表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたくし、性格が悪いのです~虐げられ、追放された令嬢は復讐を望む  作者: ねこやしき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/20

新しい生活

エルミーナ視点に戻ります。

◇◇



 竜の国に来てから一月、エルミーナの日常は多忙の一言に尽きた。

 朝、日の出と共に目覚めてから今置かれている立場にふさわしい姿に身支度を行い、可能であればレガートと共に食堂で、レガートの予定が合わなければ部屋で朝食を摂る。


 朝食の後はレガートが手配してくれた教師のもとで竜の国の事や近隣国、そして竜族や竜族以外の亜人について学んだ。

 ランドルでも様々な国について学んだが、距離がある上に国交のない竜の国やその近隣国についての知識は、伝わってくる中で間違った知識に変わっていたり、古いものであったり、大まかすぎて実際には役に立たないものも多い。


 亜人についても人間が好む竜族については時間を大きく割いて教えられるがやはり伝聞ゆえの誤りも多いし、他の種族に至っては外見の特徴や簡単な特性位しか教えられていなかった。


 改めて彼らの最中にあって学びなおしてみれば己の無知さに顔が赤らむ程で、今後、竜の国で暮らしていく上で特に付き合いの多くなる種族から順に学びなおしている。


 人間の国家についてもそれぞれの国の考え方や禁忌は地域が離れるごとに差異が増すもので、ランドルで一般的な行動がこの地域では眉を潜められたり、その逆であったりというものが幾らでもある。


 一ヶ月目は、まず教師たちと対話しながら広く浅く知識を得た末、概ね己に足りない部分を把握した。

 これからの一月は、その中でも優先順位の高いものをより深く学び、身分の無い人間の小娘でしかないエルミーナが龍の国にいくばくかたりとも貢献できる仕事を模索する作業に入る。


 そうした様々な学習の間に昼食を、これも可能であればレガートと摂り、午後も学習に励む傍らでルシアが選出してくれた竜の国の貴族女性との茶会で人脈作りに励んだ。


 最初はルシアが主催する王宮の庭園を借りて開かれた茶会に招かれ、そこでルシアが信頼を置く女性達にレガートの番であると内々に紹介された。

 その後は彼女達がやはり庭園で開く茶会に幾度か招かれ、それからエルミーナが主催する茶会にまずは既に知遇を得た女性達を、その次からは彼女達が連れてくる令嬢や貴婦人も招いて交流を育む。


 貴婦人たちは竜族、獣人、竜人、エルフにドワーフ等様々な種族がいて、それぞれに非礼が無いようあらかじめ習慣などを調べるのも、参加する女性たちの家名から国内外の勢力図を調べなおすのも良い勉強になる。


「マルーカ様。わたくし、気になっている事があるのです」


 特に親しくなった女性達だけを招いた茶会で暖かな紅茶を楽しみながら、エルミーナは言った。


「あら、どのような事ですの? わたくし達でお教え出来る事かしら」


 首を愛らしく傾げて問い返すマルーカは竜人……純血の竜族と他の亜人や人間の間に生まれた竜が更に数代続けて他種族と子を為した時に生まれる種族の女性で、彼女はレガートの宰相を務める侯爵の妻であり、二十四、五歳に見える姿ながら既に三百年以上を生きていると言う。


「無知故の疑問なのですけれど……王宮では様々な種族の方を拝見しますが、これまでの一ヶ月、異国からの使節以外の人間を見ないのは何か理由があるのでしょうか。平民には、人間も人口の二割程いると聞いているのですが」


 同じ人間である故に、何らかの理由があるのならばその事は把握しておきたく、問うてみる。


「ああ、その事でしたら……」


 言いながら他の貴婦人達と顔を見合わせたマルーカが少し迷ってから口を開いた。


「こう申し上げるのは失礼かもしれませんが、やはり人間は寿命が短いので竜や亜人の宮廷では働きづらいのですわ」


 寿命が短い分他の者よりも情報や人脈の蓄積に劣るし、他種族からすれば折角仕事での関係を築いたのにあっという間に老いて引退してしまうのでは難しいのだと言われて納得する。


「他種族の番となれば寿命は延びますけれど、やはり魔力や膂力において、亜人より非力でございましょう? その非力な身で竜や強い亜人の番になりますと、危険がとても多いのですわ。番としてこの国の貴族に見初められた人間は男女合わせて……そうですわね、わたくしが存じ上げている限りですと十四、五人いらっしゃいますが、どの方も、番となった者達が屋敷の奥深くに囲い込んでいて……私どもも姿を見た事がございませんの」


「危険……やはり、番となった方のお力や権力を目当てに狙われてしまうのでしょうか」


「ええ。そればかりではなく、竜族や一部の亜人の体は強い魔力を帯びておりますから、公的には禁止されていても闇では素材や奴隷として高値で取引されておりますでしょう? そういった者は皆強力ですので直接狙うに狙えませんが、人間や、亜人でも力の弱い番を攫えば本能的に自身よりも番を優先してしまう生き物ですもの。言う事を聞かせるなり、殺して素材を取るなり、好きに出来ますし実際そういった事件はかつて幾度も起きておりますの」


 竜や亜人の国において人間は、魔力は勿論腕力一つですら幼子に敵わない程弱い。

 中には規格外の魔力を持つ人間や、名だたる騎士や武人として、腕力に劣れども技術を持って亜人を下す人間もそれなりにいるのだが、それだけの力を持って尚且つ番となる人間など歴史に数人程度しかいなかった。

 それでも世界の半分余りを人間が占めているのは、圧倒的な繁殖力の高さと、魔力の低さを様々な工夫で補う応用力の高さゆえで、人間が開発した魔道具は実際に竜の国や他の亜人の国家でも広く流通いているものが幾つもあった。


 ともかくそんな弱い人間の番が攫われ、人質となれば番の安全を本能的に最優先とする竜や亜人はどれ程強い力を持っていようが命を落としたり、要求をのまざるを得ないゆえに、人間及び身を守る力が低い種族を番とした亜人は番の意思にかかわらず、彼らを手の内に囲い込んで誰の目にも触れさせない場合が多いのだと言う。


「ですので、基本的に人間や、亜人の中でも非力な者が番であった場合は閉じ込めてしまう事が多いのですわ。ですので、わたくしたちもエルミーナ様をご紹介いただいた時には本当に驚きましたのよ。竜王陛下の番となれば危険もより多くなりますし……ですが、こうして日々研鑽に励むエルミーナ様を見ていると、陛下のお気持ちも解るのですわ」


 ねえ、と顔を見合わせて微笑む貴婦人達の言いたい事が解らず、目を瞬くと、彼女らはくすくす笑って言葉を続けた。


「エルミーナ様はか弱く淑やかな小鳥に見えて、その実長い渡りにも耐えうる程の強い翼をお持ちの方。生き生きと学ばれる姿は輝いておいでですし、陛下も狭い籠に閉じ込めるより自由に羽ばたく姿を見ていたいとお思いになったのでしょう。ねえ、皆様?」


 その言葉にさざめくような同意が返される。


「ええ。ふふ、エルミーナ様はとても愛されておいでですわね」


 一人の貴婦人が言えば、隣に座る別の貴婦人も頷いた。


「エルミーナ様は燕の様ですわ。小さな愛らしい姿でありながら長く辛い旅を乗り越え、陛下の元に春を連れてきてくださったんですもの」

「まあ、その例えは素敵ね。陛下は長い冬を過ごされていたのですもの、やっと訪れた春告げ鳥を、籠に閉じ込めて弱らせたくなどないのでしょうね」


 微笑みと共に告げられた言葉に、貴婦人達が口々に同意する。

 エルミーナの経歴は、この場にいる者達にはルシアからある程度伝えられていたし、最初の茶会の頃の痛々しい程痩せた姿はまだ彼女らの記憶に新しかった。


「まあ、そんな……お恥ずかしい……」


 重ねられる賛辞に顔が熱くなり、思わず扇子で頬を隠すと、見た目よりずっと年上の貴婦人達はまたころころと笑う。


「初々しいこと。エルミーナ様。自由な身である事は素晴らしい事ですけれど、エルミーナ様の身の上では危険も多くございます。わたくしどもの様に歓迎する者ばかりではありません。これから先、規模の大きな夜会や催しに参加する事も増えていくでしょうが、その時は必ず、陛下かルシア様、それかわたくしどもを傍に置いてくださいませ」


 まっすぐにエルミーナを見詰めるマールカの目には優しさが満ちていた。


「遠慮はいりませんわ。エルミーナ様は陛下の大切な春告げ鳥。エルミーナ様の安寧は陛下の安寧、そして陛下の安寧は国の安寧ですわ。それに、わたくし、エルミーナ様をとても好きになりましたの。男の戦いは向きませんけれど、女には女の戦い方がございます。わたくしどもが、身命を賭してでもお守りいたしますわ」


 マールカの言葉に、共に卓を囲む貴婦人達も微笑みながら力強く頷いた。


「皆様…………」


 故国に居た頃には受けた事のない、心のこもった言葉に思わず目頭が熱くなる。


「……ありがとう、存じます。皆様のお気持ちに応えられるよう、これからも努力致しますわ……」


 くだらない意地だと思いながらも涙を零さないよう堪えながら、エルミーナは深々と頭を下げた。


「……ところでマールカ様。確かマールカ様は竜族の旦那様を拳の一撃で沈めたと伺いましたけれど……戦い向きではございませんの?」


 貴婦人の一人がくすくす笑いながら問うと、マールカが眉を上げる。


「まあ。エルミーナ様、レンシア様こそ武将の誉れ高い旦那様を平手で吹き飛ばした強者でしてよ?」

「あら、あれは旦那さまが悪いのですわ」


 つんと澄ました顔で豹の獣人であるレンシアが言うと、貴婦人達はくすくす笑いながら互いの武勇伝をエルミーナに告げ口する。


 思えば彼女らは竜族も亜人も取り混ざっているが、皆一様に竜族か高位の龍人の番であり、その上で自由な生活を送っている以上拉致の危険を感じない程強い者ばかり。


 並べられる武勇伝に目を丸くしたエルミーナは、しみじみとその事を思い知りながらも仲の良い彼女らの暴露話を共に笑いさざめきながら楽しんだ。


お読みいただきありがとうございました。

春告げ鳥はうぐいすを指す場合が多いですが、燕を指すこともあるのでそちらを採用しました。

いよいよストックが減ってきたので頑張って続きをかきます。

ブクマ、評価、誤字報告いつもありがとうございます。励みになっております。

明日も13時更新予定です。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ