけるようなものかしら? そんな食べ方もあるのね。」
正しいような正しくないような答えに私は苦笑するしかなかったけれど、こうして私の事を構ってくれていることは、なんだか嬉しく思えた。
そんなときに街の人達が大慌てで1ヶ所に集まるのが見えた。 しかもその表情はどこか切羽詰まっているように見えた。
「街の西の方でなにかあったようですね。 行ってみましょう。」
マウスレッドさんが言うや否や、私たちはその場所に向かった。 そしてその光景を目の当たりにする。
「まずい! 火の手がすぐそこだ!」
「消防団は!?」
「急いで向かってきているらしいが、間に合うかどうか・・・」
「とにかく私達だけで、やれることをやるのよ! 頑張って! もう少しで応援が来るからね!」
そこには火事になっている2階建ての木造住宅に、中学生位の女の子が、火の手から免れようと、柵を越えて必死に落ちないようにしている姿だった。 周りの人達はバケツリレーをして消火活動に当たっているが、2階までは届かない。
そして爆発するかのような炎が2階から吹き出し、柵もろとも女の子を吹き飛ばした。
「うわっ!」
周りはその勢いに気圧され後退りしてしまう。 このままでは女の子は地面に激突して、最悪死んでしまう。 そう思った時、私の体はすぐに走り出して、詠唱を唱えていた。
「『物質を柔らかくして包み込め ソフトラップ』!」
それを舗装された地面を触りながら唱えて、女の子が落ちるであろう周辺一帯を、トランポリンのように柔らかくする。 そして落ちてきた女の子は「グニャリ」と地面についた。 女の子も周りの人も、起きた事象に目を白黒していた。
「た、大丈夫か? おわっとと。」
まだ地面が柔らかいままなので助けに行こうとした人が足を取られていた。
「あ、これこのままじゃ戻らないんだ。 ええっと『変化を元に戻して リワインド』。」
すると地面は元の硬い形に戻る。 そして女の子が無事なのを確認した。 火元の方までは私の魔法ではどうすることも出来ないけれど、命を助けられたと思えば仕方の無いことだと自分に納得させた。
街の皆さんが女の子の安否を確認しつつ、消火活動を続けていた。 そしてその女の子のを助けた私を見る。 そんなに一斉に見られたことは無かったので怯みそうになるけれど、ここで怯んでしまえば自分がやっていることを否定されそうだったから。 だから私は逆に一歩前へと出た。
「今のは、あんたがやったのかい?」
「そ、そうです。 私の魔法で、その子を助けました。」
そう私は、堂々ととまではいかなくても話すことは出来た。 するとその声をかけてきた男性から両の手を握られて
「あんた、凄い魔法を使えるんだな! あんな魔法見たこと無いけど、あんたのお陰であの子は助かったんだ。 感謝させておくれ!」
そんな風に言われた。 そして私は、この街では魔法使いは受け入れて貰えるんだと、改めて実感した瞬間だった。
「彼女の魔法は凄いものでしょう? 私も直接見るのは初めてのものばかりでして。」
「お? おー、ヒダリー一家の皆さん。 彼女とはお知り合いで?」
「知り合いも何も、家で一緒に住んでるのよ。 この子の事も今後よろしくってことを伝えに来たの。」
「そうだったのですか。 あ、よかったらお茶でもどうです? お礼をしたくって。」
そういわれたのを断るのも悪いと思ったので、お言葉に甘えることにしたのでした。




