街と魔法使い
「マウスレッドさん。 私この街について知りたいです。」,
具現化院から帰ってきて、白魔法に力を注いでいる、私がこの世界に来てから1週間位経ったある日のこと。 私は不意にそんなことを言った。
「街について、ですか。」
「私、この世界に来てすぐにマウスレッドさんに引き取られたじゃないですか。」
あの時の事は絶対に忘れはしない。 私にとっての命の恩人の行動だったから。 でもそれはあの王子が私の事を「性奴隷」にしようと言ったから起こったこと。 本来ならば追放とかされてもおかしくはなかった。 というか下手をするとその方が正しいとすら思ったから。
「でもこの世界の事をほとんど知らないです。 どんな世界なのか。 街の人はどんな人なのか。 どんな街なのか。 だから知りたいんです。 少しでもこの世界を分かるために。」
もう戻れないと知っている私自身の今後の生活のために。
「そういうことでしたら、次に皆さんが休みの時に、一緒に出掛けましょう。 1人で街へ出ても勝手が分からないと思いますし、なにより僕達といることが一番の安全だと思うので。」
「・・・そんなに物騒な街なのですか?」
「いえ、そういうわけでは無いんです。 貴女を珍しく思う方が多くおられます故、トラブルには巻き込みたくないのですよ。 この街は近年はそのようなことは無いのですがね。」
そう語るマウスレッドさん。 心配してくれる分には特に悪い気はしない。 1人で行きたかった訳ではなかったので、別段断る理由もなかった。
「では今夜皆さんの予定を聞いておきますね。 とは言え仕事といっても大体は短期的なものですから、街に出るのはそう遠くないかと。」
確かに早いに越したことはない。 私自身もなにか準備をしないといけないかなぁとぼんやりと考えながら、今日という日を過ごした。
「さてと、まずはどこに案内しようかしら!」
約束された日から2日程経った時に、その時は訪れた。 ルビルタさんがやたらとテンションが高いのは何故だろう?
「家族で出掛けることは少なくはありませんが、それでもルビルタは元々出掛けることが好きなのですよ。 それに今回はホノカさんの頼みということもあって、張り切ってるのでは無いでしょうか?」
フフッと笑うのはカレトさん。 自分の子供が嬉しいと親として嬉しく思ってしまうのだろう。
「姉さん。 街の案内も良いけれど、まずは会わせる人がいるんですよ。」
「分かってるわよ。 終わってからでも別にいいじゃないの。」
「会わせる人?」
そう私が聞き返すと、答えてくれたのはガネッシュさんだった。
「この街には様々な魔法使いがいてね。 普段は人に害をなさない程度に魔法をやりくりして生活しているんだ。 だが本来ならこの街も、外からの魔物に襲われることも例外ではない。」
「やっぱり魔王の手下というのはいるものなのですね。」
「そう。 そしてそれを事前に護っているのも、魔法使いの役目なのだ。」
「もしかしてこの街を護っている結界を作ってくれている人に会いに行くのですか?」
「鋭いね。 正にその通りさ。 彼等が頑張ってくれていなければ、この街も廃墟だらけとなり、魔法使い達は日々疲弊不満を繰り返していたことだろう。」
「街の平和を護っているって事なのですね。」
こういった世界ならではの対処の仕方なのだろう。 逆を言ってしまえば魔王が倒されていない今、脅威が立ち去るまでの辛抱、ということなのだろうか。 元々魔物はいるからそうでもないのかも?
「それに新たに来訪した魔法使いは挨拶まわりとして必ず行くのが暗黙の了解というものでして。」
この街ならではの流儀ってことかしら? なら私もすぐに向かえば良かったのでは?と思ったのだけれど、その時は私は「白魔導師」では無かったので、行っても相手にされなかった可能性があっただろう。
そんなこんなで到着したのは街の外とを繋ぐ門の近い場所。 門と同じ位の大きさの建物がそこにはあった。 そしてガネッシュさんはなんの躊躇いもなくドアを開ける。
「済まない。 モリューシュ殿はいらっしゃるか?」
誰もいない建物の中でガネッシュさんだけの声が響く。 すると下の床の一部が開いて、誰かが顔を覗かせていた。
「これはこれはガネッシュ様。 まだそちらのご家族の誰も当番ではありませんよ?」
「いや、今回はモリューシュ殿に会いに来たのだ。 話がしたくてね。」
「モリューシュ様ですね。 それではこちらに。」
そう言って床の扉は閉じられる。 するとガネッシュさんを始めとして、続々と行くので、その後をついていった。
階段を下りると、そこでとても大きな魔方陣と10名位はいるであろう魔法使いの方達が、なにかをしていた。 具体的には片っ端から魔法を撃ち合っているように見えた。
「モリューシュ様。 ガネッシュ様とそのご家族です。」
モリューシュ、と呼ばれたその老人はゆったりと立ち上がる。 お髭も髪の毛もかなり長い。 まさしく「老魔導師」と言った風貌をしていた。 そして立ち上がろうとするその老魔導師を制止するかのようにガネッシュさんは寄り添った。
「ああ、お立ちにならなくても大丈夫です。 少々挨拶に来ただけですので。 それに」
「・・・なるほど、そこな娘の事であるな。 この魔力量。 ここにいることが不思議な位だ。」
そうモリューシュ様は話した。 私の事が見えているのかな? と思ったのだけれど、あれくらいになれば魔力の質とかで分かるのかもしれない。
「話はするべきだな。 場所を変えよう。 心配はいらん。 4時間程度ならワシがおらずとも維持できる。」
維持? そんなことを思いながら私はただ、ついていくだけだった。
「新たな魔法使いに祝福の門出を・・・と言いたいところだが割愛しよう。 ワシも歳じゃし、その娘も必要には見えん。」
心を見透かされるように言われたので、どこまで私の事を見えているんだろう?という疑問が生まれる。
「モリューシュ様。 本日はホノカさんの事についてお話に参りました。」
「この街の住人としての受け入れやここでの仕事については断る理由はない。 なにせお主達家族が認めた魔法使い。 それだけの実力があるものを追い返すなど想像もつかん。」
「ありがとうございます。」
「あ、ありがとうございます!」
なんだか淡々と話は進んでいるけれど、とにかくお礼は言っておかないとと思った。 受け入れてくれているのにそれを無下にはしたくない。
「しかしその娘の魔力量。 先程も申したが、ここに留まる理由が見当たらん。 この魔力量、他の国でも手が出る程欲しがるだろうに。」
「モリューシュ様。 彼女は異世界から召喚された者なのです。 そしてその場にいた僕が彼女の身柄を引き取りました。」
「ならば尚更だろう。 異世界からの召喚ということは、ゆくゆくは勇者一行と魔王退治に同行するはずの担い手になるだろう。」
「それが聞いてよモリューシュじい様! あの馬鹿王親子、あろうことかホノカを「無能」扱いしたのよ!? しかも王子に至っては性奴隷にするって! 見る眼が無いのは百も承知だったけど、こればっかりは私も頭にきたね!」
「・・・なるほど、状況は理解できた。 ルビルタの怒りも良く分かる。 そうか。 あの2人では見抜けぬか。 いやはや悲しい時代になったものだ。」
この街での魔法使いって基本的にどんな扱いを受けているんだろう? そんな疑問が浮かんで来たので、おずおずと訪ねた。
「あの・・・ここで魔法使い達が結界を貼っているとお聞きしたのですが、その方達は常にここにいるのですか?」
「いえいえ、この街に住む魔法使いは皆、普通の生活をしておりますよ。 あるものはお店を、あるものは教師を、またあるものは討伐隊など様々おります。 ここにおられますものは当番制で来ておられます。 こちらとしてもその方がやりやすいものでの。」
それもストレスとかを溜めないための工夫なのかな? 確かに同じ人間が同じことを繰り返しているなんて発狂してもおかしくないから。
「あの、その結界を貼っているところを見せていただくことは出来ますか?」
「なかなか好奇心の強い娘じゃ。 構いませんよ。 魔法使いになったあなたにも、いずれ当番が訪れるやも知れませんしの。」
そう言ってモリューシュ様は先程の場所へと戻られて、私達は更に下る階段から行かせてもらった。
そこでみた光景は魔法使い達が自分達が使える魔法をあらぬ方向へと飛ばしている事だった。 別に人に向けて放っているわけではなさそうだし、感覚もそれなりに広いので、まず当たることは無いとマウスレッドさんから耳打ちされた。
「あれだけ魔法を放って、一体何をなされているのですか?」
「ホノカさん。 あれこそがこの街の結界を作り出すための源なのですよ。」
「え?」
「この中ではどんな魔法を撃とうと吸収されていって、それを糧として結界が作られているのです。 つまり撃てば撃つほど、結界が出来上がるという訳です。」
何かの媒体に注入するんじゃなくって、放たれた魔法から取るんだ。 なんだか不思議かも。
「一点に集中するのではなく大きく魔法を撃つことで、とても大きな魔法でも気兼ね無く撃てるのですよ。」
「私もここで拳や蹴りに魔法を纏わせながら演舞をするんだけど、いい運動になるのよね。」
そんなことを話していると1人の男の人がこちらに寄ってくる。 その顔は疲労を全面に出していた。
「お疲れのようですね。 今日は終わりですか?」
「ええ。 だけどこれからお店に行こうと思ってるんだ。 店を任せきりには出来ないのでね。」
「あなたのお店で働いている人は皆さん頑張っていますよ。 あなたがいなくてもいいくらいに。」
「そう言うわけにもいかんのさ。 細かいところは自分が・・・っくっ。」
そう言いつつも膝を付いてしまう。
「無理をする必要はありません。 お店の方には僕達が言っておきますので、貴方はお休みになられてください。」
「ぐぅ・・・しかし・・・」
「あの・・・」
流石に私もここで見ているだけにはいかないと思ったので、声を出した。
「よろしければ、私が疲労を回復させてあげましょうか?」
「ん? 君がか?」
「彼女は白魔導師の職業を持っています。 魔法の質は僕達が保証しましょう。」
その言葉でとりあえずは納得したようで、そのまま脱力気味に膝を付いた。
「恐らく魔力切れによる心身疲労・・・だと思いますので・・・「五体の疲労の源を探って レントゲンナー」。」
そして私の魔力から相手の情報が出てくる。 情報と言っても全部の情報ではなく、あくまでも探るのは「疲労感の原因」のみ。 プライベートな事は流石に見れない。 見る理由もないけど。 そして原因が判明したことで、次にどんな魔法を使えばいいか分かってくる。 だけど相手は本心では望んでないことかもしれない。
「ごめんなさい。 これが最善策なので、文句なら終わってから聞きます。 「体の安息はその誘いの先に スリリープ」。」
「うっ・・・それは・・・Zzz」
そう言うが先か、眠りに入ってしまう。 この人の疲労感の原因は睡眠不足による集中力の低下にあった。 ならば解決方法はやはり寝ることにあるだろう。
「すいません誰か移動をさせてもらえますか?」
「僕達が動かしましょう。 どのみち街の方に戻らなければなりませんから。」
そう言ってマウスレッドさんが彼を抱えて、階段を上がるのだった。
今回は少し長めに執筆しました。




