Data.9 弓おじさん、ゴリラと戦う
まず、ゴリラと戦うにあたって絶対にやってはいけない事がある。
それは『こっちの位置を悟られること』だ。
位置がバレれば接近される。
あの巨体で走られたら、すぐに追いつかれるだろう。
馬鹿正直にまっすぐ矢を飛ばしてはいけない。
ここで役に立つスキルがある。
「バウンドアロー!」
ゴリラを避けて、その向こうの木の幹に矢を当てる。
すると矢は跳ね返ってからゴリラに当たる。
これで正面から矢が飛んできたと錯覚させることが出来る。
しかし……全然ダメージが入ってない!
一体バウンドアローで倒すには何百発撃つ必要があるんだ……?
幸い、威力が低すぎるせいでゴリラはまだ寝ている。
今のうちに連続発射だ。
キリリリリ……シュッ! シュッ! シュッ!
20発ほど当てたところで、ゴリラの体がピクリと震えた。
やっとお目覚めか。
ここからは、矢をバウンドさせる回数を増やして、より矢を遠回りさせて当てないといけない。
後ろから飛んできた矢が木で跳ね返る瞬間を見られたら意味がないからな。
だが、こうなるとバウンドを増やした分、矢の進む距離は長くなり威力が低下する。
なんとかHPゲージを4分の1削ることが出来たんだ。
根気よく攻撃を続けるしかない。
ありがたいことにゴリラもまだ混乱して……ん?
あいつ、手に何かを持っているぞ。
黒い塊だ。
「まさか……」
そのまさかだった。
ゴリラは巨大なフンを手に持ち、矢が飛んできた方向に思いっきり投げつけた。
バキバキと木々をへし折って黒いフンが飛ぶ。
と、とんでもない威力だ……。当たりたくない。
いや、威力がなくても当たりたくない!
リアルな世界が再現されたこのゲームで、フンまみれになるなんて想像もしたくない!
さっさと倒してやる……。
「あっ……! バウンドさせるための木が今ので折れた……!?」
バウンドのさせ方を変えなければ。
今度は両側面から挟み撃ちだ。
ゴリラに対して斜めに矢を撃ち、ゴリラの横にある木にバウンドさせて当てる。
これを左右同時に行うことで、あたかも敵が二人いるように見せる。
しかし、ゴリラはこれに対してもフンを投げ、まず右の木々をなぎ倒してしまった。
間髪入れずにフンを握り、左の木々も倒しにかかる。
このままじゃ、いずれ俺の方にも飛んで来るぞ……。
HPゲージは残り半分強。
位置バレ覚悟でインファイトアローを連発しても倒しきれない。
さて、どうする……。
ゴリラは片足に体重を乗せ、大きく振りかぶって今にもフンを投げようとしている。
「そうだ! 今しかない! インファイトアロー!」
ギリリリリ……ビュッ! ザグッ!
パワフルな矢はゴリラの膝に直撃した。
ただでさえ弱い関節に、今は体重も乗っている。
ダメージ倍増だ!
さらにバランスを崩して地面に倒れこむ。
ダメージ追加だ!
HPゲージがこれまでで一番大きく削れる。
ここにさらに追い打ちをかける……!
「ウェブアロー!」
手に入れたばかりの新武器。
そのスキルは粘着性のあるクモの網。
ゴリラをべたべたにして地面にくっつける。
動けなくなったところで、あとは撃つべし!
「インファイトアロー! インファイトアロー! インファイトアロー!」
HPゲージが赤く染まり、ついにすべてを削りきった。
「ふぅ……。危ない危ない……」
ボスゴリラをなんとか仕留めることができたぞ。
最後まで網を引きちぎろうとしていたし、油断の隙もない強敵だった……。
少し前の装備もスキルも揃っていない俺なら、なすすべもなく負けていただろう。
成長を実感できたな。
そして、ゴリラに勝ったことでまた成長する。
レベルはついに10となった。
これで今回の冒険の目標は達成できた。
「そうだそうだ。ゴリラが落としたアイテムも確認しなければ」
手に入れたのは両腕防具。
ちょうどまだ何も装備してない箇所だ。
その名も『森の賢者の拳』!
◆森の賢者の拳
種類:グローブ 防御:30 射程:50
武器スキル:【ブラックスモッグ】
【ブラックスモッグ】
強烈な悪臭を放つ黒い塊を生み出す。
物に当たることで破裂し、周囲に黒い煙をばらまく。
装備してみると、なかなかゴツいゴリラの拳だ!
こんな力強い見た目なのに攻撃は伸びず、一番伸びるのが射程なのか。
まあ確かにゴリラって意外と繊細な生き物だって聞いたことがあるな。
その拳でなにかをぶん殴って壊しているイメージより、ドラミングしたりフンを投げて威嚇してるイメージの方が強い。
そういう意味では、納得の性能なのか?
……それは今は置いておこう。
気になるのは武器スキルだ。
完全にフンを生み出すスキルだが、まさか俺の尻から出てこないよな?
リアルな感覚まであるなら人前で使えないぞ?
いや、一人きりの時も使わないぞ?
いや、考えすぎは良くない。
そもそも『フン』とは明言されていない。
あくまでも『ブラックスモッグ』だ。
煙幕というのは射手と相性が良い。
間違いなく戦闘能力は強化された。
でも、やっぱり気になるよね。
どこからそれが出てくるのか。
「ブラックスモッグ!」
もりっと黒い塊が出てきたのは手のひらの上だった。
お尻がムズムズすることもないし、黒い塊も見た目は完全な球体だ。
忍者が使う煙玉みたいだな。
これなら人前でも使える。
「でも、この段階でかなりくっさいっ!」
思いっきり黒い球体をぶん投げる。
投擲にも射程は反映されるようで、かなり遠くまで飛んで黒い煙をまき散らした。
遠目に見ても濃い煙だし、身を隠すには十分だ。
ただ、中には入りたくないな。
あくまでも敵の視界を遮る壁にしよう。
さて、レベルも上がり、スキルも覚えて、装備も手に入った。
初のイベント『アンダーⅩバトルロイヤル』に参加する準備は整いつつある!
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