シーラカンス
私は横長なソファの背に踵を引っ掛けては、ダラァッと垂れ下がっていた。褪せたテーブルの裏側と、そこから覗くブラウン管の白白とした灯り。そのモノトーンをじぃっと見つめていた。何となく、唇から「ア」の断続音を流しながら、声と光の波と色をぶつけ合う妄想をして。それから、片っぽの踵を外してジダンダと空を踏んでみたり。頭を揺らし動かし灯りを大きくしようとしてみたり。そうしながらにゅるりと滑り落ちる。
ぐったりとソファに座り直る。目を落とす。瑠璃色の夜にスパッタリングされた様なテーブル。その表面には、派手な色合に積み上げられたマガジンに齧りかけのドーナツ、果てには薄汚いドールまでもが犇めく。まるで瞳の中にわらわらと群れ廻るよう。それは無気味な極彩色の薫りを醸しては、私を脅かしている。目を逸らす。
不意に立ち上がる。私は部屋を意味もなく唯ぺちぺちと歩き回った。覆う薄色のカーテンの、透きとおる裾を足でヒラリと弄ぶのは。或いは。朧げな部屋に、ブラウン管の灯りが私のマクロな影を映し続けている。揺蕩う影は、空の本棚やベッドの脱け殻に重なり人の形を崩してニヒニヒ笑っているよう。
私は思わず怖くなってしまって、広いカーテンを掴み開いた。ふらり旗めくカーテンの音。朝と夜が滑り込む。
茜から紺青へ、部屋の大窓はなし崩しに塗られていく。その甚だしいグラデーションにゆらりと染まりながら、檸檬色の太陽を空想しては。
そうして私は蒼い声で泣いた。