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金目
水と風とが混じりあい、淡い硝子越しに夜の音色が響いてくる。大窓に降り拉いていく糠雨の、引っ掻き跡が揺れては流れる。ふと気が付けば、透いた四角の向こう側に無窮の夜空が広がり、星と雲の悠々とした層がそれと擦れ、正に夢幻の轟音を鳴らしている。
丸い壁掛け時計に目を向ければ。瀟洒な針の重なりは、雪色の円板を背に日の始まりを指して。或いは、丸時計の黒い縁の木が少し欠けたのを。
私はオンボロの外套を引っ掴んでは仄暗い廊下奥の玄関へ、ぶかぶかなそれを羽織りつつ向かう。揺れる粒と流れる粒とが、ダンダンと扉を叩く音の激しくなる。ひどく艶かしい靴音。傘立てにした深壺の金糸雀色から紅布の傘をぐっと引っ張り出す。全て懐かしい匂いがした。
あの扉の小さな隙間。そこから泥濘んだ夜が滲みだしている。僅かに漂うそれを踏み込みながら押し開く。忽ちに月の光。遅れてぬめる雨となめる風がぶわると雪崩れ込み外套を帆のように煽る。負けじと私は深藍の夜の帳のべとつきに握る和傘の深紅を突き刺し、バッと回すが早いか闇の中へ思い切り飛び出した。