Data.58 弓おじさん、天蝎の試練
「いいですよ。強制的に4人パーティになるなら、私も見知った人と一緒の方が安心ですから」
「おおっ! 感謝感激雨あられだよ、おじさま!」
とりあえずハタケさんとは組むとしても、天蝎迷宮は4人パーティで挑まなければならない。
ソロで入るとランダムマッチングで人数が補充されるらしいので、2人で入ってもやはり他の見知らぬプレイヤーがパーティに入ることになるだろう。
そこのところ、ハタケさんは気にしていないのだろうか?
4人パーティを要求されるということは、それなりに難易度も高そうだが……。
「それ見たことかペッタ! おじさまはボクのお願いを聞いてくれたよ!」
「ちぇっ、俺がお前に負けるとは……思った以上に屈辱だ」
ハタケさんの背後から現れたのは、ショートの青髪が特徴的な人だった。
クールビューティのようで、どこか中性的。少年っぽさも感じさせる絶妙なキャラクターメイクだ。
そして、俺はこの人を見たことがある。
「あなたは確か……陣取りの時にもハタケさんと一緒にいましたよね?」
「ああ、残念ながら同じギルドだからな。俺の名前はペッタ。こんな見た目と喋り方だが女だ。リアルも含めてな。職業は第2職『トランぺッター』だ」
陣取りの時は、てっきり男の子かと思っていたが女性だったか。
それにしても、『トランぺッター』って何系統の職業なんだ?
初期職の『戦士』『魔法家』『射手』から分岐した職業とは思えないが……。
「やはり、話題沸騰の有名ゲーマーなだけあって、まず職業のことが気になるって顔してるな。お察しの通り、トランぺッターは正当なクラスチェンジではない。初期職のレベルを限界まで上げて、さらに条件を満たすことでクラスチェンジが可能になる特殊クラスなんだ。まあ、俺の場合は偶然条件となるアイテムを拾っていたんだがな」
そんなシステムがあったのか……。
『特殊クラス』、なんと素晴らしい響きだ。
「ちなみに、すでに第2職でも条件を満たせば他の第2職にクラスチェンジすることが可能だ。レベルは前職と同じになるから、クラスチェンジを繰り返せばたくさんレベルを上げられて強くなるということはない。スキルも基本的には職業や武器に依存しているから、同じ職を続けた方が増えやすい」
なるほどなぁ。
第2職から第2職へ、いわゆる横のクラスチェンジも可能なのか。
俺は弓を使って射程を伸ばすと決めていたから、第2職も『弓使い』から変えたいと思うことはなかった。
でも、職業が思ってたものと違うと感じて、変えたいと思う人も結構いるはずだ。
それに後から変えられないと、特殊クラスチェンジのシステムが腐るからな。
ペッタの話では、特殊なアイテムを所持していることで特殊職へのクラスチェンジが可能になるらしいけど、なかなか偶然そういうアイテムを持ち合わせていることはないだろう。
後からでもチェンジ出来ないと、よほど運の良い人しか特殊クラスになれなくなる。
「それで……トランぺッターってどんな職業なんですか?」
思わず聞いてしまった。
手の内を明かせと言ってるようなものだから失礼極まりないが、特殊なクラスというカッコいいものへの興味を抑えられなかった。
「まあ、詳しくは明かせないが、音による攻撃と……味方へのバフが得意……かな」
「へぇ、味方へのバフが……」
ハタケさんと役割が少し被ってないか?
歯切れの悪さからして本人も気にしていそうだが、やはり俺も気になった。
陣取り合戦の終盤、彼らのギルドは少数精鋭で敵軍の本拠地に攻め込んでいたわけだが、バフ要員を2人も入れていたのか……。
ギルドのメンバー構成が気になるところだ。
「勘違いしないで欲しいんだが、俺は別に誰かをサポートしたくて『トランぺッター』を選んだわけではない。選んだらそういうスキルも覚えただけだ。本当の理由は『音』による攻撃に魅力を感じたからだ」
「音による攻撃……?」
「RPGでまれに楽器を武器にした職業があるだろ? それってつまり音で攻撃してるってことだ。同じことをVRゲームでやったら相当強くないか……と思ったんだ。だって、音なんだから目に見えない攻撃だぜ?」
「た、確かに……」
それは面白い発想だ……!
俺がVRMMOはマップが広いんだから射程を伸ばして遠くからチクチク攻撃すればいいと思ったように、彼女もリアルに近いVRゲームでは音による見えない攻撃が強いのではないかと考えたのだ。
従来のRPGでは楽器を武器にした職業の戦闘能力は低いことが多かった。
しかし、現実で音を武器に出来たら盾では防ぎようがないし、どこまでが攻撃範囲かもわからない。
これは……かなり強いんじゃないか?
もっと詳しく聞きたいが、それはマナー違反だろう。
でも、戦っているところを見れば何かわかるかもしれない。
「ペッタさんとハタケさんは同じギルドなんですよね?」
「そうだが」
「今も一緒にいるということは、ペッタさんも天蝎の試練に失敗したんですか?」
「俺は一発でクリアしたが、こいつに泣きつかれたのでな」
ハタケさんを指さすペッタさん。
泣きつく姿が容易に想像できると同時に、彼女は人を放っておけない性格なんだなとわかる。
「でも、ペッタだけじゃ不安だったのだよ。何しろ彼女は……」
「おい! 余計なことを言うな!」
「なぜなんだい? どうせ迷宮に入ったらすぐバレることさ」
「なら迷宮まで待て!」
「仕方ないなぁ……。じゃあ、おじさま! 天蝎の迷宮に出発といこうじゃないか!」
非常に不安な気持ちになるところで話題を切られたな……。
やはりハタケさんは、俺を過酷な環境に放り込む存在なのかもしれない。
◆ ◆ ◆
天蝎の迷宮は砂漠にあった。
真上に昇った太陽のジリジリとした日差しを浴びながら、俺たちは砂の上を進む。
「おじさま! 着いたらすぐに迷宮に入れるように、迷宮の特殊ルールの説明を移動中にしておくよ!」
「それは助かります」
「まず、迷宮の入り口はピラミッドなんだ。非常にスクショ映えする素晴らしいピラミッドだよ」
それは黙っていてほしかった……。
初めて自分の目で見て感動したかった……。
「そこのチャリンくんの見た目は……」
「そ、それはいいです。迷宮の中のことを教えてください」
「あ、そう?」
そこまでバラされたらたまったものではない。
彼女がどんなコスプレをしてるのか、毎回割と楽しみにしてるんだ。
「迷宮はずっと言っている通り4人パーティ限定だよ。ユニゾンも1人として扱われる。まさか、おじさまがユニゾンまで従えているとは……本当にありがたい! これで4人揃ったじゃないか!」
「ど、どうも……」
ガー坊は今は引っ込めている。
太陽照りつける砂漠の上を泳がせるのもかわいそうだからな。
「さて、メダルの獲得条件は最奥のボスを倒した際に生き残っていることさ」
「そこは非常にシンプルですね」
「すべてが割とシンプルなのだよ。だからこそ厄介なのだがね。ご褒美の獲得条件は、迷宮内に出現する『ヘルスティンガー』というモンスターを5体倒してからクリアすること。そして、この『ヘルスティンガー』にキルされたプレイヤーは……蘇生できない。つまり、その時点でメダルは貰えなくなるのだよ。たとえ残ったパーティが試練をクリアしてもね!」
「あ、じゃあ、ハタケさんは……」
「刺されたのだよ……! ものの見事にね……! まさに一発で地獄行きさ……。いや、今のは比喩表現で、本当は即死攻撃なんてしてこないので安心してくれたまえ。ただ、他のモンスターよりは群を抜いて強いということは確かなのだよ」
強くて危険なモンスターをたくさん倒せばご褒美が貰える……か。
確かにRPGとしてこの上なくシンプルなルールだ。
「おっ、ピラミッドが見えてきたぜ」
ペッタさんが指さす先には、ネタバレ通りピラミッドがあった。
まあ、バラされた後に見ても全然感動できる建物だ。
リアルのピラミッドを間近で見たことがないというのもある。
そして、ここのチャリンの姿は……褐色の肌と露出の多い服、金の装飾をつけたエジプト娘風だった。
しかしながら、髪形は変えても金髪は変わっていないので妙な違和感がある。
こういう服装にはやはり黒髪が似合う。
『ここの迷宮のルールは簡単! ボスを倒すその瞬間まで生き残っていれば合格だにょん! 追加でヘルスティンガーを5体倒しておけばご褒美をプレゼント! さぁさぁ、みんなピラミッドへゴーだにょん!』
「ボクたちもピラミッドにゴーとしゃれ込もうじゃないか!」
ハタケさんに引っ張られるように迷宮の中へ。
外観と同じく、中も積み上げられた石の壁の迷路が広がっていた。
古いアクション映画なら、床が抜けてトゲだらけの穴に落ちそうになったり、壁のどこかに隠し通路が合ったり、長い直線で転がる岩に追いかけられたりしそうだが……。
とにかくこのダンジョンにも制限時間はないし、ゆっくり進もう。
「こっちだよおじさま! 前回の挑戦でこっちは安全だと判明してるんだ!」
「そ、そうですか……」
だ、大丈夫だろうか?
このダンジョンは毎回ランダムに構造が変わったりしないのだろうか?
その不安に応えるかのように、ハタケさんの近くの壁がガラガラと崩れた。
中から現れたのは……赤黒い巨大サソリだった。
「あ、見たまえ! これがヘルスティンガーさ! こいつにキルされると今回の挑戦も失敗さ! だから……助けてくださーい!」
言わんこっちゃない……とは、このことだな。
まあ、こうなる覚悟は完了している。
「ペッタさん、バフかけてもらえますか? あのサソリは硬そうなの……で……」
「ひぃぃぃ! やっぱ俺、虫っぽい生き物ダメっぽいんだよなぁ……! 知ってる? サソリってクモの仲間なんだぜ……! 気持ち悪い……! ほっとけないからついてきちゃったけど、やめときゃよかった……! もう一回こいつらを倒すなんて……! こ、心の準備をさせてくれ……!」
「ええ……」
これは……流石に想定外だ。
ついに年間VRゲームランキングで1位になりました!
ありがとうございます!ただただ感謝しかありません!
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