長めの前置き…
俺は白鳥俊也…
親しいヤツらは俺の事を
“シャチ”と呼ぶ……
【トシちゃん】だの【トシヤちゃん】だのが変形してそうなった…んじゃないか、て記憶してる…
進学校として、そこそこ名の知れた私立聖十字学園高校の2年生だ
だが、成績は悪いし、サボリがちだしで、いわゆる落ちこぼれ、て奴に…なりかけてる……
え?なってる、て?いやなってないよ。うん、なってない……
趣味といやぁ、街をブラつく事とギターの弾き語り…それにダチに工学博士がいるんだが、週末はよくそいつのエキセントリックな実験の手伝いをしてる。勿論ダチと言っても工学博士だから年齢は俺よりかなり上なんだけどさ
奴の名は【此之地治】通称…
ないアル!
語尾に『ないアル』を付ける事からそう呼ばれている…さて今日は水曜日…金曜まではあと2日かぁ…今日は嫌いなヤツの授業が結構続くんだよなぁ……
俺の足は学校とは違う方向を歩き始めた……
が……
『シャチく〜〜ん!!』
後ろから突然聞こえてきたその声に俺は思わず
『うおうわぁあ゛あ゛〜〜!!』
「そんな大袈裟な…さてはまたサボろうとしてたでしょ?なるほど、いつもここで方向転換してるんだ…」
彼女の名前は天野里奈
通称リン…
“里奈ちゃん¨が多分短縮した物で小さい頃からそう呼ばれてた…と本人が言ってた
転校生…
目がパッチリした美人で、ショートよりは少し長めの髪型をしてる
ハッキリ言って俺の好みだ
成績も良く、明るくハキハキ物事を言う性格なので、早くも目立つ存在になっている…
冷静さを取り戻した俺は
「いや……………ちょい散歩しようと思っただけだよ………」
いや、まだ慌ててたな
「そんな見え透いた…とにかく今日はサボっちゃダメだよ!」
「サボれないよ…今ここで君に見られちゃな…君も俺に構ってると遅れるぞ」
時計を見るリン
「あ゛ーー!!本当だぁーー!!走る!走るよ!シャチくん!」
「え!?…ああ!」
俺はサボリ魔の帰宅部だが、鍛えてるから足にはそこそこ自信があった
が…
「(コイツ速ぇ!)」
物凄いスピードで疾走するリン……
そりゃそうだ、彼女は400mだか800mで国体に出るとか出ないとか言われてるヤツだ…
それに合わせて俺も必死こいて走らざるを得なかった
時計を見るリン…
「どうやら間に合いそうだよ!」
…俺とリンは足を緩めた…
「すごいね!陸上部入る?」
「いや……やめとく……なあ……こっから別々に行った方がいいよ。変に疑われるのは鬱陶しいからな」
「え……うん……」
「あ……天野さん…」
「なに!?」
「ありがとう…」
「え…そんな…別に…ねぇシャチくん…私の事は“リン”でいいよ……」
「ああ、そうかリン…じゃあ……」
少しテレてる彼女の表情を俺は初めて見た……
短い、ほんの数分だったけど、何か特別な時間に感じた…
だが教室に入りゃあ、いつも通りの退屈が俺を待っていた…
「おお、シャチ!」
「おいおい、お前が遅刻しないなんて、いつ以来だ?」
ヤツらは大笑いしやがったから…
「うるせぇぞ!てめぇらァ!」
怒鳴りつけてやった
「おお〜すげぇ迫力!さすがヴォーカル!」
ヤツらをシカトして席に向かう途中……
「あ、あのさぁシャチ…」
「ああ、レイア…」
レイア…出口玲亜……俺の中学時代からの同級生で、俺はコイツのお陰でこの学校に入れたと言ってもいい…
「土曜日に学童クラブのイベントがあるんだけど、そこで歌ってくれないかな…」
「おおいいぜ!金曜から、ないアルの所に入り浸りになってると思うけど、そっから直行するぜ!ガキどもにも会いたいしさ!」
「ありがとう!時間は午後の1時からだから…あの子達もシャチお兄ちゃんに会いたがってると思うから…」
レイアは将来は保育士になるのが夢で、今も学童クラブで手伝いをしている
いっけね、前置きがかなり長くなっちまった…
もともとこれは、俺とダチの工学博士ないアルの話だったんだ!
待ってろ、ないアル!金曜の授業を終る所まで時間を飛び越えて、お前の研究所に行くぜ!