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私のメモ!

「ううぅ……」


頭がガンガンするぅ……。

身体がだる重いぃ……。


ええと、確か、膝ごっつんしたのよね。

それで前世の記憶というものが生えて。

そのあとお兄様とお話して、色々と調べて……。

大変、それからの記憶が皆無だわ。


「アリス?」

「……お、兄……様……?」


息苦しくて、途切れ途切れの声が出る。


「よかった、気が付いたんだね。熱もさっきよりは下がってる」


額にのせられた手がひんやりしていて気持ちいい。

そっか、私、熱を出したのね。


「驚いたよ。夕食の時間になっても来ないと思ったら書庫で倒れていたんだ」

「え、夕食……?」


膝ごっつんしたのは昼食を食べた直後よ?

だって、食べてからそのまま二階の書庫に行こうとしたところだったのだから。


「きっと勉強を頑張りすぎたんだね。アリスが書いたものが散らばっていたよ」

「あ……」


まさか、あれを読んだなんてことは……?


「勝手で悪いけれど、読ませてもらっているところだ。内容が気になっちゃってね」


そう言うお兄様の手には、見覚えのあるヘタクソな字が書かれた書写材が。


なう!

こういうのを読んでるなうっていうのね⁉

それとも読まれてるなうかしら⁉


いえそうじゃないでしょう私!

内容がちょっと問題なのよ!

家の現状がおかしいっていう内容なのだからお兄様に読まれるわけには……あら?

むしろお兄様が知らなければいけない事ね?


「それよりもアリス。お腹は空いてない? おかゆがあるよ」


お兄様がそう言ったまさにその時。

くぅ、と小さく私のお腹が鳴った。


「……いただきます」

「うん。用意するから少し待ってね」


手に持っていた書写材を置き、椅子から立ち上がるお兄様。

部屋から出て行き、しばらくしてカートを押して帰ってきた。

カートの上にはおかゆや水差しなどが載っている。


「【温めよ】」


お兄様ってばまた詠唱省略してるわ。


「はいアリス、あーん」


スプーンが目の前に差し出された。

お兄様の加温の基本系魔法で温められた麦のおかゆからは湯気が立っている。


あ、あーん、なの……?

あーんしなければいけないの……?


「ほらアリス。こぼれちゃうよ」


う、仕方ないわ。

身体を動かすのも一苦労ですし、ここはお兄様に甘えさせていただきます!


「あー、む!」


もぐもぐ。


「どう? 食べられそう?」


返事の代わりにコクリと頷く。


「良かった。ゆっくりでいいからよく噛んでね。無理に全部食べなくて大丈夫だから」


もう一度お兄様に頷き返してから、私の様子を見つつ目の前に差し出されるおかゆをお腹に収めていく。

最終的に、半分ほど食べてお腹がいっぱいになりごちそうさま。


「今日はもうおやすみ、アリス。疲れたでしょう?」

「はい。おやすみなさいませ、お兄様」


優しく額をなでる手に誘われて眠りに落ちた。


そして翌日、さらにその次の日。

お兄様と本邸から時々やってくる家令のマーカスに世話をされること二日。

ようやくマーカスからベッドを出る許可がおりた。

熱は翌日の昼には下がったものの、一日は安静にしていろと二人から申し渡されたのである。


例の記憶が生えた直後は、欲しい情報を辞書からひとつひとつ拾い上げるように引っ張り出す必要があった。

それが寝込んでいる間になじんだのか、スッと自然に引き出せるようになったのだ。

頭の中を一旦整理するのにこの予備日はありがたかった。


……少しばかり過保護のような気がしなくもありませんけれど。


「ということでアリス、今度から書庫を使うのは私と一緒のときだけだよ」


そんなご無体な⁉


「なぜですのお兄様! それではお勉強ができませんわ!」

「また倒れてしまっては大変だ。アリスは私と勉強するのは嫌かい?」

「嫌だなんてそんな……」


そんなわけがありません!

だから、そんな寂しそうなお顔をなさらないでくださいませ。


「良かった。じゃあ、さっそく行こうか」

「え、今からですの?」

「うん。これ」


目の前で何かをぴろぴろと振るお兄様。

そ、それは……!

私のメモ!


「アリスがどの程度理解できているか確認させて?」

「わかりましたわ、お兄様」


お兄様と手をつないで書庫へ。

鍵を開けるお兄様を待ちながら、椅子はどうするのだろうと気付く。

書庫の椅子は一脚しかなかったはず。


「お兄様、椅子はどうするのです?」

「もう運び込んであるよ……と、開いた」


さすがお兄様、抜かりないですわ。


「ほら、アリス」


お兄様に促されて中へ入り、二脚ある椅子の片方に腰かける。

もう片方の椅子にお兄様が座り、二人でのお勉強が始まった。


「まず、エストリオの辺境伯家は二つ。東のクランベルス、南のランドール。建国当初から続くクランベルス(うち)の方が家格は上だね。ここで確認。辺境伯家の職務で重要なのは何だったかな?」


記憶が生えた上倒れるまで本を漁った私には朝飯前ね。


「隣接する他国、及び魔の森からの魔物に対する防衛ですわ」


魔の森とは、魔物の生息地になっている森の総称。


「正解。特にクランベルス領はランドール領より大きい魔の森があることからも重要視されているんだったね」


だから、領主は領地からほとんど出ることはない……はずなのだけれど。


「私、お父様をお見かけしたことなど一度も無いのですが……」

「うん。私も父上のお顔を知らない」


領地どころか領主邸から出たことさえ無い私たちなのに。


「マーカスが言うには、王都においでのようだ」

「何を考えていらっしゃるのかしら……」

「さあね」


お兄様が首をすくめたところでドアがノックされた。


「昼食をお持ちしましたよ。食堂へどうぞ」


苦笑しながら現れたのはマーカス。

最近はこの別棟に来るのは彼だけになってしまった。

家令であるにもかかわらず、執事のようなことをさせてしまっているのは申し訳なく思う。


「おや、これは……」


マーカスが私の下手な字の羅列に目を止めた。

()めつ(すが)めつ読まれていくのを緊張しながら待つ。

お兄様の教育係であるマーカスの口からどんな言葉が飛び出すのか。


「これを書かれたのは、もしやアリスお嬢様で?」

「そうだよ」


私より先に即答するお兄様。


「なんとまあ。さすがはクランベルスの仔竜、か……」


仔竜?

思わず、といった風に呟かれた言葉に、お兄様と一緒に首を傾げる。


「まずはお食事を。その後少しばかりお時間をいただけますか?」

「わかった」

「わかりました」


食堂でお兄様と昼食を摂った後、マーカスに言われて談話室で待つ。

すぐに戻ってきたマーカスの手には浅い箱が収まっていた。


「これは?」

「中をご覧になればわかります」


マーカスに促され、お兄様が静かに蓋をあける。

中には羊皮紙が紐で束ねられて入っていた。

一番上の羊皮紙、その書き出しには”わたくしの可愛い子どもたちへ”とある。


「これは、まさか……」

「はい。お二人の母君、クラウディア様からお二人へ宛てたお手紙です」

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