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私だけの魔導書

「確かにこれは持ち主が現れて初めて魔導書になる造りになっていたようですね。」


 マルスティさんからそう告げられて、私はちょっと焦っていた。 元々は誰かの所有物なのに、勝手に持ってきて、尚且つ自分の物にしてしまったのだから、完全に取り返しがつかないのである。


「あ、あの・・・私はどうすれば・・・」

「そこまで気にすることはありませんよホノカさん。 この魔導書はそもそもが()()()()()目的で造られていますので。」

「そう言った目的?」

「簡単に言えば、この魔導書に相応しいと「魔導書自身」が認めた相手に力を与える造りなのです。 魔導書自身と言いましたが、正しくは「この魔導書を書き綴った魔法使い」になります。」


 マルスティさんの説明を聞いて、ぼんやりとそういう魔法の覚え方もあるなって感じになった。


「書き綴った魔法使いの性格の良し悪しもあるので、この方法は危険なのです。 場合によっては精神自体が作成者に乗っ取られる可能性もあるからね。 そしてそれを目的として魔導書を造り出す魔法使いもいる。」

「それってどうやって対処をするのですか?」

「精神干渉ならば、魔導書を読んだ本人がその精神に打ち勝つか、物理的に魔導書を抹消するかのどちらかになります。 ただ前者の場合はともかく、後者の場合は読んだ本人も壊してしまう可能性もあります。 故に危険なのです。」


 そうした会話をちょっとしているだけなのに、空気がピリピリとしている。 多分事例がいくつもおるからこそ、そう言ったものに敏感になっているのだろう。


「あの・・・それで、この魔導書は・・・」


 私はおそるおそる聞いてみる。 もしかしたら先程言った物だと、この魔導書は物理的に抹消されてしまう。 私の精神状態からすると、この魔導書のみなのだろうけど、声の赴くままに手に取ったらそうなってしまっただけなので、それはいくらなんでも魔導書の方が可哀想になってくる。


 どういう決断をするのかと待っていると、マウスレッドさんもマルスティさんも優しい顔で私を見ていました。


「安心してくださいホノカさん。 この魔導書には危険はありません。 むしろこれをホノカさんが見つけたのは、本当に運命的だと思っています。」

「運命的?」

「それは直接魔導書に聞けば良いでしょう。」


 魔導書に・・・聞く?


『想いを現世に言霊として響かせ「リ・コメント」!』


 マルスティさんの魔法により、手に持っていた白の魔導書は発光する。 そして魔導書から光が無くなると


『・・・あ、あれ? 私、召天した筈なのですが・・・?』


「魔導書が喋った!?」


 驚くのも無理はないと思う。 だってスピーカーも無いのにいきなり本から声がしたものだから、驚かないのは物凄い胆力がいる。


「あなたに聞きたいことは色々とありますが、まずは単刀直入に聞きましょう。 あなた、もしくはこの魔導書を造った人物は誰ですか?」


『私の声が聞こえてる? ・・・そう言うことですか。 既にそのような魔法が使える時代になったのですね。』


 魔導書さん(?)が感慨深くなっているけれど、声しか聞こえないので、感情が読みにくい。


『私を、この魔導書を造ったのは、エンピューロ・メディソンです。』


「「エンピューロ・メディソン!?」」


 2人の反応に私が驚いてしまいました。 ここは具現化院なのにそれだけ大きな声をあげると言うことは、とんでもないことには間違いないのだから。


「まさかそのようなことが・・・いや、むしろ今まで誰の手にも取られなかったのにも、そしてホノカさんがこの魔導書を手に取れたのにも、納得するには十分すぎる。」

「あ、あの・・・そのエンピューロ・メディソンとは・・・一体どのような人物なので?」

「ホノカさんは知らない・・・のも無理はないんでしたっけ。 あなたは転移してきた人物。 この世界の歴史は学ばなければ分かり得ない。 ・・・場所を改めましょう。 少々騒ぎすぎたようです。」


 マルスティさんの言う通り、あちらこちらから声が聞こえてくる。 これでは会話どころではない。 そうして本と共に立ち上がるのだった。


「魔法使いの歴史と言うのは、極めて長いのはお察ししているかと思います。」


 場所を変えてのマルスティさんの開口一番はそんな言葉だった。


「しかし歴史が長いのと、魔法使いの寿命が長いと言うのは、基本的にイコールではありません。 通常の人よりも「寿命を長く保てる」という事に過ぎないからです。」

「そうなんですね。 てっきり魔法使いになれば寿命が伸びるものだと・・・」

「それが真実となるならば、もっと積極性は増していくと思いますが。 そして寿命が多いわけでないなるば、自分の功績を少しでも残そうとするのも、また真理です。 忘れ去られる事が、人の価値が失くなることの最終的な定義だと唱えます。」


 忘れ去られる時・・・か。 向こうの世界じゃ、もう行方不明扱いにされてるんだろうなぁ。 これであの王子の性奴隷になっていたって考えたら本気で絶望しか無かったんだろうなぁ。 マウスレッドさんには感謝してもしきれない。


「そして少しでも後世に残す為に魔法使いの大半は残りの生涯をかけてこのように魔導書を残すのです。」


 つまり自分のしてきたことを読んで貰うことが前提になってくるのね。 魔法使いの歴史が途絶えない訳ね。


「しかし魔導書の中には悪意があるものもあります。 そして誰にも見て貰えないものも。」

「誰にも・・・」


 その話で私が落ち込んでしまう前に、マルスティさんは話題を変えていた。


「その魔導書が言った、エンピューロ・メディソンという女性は、貴女と同じ「白魔導師」だったのです。 しかもその方の白魔法は、他のどの魔法使いをも圧倒する程の力を出していたそうです。」


 そんな人物がこの世界の歴史には存在していたのかと関心はしているものの、やっぱりそれはあくまでも歴史上の話だと割りきってしまうのは、多分興味を持てないからだと思う。 歴史は苦手だったし。


「しかし膨大な魔力というのは敬いもありましたが恐れもありました。 いえ、白魔導師なので恐れられてはいなかったのですが、引き継ぐものが現れなかったのです。 白魔導師自体は少しづつ増えたものの、エンピューロ様ほどではなかった、と。 それでもエンピューロ様は魔導書を書き、そして白魔導師の方々の誰にでも良いので、自分という存在を残して欲しいと、その願いで魔導書を託し、そして亡くなりました。」

「でも私が見つけるまで誰も見れていないのは何故なのですか?」

「魔導書が意思を持ち使用者を選ぶ場合というのは、その使用者が「制作者と近い魔力や性質」を持っていなければ発現しません。 つまり適合者が現れなかったので、ある日を境に具現化院の中に入ることになったのでしょう。」


 そんな風になるまで顕現しなかったこの魔導書。 そんなものを、私が使っていいものなのだろうか?


「あの、折角顕現したので、この本はお返しします。 私にはとてもじゃないですけれど、あまりにも大きすぎます。 ですから・・・」

『あの・・・ホノカさん・・・と仰られましたか。』


 魔導書を突き返そうとした時、またもその魔導書から声が掛かった。


『すみません。 適合した魔法使いが顕現した魔導書というのは、もうその適合者の所有物になるのです。』

「え!?」

『ですからその、どれだけ貴女が離そうとしても、基本的には手元に戻ってくるんです。』


 ということは私はこの魔導書と一心同体のような存在となってしまったってこと? そんな偉大な魔法使いの魔導書と?


「僕も貴女の手元にあった方がいい。 むしろその方がエンピューロ様も喜ぶと思います。」

「・・・どういうことでしょうか?」

「先程もマルスティさんが仰っていたように、彼女の白魔法はどれも圧倒する程の力。 そして魔導書は適合した魔法使いで無ければ発現しない物もある。 つまるところ、貴女とその魔導書は互いに惹かれ合う運命だったのです。 エンピューロ様も長きに渡って、ようやく見つかった適合者。 喜ばしいことだと思います。」

「た、確かにそうかもしれませんけど・・・」


 荷が重すぎる。 そんな偉大な魔法使いの力を、こんな形でポンと使ってよいものかと。 そしてその私が扱いきれるのかと。 不安だけが募っていく。 募ってはいくのだけれど・・・


「・・・私、覚悟が決まりました。 エンピューロさんの意思は、私が引き継がせて見せます!」


 それでもこの魔導書を手放してしまえば、全てが終わる気がした。 なによりもこれだけ偉大だと言われていた人物を、それだけに留まらせてしまうのは、とてもじゃないけれど出来なかった。


 その言葉を聞いたマウスレッドさんとマルスティさんは、納得したような優しい微笑みをくれた。


『良かった・・・これで私も、あの人の元へ行けます。』

「え? 残ってはくれないのですか?」

『私はこの魔導書にある残留思念のようなもの。 適合者が見つかれば、それ限りなのです。 ですが安心してください。 貴女ならきっと、その魔導書を使いこなすことが出来ると、私は確信しています。 貴女に託します。 エンピューロ・メディソンの、生涯の全てを綴ったその魔導書を。』


 そして淡い光が包まれた後に、白い魔導書のみが残されていた。 その魔導書を私は抱き締めた。


「まだまだ未熟者ですが、私は必ず成し遂げて見せます。 貴女がどんな人だったのかを伝えるために。」


 この世界に来て私は、1つの想いを書にのせて託された身となった。

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