初冬
五
『もしも私達にこの先があるのなら、告白できるんだけどなぁ…。最近頭痛が酷くなってきた。』
『後のことは私がなんとかするから告白ぐらいすればいいじゃない。もうこのくだり何回目よ。まぁ、最後まで頑張ってね。』
『今日もご飯を食べて知識を食べています。早く休日来い。睡眠にかじりつきたい。え、まだ告白してないのかよ。後悔だけはすんなよ。』
『…………』
『そろそろ私も勉強しないといけなくなるの?やだなぁ。取り敢えずノート写せる友達作っといて欲しい。』
『…………』
『告るんなら早くしろや!何ウジウジしてんだ!俺は見ることすら出来ねぇんだぞ!やらない後悔よりやった後悔だろーが!』
サザンカ
僕にはやりたいことがない。
だから、周りの誰かにやらされながら生きてきた。
将来のことも考えず、取り敢えず首を縦に振って生きてきた。
「自分に意志を持て!」と言われることも何度かあったけれど、ここまで…高校生まで周りに任せるような生き方をしてきた為、そんなことを言われたぐらいで変われるような柔軟さは既に無くなってしまっていた。
僕の唯一の特技は野球だ。
たとえやらされた物だとしても月日を経て会得すれば特技になるのだ。いや…
特技までにしかならないのだ。
小学二年の頃からやっていて今年で九年目になる。
僕の父は野球バカだ。性格は嫌いではないが、僕がまだ野球を好きでいると思っているところだけは到底好きになれるものではなかった。
僕が野球を好きだったのは小学校までだった。
今は高校二年の十二月、初冬だ。
今日も身支度を整え、通学用鞄と野球用のバッグを持ち家を出る。
野球部は坊主頭という印象が強いが、今は育毛の季節。
僕は来年の三月まで、練習試合が始まるまでは髪を切るつもりは無い。寒いもん。
寒さが体に染みるが、幸い家から学校までは徒歩十分程度で走れば五分とかからない近場だ。
親が僕にこの学校にするよう勧めた理由は、部活の送り迎えが面倒臭いからだそうだ。
昔は、野球部が強豪だったらしく学校の隣には専用のグラウンドが設置されていて試合は九割方うちの高校で行われている。
理由が少し適当な気もするけれど、家が近いことには感謝しているので異を唱えたことはない。
昨日キャプテンが言っていた通りなら、今日の部活の内容は恐らく筋トレだ。だるい。恐らく帰りは九時頃だろう。
そんなことを考えて道端を眺めていると、立派なサザンカが咲いていた。
サザンカの花言葉は「困難に打ち勝つ」
「余計なお世話だ。」
そんな独り言を言いながら独り学校までの足取りを早める。
別にぼっちじゃないけど。
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