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或る月の陽  作者: 猫のテ
夜の夜
3/3

くもの模様

 (ただ)れたようなアスファルトへ、烈しく降り落ちる藍の花火。瑞々しい波を震わせては跳ねる火花の枝の青々と散る傘下(さんか)

 アクアの夜、下手に泳ぐ紅傘に透く片割れに掬われた月。その極大な虹彩は煌々として。この荘厳の下で地を這い回る私の足跡は水紋へ、(たわ)む電線の擬態の下にうつろうつろと残していく。ふれる紫陽花(あじさい)の匂いとともに冷たく噛みしめるは鋭い雨風。頽廃つづく商店街の錆とともに吹き抜ける私は聞く、俄かに近づくメタリックな喧騒を。(くぐ)り抜けるネオンビルボードは夜半の(かげ)りを滴らせ。

 私は踊らされるままにイチョウの樹、並び立つ大通りの眩しさへ流れ出た。幾つもの影を伸ばす黄緑のしなりの間にはモノクロームな機械その奔流。それらは誇らしげな鼻を見せ、霧を吐いて吐いて。宙には水の轍の尾。川の如くの目抜き通り。

 信号は赤。

 目下の雨に濡れるアスファルトが、それを照り返して血の色を映している。イチョウのそのごつごつとした木の肌を左手で(とら)えて、そして少し頬をさらしては地平線を覗く。真っ黄の並木や緑の水銀灯、夥しい機械の仮面に、積み上げられたビルディングは果てしなく。

 私はこの惑星の上にあるホムンクルスの誤謬に似た無限をぼぉっと眺めていた。何か目を奪われていた。一陣の風。緩めてしまった右手から傘が跳ね上がる。その傘を捉えようと見上げた夜空に、幽かに陰の月の美しさを見た。

 銀の細い雨の音。私は雨の冷たさを心地よく感じては、風と一緒に横断歩道を渡っていった。雨の斜めに身体を傾けて、その線を辿っていって。次第に雨が私から上に降る錯覚に襲われたのは。

 信号は青。

 目下の雨に濡れたアスファルトが、それを照り返して葉の色を映している。緋の傘が、影の重ね塗られる歩道の上でからからとまわっている。私は冷えた柄を握ってふわりと拾い上げ、閉じては携えた。

 しんと降り始めた雪の音。それはカラフルなネオン彩る街の輝きへと消えていく。隣を飛んだかささぎの澄む(さえず)りは電線から。灯りに浮き上がるフクジュソウの蕾の膨らみは何とも可愛らしい。

 ゆさり降り枯れた並木のスリットから、サイケデリックに過ぎて行く仮面の目。その光が多くの影を生んでは、私を軸にして反時計回りに弧を描いて消えていく。大通りに沿う私は可笑しく思いながら白い息。

 星と月を藍の天へ散りばめた夜。

 躍りだす影の戯れは万華鏡のよう。

 雪を透く明かりは地へ柔らかく織る。

 溶けゆく街路灯とネオンサインを縒る。

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