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ミルカの思惑1

間が空いてしまいすみませんでした。胸糞注意です。二つに分けました。

◇◇


 遂に水を掛けても動かなくなった侍女を、王宮に居を移す前から『親しく』している下級騎士に運び出させた。

 髪を抜いて塩を塗り込むだけではつまらなくて、他の侍女に命じて鞭や運ばせた棒で打擲させていたが、目立つ傷を付け過ぎた。

 少しやり過ぎてしまったが、彼らがいつも通り上手く処理してくれるだろう。


 上級貴族出身の若い騎士達はなかなか上手く扱えないし、それでも数人は篭絡しているものの、少々上品すぎてミルカの望むような仕事をするように上手く誘導出来ない。

 それに比べて金払いは悪いが階級が低い騎士や下級の貴族、上級の中でも宮殿であまり役職を貰えない様な頭の悪い男の方がミルカの望みを存分に叶えてくれた。

 その中にも色々種類があり、今侍女を連れ出したのは特に素行の悪い男で、ミルカのこうした気晴らしの事も良く知っているから問題なく任せられた。


 そこまで互いに熟知している男は数が少なく、貴重だ。

 欲深く、利益の為ならどんな汚れ仕事でも平然と行う彼らは体と甘言だけで篭絡出来る愚かな男達より賢いが、ミルカから渡る金と様々な融通があるから裏切らないし、ベッドでも他のありふれた男……例えば婚約者である王太子などより余程楽しませてくれる。


 あの侍女はあの下級騎士の後ろ暗い仲間の所に連れていかれて、使えるだけ使って、ついでに小銭稼ぎにも使われてから口封じされるのだろう。

 あれが淡い金髪の女ならその光景も楽しく見物するが、髪も目も異母姉とは違うからそこまでの関心は無く、先程の気晴らしだけで十分に満足していた。


 後の始末については放っておいても王太子の婚約者に罪歴を付けられない王家と公爵家が誤魔化してくれるから問題無い。

 以前はもみ消しや痕跡消しに余分な金を請求されて面倒だったから、今は勝手にやってくれる者がいて気楽で良かった。


 ミルカが何をしようと、公爵の血を継ぐ娘がミルカしかいない以上子を産むまで殺せない。

 子を産んだ後は殺される危険もあるが、結婚して子を授かったら生まれる前に公爵は殺してしまえばいいし、レオナルドは寝台での技はまだ今一つだが顔が気に入っているから、ミルカを王妃に立てたい助言者がくれる薬を使って大人しくさせておけばいい。

 未亡人の王妃として矢面に立つより、正当な王や王太子の後ろにいる方が安全だ。


 国王を殺すのは流石に難しいが、あの好色な王は既にミルカの閨に何度も訪れていて、溺れさせこそ出来ていないが体を気に入らせてはいるから、いずれは薬を使って言うなりにも出来るだろう。

 すぐに異変が起これば周囲に気付かれてしまうので、少なくとも四、五年は掛けて崩していけばいいと、助言者からも言われている。


 ミルカは勉強は嫌いだし、やる気も無いが頭が悪い訳ではない。

 異国の言語だのマナーだの、権力と金でどうにでも出来る事を覚えるつもりは端から無いが、頭の悪い男を転がすのは得意だし、恨みを抱いた相手の名前や顔は決して忘れない。


 論理立ててものごとを考えるのは苦手だが、本能的に自分が欲しい物を得る方法は理解していたし、周囲には助言をくれる者もいた。

 一番の助言者は実父であるメルヴァ公爵と対抗するグライド公爵で、父よりも年上の彼がミルカを上手く使って国の実権を掌握しようとしている事は理解しているし、本人の口からも聞いている。

 もともと国を動かす様な面倒な事はしたくないし、自由にさせてくれないレオナルドや実父よりも、十二歳の頃から愉しい事を沢山教えてくれ、男爵の娘では手に入らないものをいくらでも与えてくれたグライド公爵の傀儡となって甘い汁を吸っていた方が良いに決まっていた。


 レオナルドがもっと床上手で我儘を聞いてくれれば乗り換えも考えたが、王太子妃教育に取り組むようしつこく言われるのでうんざりしていたし、公爵であればそんな事は必要ないと言ってくれる。


 二人の間に愛情など無いし、公爵が十二歳の頃からメルヴァ公爵の隠し子であるミルカを政略の道具として扱っている事は解っているが、ミルカ自身は面倒な事をせずに愉しく暮らせるのならば道具でも構わないし、グライド公爵もそれを理解しているからミルカの望む生活は約束してくれていた。


 彼との出会いは前述の通り十二歳の時で、グライド公爵家の一つ年下の令嬢の茶会に招かれたのがきっかけだった。

 それまで男爵位以下の子供の茶会にしか出た事が無かったミルカは、この世で一番贅沢な暮らしをしているのは自分だと思っていた。

 今思えばメルヴァ公爵の隠し子だからだが、当時実父と思っていたニース男爵はミルカが望むものは全て与え、一切叱らず、やりたくない事はなにもやらせずに育てていた。

 食事だけはある程度制限されていたが、母から太ると可愛くないから仕方ないのよ、と言われ、悪い例として見せられた他所の男爵令嬢や太った婦人達は確かに醜くて、あんな風になりたくないでしょうという言葉に納得して制限を受け入れたが、他に関しては一切の我慢をしなかった。


 とは言っても所詮男爵位の世界しか知らないミルカには本物と偽物、高級品と安物の区別がつかず、見た目は豪華な硝子玉やら安石に真鍮の首飾りや派手な色で誤魔化した安い生地のドレスを着て満足する。

 ミルカの母を身請けする代わりに多額の口止め料に手切れ金や養育費を密かに受け取ったニース男爵家は周りの男爵家よりずっと裕福で、他の男爵令嬢は質素な装いだったから、やはり自分が世界で一番贅沢なお姫様だと思い込んでいた。


 それが覆されたのが公爵家の茶会で、神殿よりも立派な広大な屋敷にフリルやレースがたっぷりと飾られた豪華なドレス、そして自分が付けているお気に入りの首飾りよりずっと大きな石がついた首飾りを付けた公爵令嬢の姿に衝撃を受けた。


 とは言え、当時からとても愛らしかったミルカに比べて公爵令嬢は今一つぱっとしない顔立ちで、他の客達も聞こえない所でくすくす笑っていた程だったから、その理不尽さに腹が立ち、ドレスは無理でも首飾りと指輪は自分の方が似合うのだから寄越せと令嬢に詰め寄った。


 その結果公爵家の使用人に慇懃無礼に引き離され、冷たい目をした公爵夫人から即刻帰るように言われたのだが、帰りに乗り込まされた馬車は行きとは違うものだった。


まだ繁忙期が終わりませんが休憩時間に地道に少しずつ書いています。

12月上旬位までノロノロです。すみません。

評価、ブクマ、

誤字報告、いつもありがとうございます。

次の話もミルカ視点の続きです。

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