唯一の敵に成る為
世界中で争いが絶えない。
人が魔人族を憎む連鎖はいつまでも続いている。
こんなのは辛すぎる。
見るのも辛い。
ほら、あそこで誰かの泣いた声が聞こえる。
あんまりだ…。
例え、戦争で英雄になろうと憎しみの連鎖は終わらない。
だれかが終止符を打たないと…。
終止符を打つのには必要なことがある。それは、多大なダメージを世界全体に与えさせる。
誰がそんな憎まれ役を買うと言うのだ?
誰も買わないだろ?
けれど誰かがやらなければ…。
永遠に変わらない。
なら、仕方ない…俺がやろう。
♢
ー焼け落ちた都市イーディア
「魔王アスフォード何故お前は…こんな残酷なことをするんだ!!」
魔王アスフォードと呼ばれる魔人族の男は昔の事を思い出す様な目で勇者と呼ばれている人類の希望を見ていた。
「勇者か…。お前は俺に何の恨みがあるんだ?いい加減しつこいぞ」
アスフォードは魔王と呼ばれるだけあって悪行の数は計り知れない。ただ、現在対面している勇者に恨まれる理由が浮かばなかった。
「お前……分からないのか?」
「何のことだ?言ってみないと伝わらないぞ?そもそも他人の心を知る能力は俺にはない」
勇者と呼ばれる少年の脳裏には5年前の出来事と先程の出来事が浮かんだ。
「何で…何で……何で…人を殺すんだ?」
アスフォードは勇者の問いに応えるつもりが無いのか背を向ける。
「答えろぉぉぉぉぉぉぉアスフォードォォォォ!」
勇者が叫んで時にはもうそこに魔王と呼ばれる青年はいなかった。
♢
意識がぼんやりする……。
最初に見た涙は親戚の爺さんが人族に殺された事を嘆いてる両親から出た涙だった…。
次に見た涙は…幼馴染が人族に殺された時に自分の顔から止まらずに流れ続けた涙だった…。
その後も両親、親戚、親友、兄弟姉妹…。
皆が涙を流し続けた。
もう嫌だ。
誰かが壊れる様な声で泣きながら言った。
何で私達から奪っていくの?
誰かが八つ当たりの様に口にする。
目の前に墓石ばかり増えていく。
誰かが泣く声ばかり増えていく。
救いたいのに救いたいその時に自分は力になれなかった。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も……大切な人の墓石ばかり増えていく。
力が無い…。
ー言い訳するな。
知恵が無い…。
ーあったからって如何なるんだよ。
勇気が無い…。
ーまた、奪われたいか。
希望が無い…。
ー誰かに自分の出来てない事を期待するな。
気がつけば俺は知り合い全てを殺されていた……。
新しい墓石が毎日積まさる。その度に涙を少年時代のアスフォードは涙を流す。いつまでも流し続ける。
アスフォードは何もしない。その癖に誰かに願っている。神様神様といつまでもいつまでも…。飽きもせず。グダグダと…誰かがやってくれる。誰かが守ってくれる。
誰もいないと知りながら。
奪われ続ける。
そんな事普通だ。
願わずにはいられない。
だって御伽噺の英雄が救ってくれるっていつまでも期待している。
何で何もせずに期待していたのだろうか…。
そんな少年アスフォードも終止符が来た。
アスフォード自身が殺されそうになったんだ。
魔人族は国を持たない。
魔人族の村が国みたいなものだ。
だから村の防衛中だった。
遠くから矢で腹を射抜かれた。
何の力も無いアスフォードに矢は簡単に突き刺さる。幸い致命傷にはならなかった。アスフォードは悪運が良かった。矢が刺さったお陰で気絶してしまい生き残ったのだから…。
村が焼かれている光景を少年であるアスフォードは見ている。
親友の家族の家が焼かれている…。中の人が焼け死んでいた。
この事は何よりもアスフォードにとって衝撃だった。
少年だったアスフォードは身体が咄嗟に動いた…。
ガレキの中の死骸を探す為に手を伸ばした。
親友の親は既に死んでいた。
家族を頼む…。それが、親友の最後の願いだったんだ…親友の最後の願いすら俺は叶えられないのか…。
「あ………あぁ……た………て」
微かに音がする⁉︎
まさか……。
アスフォードは焼けている親友の家を魔法で消化しながら声の方へ向かった。
声の主を見て少年であるアスフォードは安心する。
声の主はアスフォードの親友の妹だったのだ。
ただ…アスフォードから見ても親友の妹ソアラの顔が焼け爛れてしまっている。アスフォードは親友との約束を守る為にソアラを救出した。
けれど…救出したソアラの身体を見てしまった。
アスフォードは、長く持たないことを悟る。
ソアラは上半身から下は炭化していた。これでは他の施し用が無い。
この現実はアスフォードを更に追い詰める。
アスフォードにソアラはお願いをした。
「アス…フォ…ド…さ…手…に…ぎっ…も……ら……か」
「ああ、分かった」
アスフォードはソアラにお願いされた通りてを握ってあげた。ソアラの手は焼け爛れて血塗れだった。だけどアスフォードは優しく握ってあげる。ソアラが少しでも痛みを感じない様に…。そして此処に俺も居るよと言う様に…優しく握ってた。
数分後ソアラは呼吸を止めた…。
アスフォードはソアラの手が冷たくなったことに気がついた。アスフォードの顔からは涙が溢れ出ていた。アスフォードは涙を拭うこともなくソアラが死んでから数分間手を握っていた。
ソアラが寂しくない様に…。
アスフォードはソアラの遺体を安全な場所に置いた。そして直ぐに立ち上がって自分の焼け落ちたであろう家を見に行った。
アスフォードは家族と共に暮らしていた思い出が沢山詰まっている家が焼け落ちているのを見た。
そこには以前まであった家の面影は無かった…。アスフォードにはそれが耐え切れなかった。
「ふ………は……はは。ハハハ。ふざけんなよぉ…ふざけんな!どうしてだぁあぁあぁぁぁぁあああああ」
アスフォードは壊れた様に笑っていた。如何しようもない理不尽に心が砕けていた。
村を襲った犯人が誰かも分からない。
何故…?
何故魔人族がここまで嫌われる?
誰がやった?
何で誰も助けてくれないの?
何でこんな理不尽なの?
少年であったアスフォードは壊れたオルゴールの様に誰に届くかもわからない質問ばかりをしていた。
皆…死んじゃったよ…。
皆…俺だけ置いて墓に入るんだ…。
ごめん……ごめん…ごめん。
守れなくてごめんなさい…。
少年だったアスフォードは、誰もいない墓石に向かって謝っていた。
♢
懐かしい夢を見た…。
アスフォードの頬は涙で濡れている。
あの頃何も出来なかった俺が今では世界の敵の魔王だ…。
嗤わせる。
俺は世界中で魔王なんて呼ばれている。言われる原因は俺にあるのは確かだ。魔人族も人族も何方も殺しまくったし、沢山の人々が住む国を滅亡させたりした。どれも楽しくなんてない。
それもこれも目的の為だ。
世界が魔王を敵として認知する様に仕向けてやる!
世界中の誰が恨もうとも憎もうとも…俺はその全てを肯定するだろう。
ただ目的の邪魔をするなら排除する事を俺は厭わない。
俺は世界に教育してやる。
一度失ったら二度と戻ってこないモノもあるんだと…。
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