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Data.80 弓おじさん、金牛の試練

 翌日――。

 一晩経って冷静になったので、もうメダルを渡すことを渋りはしない。

 ちゃんとスクショも撮ってあるし、思い出は十分さ。


『はいは~い! 金メダルを確認したにょん! もう外してもらっても構わないにょん!』


 金メダルを渡す必要はなく、装飾枠に装備して見せればいいだけだった。

 最初は本当に金メダルを回収していたらしいが、持っておきたいというプレイヤーの意見が多かったので変更したらしい。

 しかも、すでに回収してしまったプレイヤーへの返却も済んでいるという。

 人間がやると相当めんどくさい作業も、AIにはサクッと出来てしまうんだなぁ。


『まずはメダルをプレゼント!』


 手渡されたのはおひつじ座(アリエス)メダル。

 表には星座、裏にはもこもこの羊が描かれている。

 カッコイイというより、カワイイだな。


『そして、ご褒美はこちら! 『雲羊のもこもこウール』だにょん!』


 お世話になった雲羊の毛がご褒美だった。

 何度触っても、もこもこの肌触りは最高だ。

 それに雲関係ということはもしかしたら……?

 早速ウーさんの工房に行ってみよう。




 ◆ ◆ ◆




 受付の天女さんに『雲羊のもこもこウール』を見せ、使い道をウィンドウで表示してもらう。

 ……やはりな。

 この素材は『雲渡(くもわたり)足袋(たび)』を進化させる素材になる!


 現在、風雲装備の修理と進化を依頼してから3日目の朝だ。

 修理の方は完了していて受取ことも出来るが、俺としてはすべての作業が完了してから一括で受け取りたいと思っている。

 ここでさらに『雲渡の足袋』の進化を依頼すれば、1日作業完了が遅くなるが……まあ問題ないな。

 進化させないという選択肢はないのだ。


「これでお願いします」


 受付の天女さんに進化を依頼する。

 これで受け取りは2日後の午後になる予定だ。


「承りました! あ、こちらはたくさん依頼をして頂いた方にお渡ししている『仙桃』になります!」


 天女さんが思いだしたかのように光り輝く桃を取り出す。


「こちらはお師匠様の大好物で、1つ渡せば1つの依頼が一瞬で終わります! 不思議な仙桃の力でやる気とパワーがみなぎるそうです!」


 いわゆる時間短縮系アイテムか。

 何かを作り出すのにリアル時間を要するゲームではよく見る。

 便利な分、手に入れるにはそれなりに手間がかかるのが通例だが、はたしてこの1個をここで使うべきか……。


 いや、温存しておこう。

 もしかしたら他にも戦闘要素のない試練があって、そこのクリアに何日もかかるかもしれない。

 そうなれば早めた意味がなくなる。


 残りの試練が戦闘を伴うものばかりなら、すぐに仙桃を使うとしよう。

 メダルを半分以上ゲットし、俺も最終決戦を意識し始めた。

 だが、結局のところサーペント・パレスの詳細はわからない。

 変に焦る必要はないが、早め早めの攻略を心掛けるのも悪くないだろう。


 さて、用事は済ませたし次の試練に向かうか。

 挑むのは白羊迷宮から一番近いおうし座の金牛迷宮だ。

 今回は内容を事前に把握していない。

 何が出るかは……行ってからのお楽しみだ。




 ◆ ◆ ◆




 金牛迷宮のチャリンはアメリカンなカウガールか、牛柄の服のどちらかだと思っていた。

 どちらにしろセクシーな衣装になりそうだなぁと勝手な想像をしていた。

 しかし、実際のチャリンは金の装飾が非常に目立つ派手な衣装を着て、片手に剣、もう一方には赤い布を持っていた。

 この時点で俺は試練の内容を察した。


『金牛迷宮にようこそ! ここでは闘牛に挑戦してもらうにょん! でも、普通の闘牛ではないにょん!』


 闘牛士(マタドール)スタイルのチャリンが思っていた通りのことを口にする。


『まず、対戦相手の牛さんは倒せないにょん! 無敵というわけじゃないけど倒せないんだにょん! そしてこの牛さんと戦って3分以上生き残れればメダルゲット! 5分間生き残れればご褒美ゲットだにょん!』


 つまり、逃げの5分間ということか。

 無敵じゃないということは、一部スキルの効果で足止めは可能なのだろう。

 しかし……もっと単純で簡単な抜け道がある。

 全プレイヤーに出来る芸当ではないが、俺や一部プレイヤーには可能な攻略法……。

 それは空中にとどまることだ。


 闘牛は柵に囲われたフィールドで行われるが、空中に逃げられないようにドーム状のバリアも張ってある。

 このバリアの天井はあまり高くないが、ろくにジャンプすら出来ない牛の突進から逃げるには十分な高さだ。

 天井ギリギリの位置で滞空していれば無敵になる。


「雲渡の足袋だけでも貰って来れば良かったかな……」


 武器スキル【浮雲】は雲の足場を空中に作るスキル。

 1つの雲で5分浮いてられるので、簡単に試練をクリアできてしまう。


 今も複数ある闘牛場の1つで、俺の考えた作戦が実行されていた。

 魔女っ子っぽい女の人が、ホウキに乗って滞空している。

 この滞空スキルが5分維持できるなら、彼女はもう待つだけでいい。

 ちょっと試練の作りこみが甘……くはなかった。


 モオォォォォォォォォォーーーーーーーーッ!!!


 前足でガリガリと地面を蹴って怒りを(あら)わにした牛は、角を地面に突き刺しボコッと土を掘り返すと、その勢いのまま土を弾丸のように空中にぶん投げた。

 完全に油断していた女性はその土に直撃。

 真下で待ち構えていた牛の角になすすべなく貫かれた。


「がはっ……!」


 妙に生々しい悲鳴を残し、彼女は光となって消滅した。

 もちろん死んだわけでも、本当に体を貫かれた痛みがあったわけでもない。

 きっともうどこかで復活して、悔しさで地面を蹴っていることだろう。


 それにしても、『雲渡の足袋』を置いてきて良かった……!

 装備していたら調子に乗ってすぐ試練に挑戦し、彼女のように角の餌食になっていた。


 まずは他のプレイヤーの試合を見て対策を練ろう。

 攻略のセオリーのようなものが見つかるかもしれない。

 ちょうど人だかりが出来ている闘牛場がある。

 きっと、上手いプレイが見られるはずだ。


「あ……っ!」


 闘牛場のど真ん中で、牛を避けることもなく盾で受け止め、不動の姿勢を保つ男がいた。

 ギルド『正道騎士団(ストレイトナイツ)』の第3職(サード)、バックラーだ……!

 彼は5分間この状態を保ち、見事にメダルとご褒美を手に入れた。

 観客たちは拍手喝采で彼を(たた)える。


 盾も鎧も以前とは違う。

 より頑丈さを追求したような分厚い物になっている。

 しかし、忘れようのないあの顔はバックラーその人だ。


「久しいなキュージィよ」


 バックラーがこちらに向かってくる。

 やはり向こうも俺のことを忘れていないようだ。


「ええ、陣取り以来ですねバックラーさん。名前を憶えていただけるなんて光栄です」


 素直に気持ちを伝えたつもりだが、少し嫌味ったらしくなったかな……?

 ちょっと不安だったが、バックラーは大笑いして答えた。


「それは当然のこと! このゲームの顔であり、トッププレイヤーの1人に数えられる男の名を覚えていないなら、そいつはモグリだ」


「あはは……それはありがたいですね」


 あまり露骨に謙遜は出来ない。

 俺は彼を倒したことがある。

 自分を下げる言葉は、彼のことも一緒に下げかねない。


「ほう、この試練に半端な防具は邪魔なだけと知って初心者装備で来るとは(いさぎよ)し! 主力装備を破壊されるリスクも回避できて一石二鳥だ! 流石は俺を倒した男!」


 こんなに褒められると偶然と言うどころか、さっきまで装備を持ってくれば良かったと後悔していたとは言えない……。


「メダルも順調に集めていると聞いている! いずれ最終決戦に挑むのだろうが、俺の方が早いかもしれんな!」


「いやぁ、プロの方には(かな)いませんよ。やはり、サーペント・パレス一番乗りを目指しているんですか?」


「もちろん目指してはいる! しかし、強いプレイヤーというのはいくらでもいるからな! 一番になると保証は出来んのだ! ハッハッハッ!」


 強いプレイヤーがいくらでも……か。

 今回のイベントが対人戦ではなかったことに感謝するばかりだ。


「まあ、いずれそのような奴らと(あい)まみえる時も来よう! なんだかんだ一番盛り上がる祭りは人と人との戦いなのだ! もし、お前さんと再び戦う機会があれば、俺も負けるつもりはない! そのつもりで準備をしておくことだ!」


 バックラーは去っていった。

 相変わらずいろんな意味で存在感がある人だ……。

 いま風雲装備があったとして、彼と戦ったら勝てるだろうか?

 陣取りの時はイベントのシステムに助けられただけで、素の実力で勝ったとは言えない。

 もし、これから先バックラーのようなプレイヤーと対等な条件で戦うことになれば……。


 やはりもっと強くなる必要がある。それは喜ばしいことだ。

 前に進みたいという気持ちは、ゲームを遊ぶ大きなモチベーションになる。

 まあ、現状かなりモチベーションは高いのだが……な。

 むしろ最近は1日かけて1つの試練を遊んでいるのだから熱中しすぎだ。


 今回は牛を倒さない闘牛の試練。

 クールにひらりひらりと危険を回避し続けて、見事クリアしてみせよう。

 俺も保証は出来ないけど……。

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[一言] バクラ……じゃなくてサトミ君なら楽そう。
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