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白魔法と練度

「『傷を癒す芝と為せ ヒールグラス』!」


 私が詠唱すると、部屋の一角に青々とした短い草が現れた。


「この草一つ一つに治癒魔法がかけられています。 つまり触れれば自然に身体から痛みが消える魔法だと言うことでしょう。 ・・・む。 すぐに消えてしまいましたね。」

「はぁ。 今の私の限界ってことですか。」

「簡潔に言えばそうなります。 しかし魔法とは使えば使うほどその使用者の身体に覚えていくようになり、最初の弱い呪文は自然と、大きな呪文は気力の操作によって出来るようになってきます。 魔法を撃てる回数は限られていますが、回数を重ねることは修練としては最も効果的なのです。」


 魔法って意外と習うよりも慣れろ精神なのね。 知識だけ突っ込んだ頭でっかちにはならないようにしないと。


「他にはどのような魔法がございますか?」


 白魔法についてはマルスティさんも興味があるのか、仕事の方に戻らないで一心に私の魔法を見ている。 仕事しなくて大丈夫なのかな?と思ったけれど、マウスレッドさん曰く「ここの人達は働きつつも適度に休んでいるし、人数も多いので、一人二人欠ける程度問題にはならない」のだそう。 ちなみに監視役という名目もあるので、怒られることもないそう。 就職先として考えておこうかな?


「ええっと・・・あ、これはどうでしょう。 『加速魔法 クイック』。」


 加速魔法とは書いてあったものの、実際にどうなるのか目に見えては分からない。 というか対象物が無いから不発?


「ふむ。 ホノカさん。 僕に向かって先程の魔法を撃ってみて下さい。 あ、僕は歩いてみますので、狙いを定めて下さいね。」

「え!? は、はい。 分かりました。」


 標的が動いているのを想定とした魔法放出の練習を兼ねたものをしてくれた。 ええっと身体の中の魔力の流れを考えながら、マウスレッドさんに命中するように・・・


「『加速魔法 クイック』!」


 そうして放たれた魔法の弾道は、しっかりと歩いているマウスレッドさんに届いた。 そしてどうなったのかと言えば


「・・・とと! なるほど。 速度が上がるのも落ちるのも一瞬間ということのようですね。 しかしこれは状況に応じた使い方をすれば中々に面白いことになりそうです。」

「マウスレッドさん。 楽しんでませんか?」

「勿論。 私としても白魔法の研究など進んでいなかったも同然でしたし、こうして身に体験出来るのは中々無いことですので。」


 魔法使いとしての性って事なのかな? でも実際に白魔法は直接かけているからちょっとだけ悪い気もする。 本人が喜んでくれてるならそれでいいのだけれど。


「その魔導書は白魔法を中心としていますが、ここまで書かれているものは、正直初めて見ましたよ。」


 マルスティさんも感嘆の声しか挙げていない。 きっとそれだけこの魔導書にはとてつもない財宝のようなものが詰め込まれてるんだろう。 魔法使いにとって、だけど。


「確かに初めて使う魔導書としては出来が良すぎる。 これは次の使い手のために魔力の動かし方や魔法における効力を徹底的に突き詰めたい言わば「魔導教科書」。 我流で魔法を覚える魔法使いに取って、このような魔導書とは滅多に巡り会えない程です。」


 そんな魔導書を私は手に取れたのか。 そう思えば私もそれに答えなければとやる気が上がってしまう。 自分だけの魔法を身に付けないと。

 そうは思っていても、時間や体力と言うものは意外と残酷に訪れる。


「マルスティさん。 本日はここまでにさせて貰います。」

「お帰りになられますか?」

「ええ。 時間の事もそうですが・・・なによりホノカさんがかなり疲弊してしまっているので、休息が必要かと。」


 いくら初めて限界まで魔法を使ったからと言って、足腰がガタガタになるまでやってしまったのだ。 こればかりは私が悪い。


「魔法使いたるもの限界と言うものを知りたくはないのです。 大丈夫。 ホノカさんの素質ならば、もっと大きな魔法を使っても疲れなど感じない程の魔力量を持てるはずです。」

「私もそう思います。 またこの具現化院に是非とも来てください。」


 マウスレッドさんやマルスティさんが声をかけてくれる。 それだけ期待もされていると言うこと。 こんなところでへばっていてもしょうがないのかもしれないけれど、今はゆっくりと休みたかった。


「それにしても、練度ってそんなに何度も繰り返すことで重なるものなのですか?」


 私は帰りにもしっかりと勉強をしようとマウスレッドさんに声をかける。


「同じことを繰り返すのは苦痛に感じることかもしれません。 やっていることが変わらないのですから。 ですがやらなければ覚えられないと言うのもまた1つ。 魔法使いたるものそのような怠惰的な考え方をするものは、大抵は魔力に堕ちてしまいます。 慣れるものは慣れておくのが一番です。」

「明日からも頑張っていきたいです。」

「その粋ですよホノカさん。 ですが今日はお休みしましょう。 限界ギリギリまで使い果たした魔力を戻すのには時間とエネルギーの両方が必要となりますから。」


 ゲームとかで良く言われる「MP」って奴よね。あれって精神力の総称なのかと思ってた。


「でも実際に使える魔法は限られていましたね。 白魔法だからでしょうか?」


 私自身が白魔法を使った感想としてはそんなものだ。 いや、確かに普通に生きていく上では魔法なんてものは使わなくても生きていける。 だけど折角あるのだから使わなければ損ではないか。 そう思ってしまう。


「基本的に魔法は日常茶飯事では使いませんからね。 それに元々は攻撃魔法が主ですし。」

「あ、その辺りは普通に魔法なのですね。」

「しかしその中でも日常的に使える魔法が多かったのも白魔法の特徴とも言えるでしょう。 回復魔法や身体強化魔法は、普通の魔導書にはまず載っていませんから。」


 だからあんなにもテンションが上がっていたのかな? 感覚としては新しいおもちゃを見つけたような声を挙げていたけれど。


「さ、着きましたよ。 僕達の家に。」


 どれだけ飛んでいたか忘れるくらいにマウスレッドさんと話していたので、いつの間にか家に着いていたらしい。 「僕達」の家・・・私も家族として迎え入れられているのがとても分かる言葉だった。


「んぉ? ようやく帰ってきたわね。 予定よりも遅いじゃないの。」

「すみません姉さん。 興味深いものを見つけまして。」

「あんたはあの場所に行くと何時もそうでしょうが。 今に始まったことじゃないけど、もう少し家族を大事にしなさいよ。」


 そんな言葉を発しているルビルタさんは、全く怒っている様子ではなく、むしろ「やれやれ」と言った具合の表情だった。


「お帰りなさいマウスレッド、ホノカさん。 お夕飯はもう少し待っていて下さいな。」

「ただいまです母さん。 父さんは?」

「まだお仕事ですよ。今日は遅くなるそうなので、先に食べてしまいましょうか。」


 そうして食卓に私は腰かける。 そしてそんな夕飯前のちょっとした間でも私は白の魔導書を開くことにした。 まだ1/4も読み終えていないから。


「お? それが今日の戦利品?」


 ルビルタさんに問われたのでそのまま「そうです」と答えた。


「姉さん驚かないで聞いてください。 ホノカさんが持っている魔導書。 なんとエンピューロ・メディソン様が製作された魔導書なのですよ。」

「え!? マジで!? 伝説と言われた白魔導師で、弟子達に伝承して挙げられなかったって最後まで自尊の念を持っていたって言われてるあの!?」


 魔導書を読みつつも、どういうことなんだろう? と思いながら書を進めていく。 文字はマウスレッドさんから教わったけれど、この魔導書には翻訳機能があるのかスラスラと読める。 あんまり先に進むと読み逃しちゃう事もあるので、慎重に読んでるけど。


「あらあら、それならこれから大変になるかしら。」


 キッチンで話を聞いていたカレトさんもまた、嬉しそうに会話に入ってきた。


「そうですね。 まだまだ始めたばかりですし、練度も足りていません。 魔力の使い方を覚えなければいけないので。」


 一朝一夕に出来るとは私も思っていない。 だからこそ、日々の積み重ねは大事だろうと思っている。 向こうの世界に戻れないと前提を踏んだ以上、ここで頑張らなければと決意を新たにした。


「ささっ、お夕飯ですよ。 ホノカさんも一度魔導書を閉じてくださいな。」

「あ、は、はい。」


 そうして食卓を囲んで今日の疲れを癒すために、寝室に入った後はゆっくりと微睡みに落ちていったのだった。

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